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列島縦断ネットワーキング

[京都]

伝統ある京都からの”新しい障害者福祉”

第1回目の地方情報は、歴史ある伝統の街「京都」から〝新しい障害者福祉〟を発信していきたいと思っています。昨年の「遷都1,200年」というイベントを過ごした京都は、新しい時代を迎えています。これからの障害者福祉を考えた〝新しい取り組み〟も数多く見られる状況に、京都は、変化し続けています。今回は、幾つかある「期待される事業」の中から、よりすぐりの3事業を紹介します。全国各地で障害者福祉に携わっている方々が、何かの参考にしていただければ幸福です。

障事者自立生活問題研究所所長 谷口明広

京都市重度身体障害者移動支援事業の内容と現状

 京都市重度身体障害者移動支援事業は、平成5年度末に、社会福祉法人京都身体障害者福祉センターに対して京都市から委託を受け、平成6年度から本格的に京都市洛南身体障害者福祉会館にて事業実施しています。

 その内容に関して、利用対象者は、肢体不自由、視覚障害、平衡機能障害、心臓機能障害、呼吸器機能障害、腎臓機能障害、ぼうこう又は直腸機能障害、小腸機能障害の3級以上の身体障害者手帳の交付を受けておられる方15名以上で構成されている障害者団体となっています。

 その事業内容は、

(1)京都市が主催する事業に参加するにあたっての移動

(2)障害者団体の独自事業を実施するにあたっての移動

と限定されており、移動支援を行う範囲も京都市内のみとなっています。

 事業の実施時間は、午前8時30分から午後5時までとなっており、12月29日から1月3日までの年末年始は休業にしています。その他にも、車両の定期点検時期および運転担当者の休暇等により、臨時休業する場合もあります。

 この事業に関する利用料は、無料となっています。ただし、有料道路や有料駐車場等を利用する必要がある場合には、その費用を利用者負担とさせていただいております。利用申込は、利用日の1か月前から受付を開始し、7日前までに電話にて「京都市洛南身体障害者福祉会館(TEL075-691-2468 FAX691-9226)」へ申し込んでいただいています。

 実施状況は、リフト付きマイクロバス2台(車イス固定4台・座席13席、車イス固定2台・座席13席)で運行しており、団体利用の場合は最大で32名の利用できます。個人の利用の場合は、京都市の主催事業への参加という移動目的に限定していますので、同一目的地への申込みが4名以上の場合のみに運行されます。事業内容や使用車両からも理解していただけるように、この事業の委託内容は、団体利用に主眼がおかれています。

 平成6年度の利用実態においても、利用者は障害者団体が多く、主体的に行われる福祉関係研修会や交流集会を兼ねた社会見学や各グループ活動総会への参加という目的で利用されています。利用実績は、申込件数25件、運行に要した車両延べ台数32台、走行距離1329キロメートルに達しています。利用日が主として日曜日に集中するため、その調整を計り、可能な限りの実施に努めています。今後とも事業の推進に向けて、取り組んでまいります。

(社会福祉法人京都身体障害者福祉センター)

京都発「車イス自立への旅」―〝自立生活の基盤〟を築いていくために―

 昭和58年、「自立を願う障害者とそれを応援するボランティアが旅を通してふれあい、共に学ぼう」をスローガンに『車イス自立への旅』が始まりました。〝自立を模索―さよならハンディ〟をテーマにした第1回目をスタートして以来、「自立」という言葉をキーワードにして11年間、文字どおり暗中模索の中を〝旅〟してきました。自立という言葉の正体を求めてきた歴史とも言え、曖昧なものを求めることを余儀なくされてきた経過をたどったと考えられる。

 この11年の間に、社会状況も変容し、障害をもつ人達自身も変化してきたと言える。〝障害をもつ人達の自立生活を支える〟ことが中心ではあるが、社会啓発やボランティアの育成という課題も、旅の意味に含まれているのである。「全国各地で実施されているレクリエーション的な〝旅〟とは異なるのだ」という関係者の意識は、障害をもつ人達自身の成長が〝旅〟の意義を明確にしてくれるだろうという実践的命題を生み出していったのである。このような目的を持って、自立生活の考え方を実際的に学習していく「自立生活教室」が平成五年度に開講された。この教室が始まったことにより、〝旅〟が講座の一部として機能するようになった。そして、教室と旅とが相互関連する中で、「真の自立」を求める展開が実現できるようになったのである。

 第13回目を迎えた今年度は、車イスでは使用しにくいと言われていたフェリーに大阪南港より乗り込み、宮崎県の〝フェニックスリゾートシーガイア〟への〝旅〟を企画している。フェリーに関しては、エレベーターや車イストイレという設備も整っており、まさに〝アクセシブル〟と言える内容である。宮崎県では、自立生活運動を展開している地元障害者団体との交流も予定している。微力ではあるが、地元の障害をもつ人達との関係を大切にすることにより、ハード面やソフト面の変革を求めていきたいと念願している。「旅と教室」をリンクさせるという方法は、全国でも先駆的存在であると認識してはいるが、まだまだ不十分であり前途多難でもある。苦難を克服しながら、京都における福祉の原動力として広く理解されるように、『車イス自立への旅』を継続していきたい。

(京都新聞社会福祉事業団 平尾剛之)

児童館における障害のある児童の統合育成

 「児童館」とは、児童福祉法第40条に基づく〝児童厚生施設〟として設置されています。専任の児童厚生員が遊びや各種活動の指導にあたり、子ども達のすこやかな育成をはかることを目的にしています。

 京都市においては現在76館が設置されており、それぞれの運営主体が京都市民生局児童家庭課より委託を受け、運営がなされています。

 また、児童館では「学童クラブ」事業をおこなっています。母子・父子家庭、両親の共働きなどで昼間留守になる家庭の子ども達(小学校1年~3年)を対象に、放課後生活の場として、家庭的な暖かい雰囲気を大切にして毎日活動しています。

 すでに10数年前より、この「学童クラブ」において、障害のある子ども達の受け入れをおこなっていた児童館が数館ありました。しかし、それは受け入れ館の努力と理解のみに頼ってきたものであり、他の多くの障害のある児童にとって、その門は閉ざされていたのも同然でした。ところが国際障害者年などの流れによる変化の中で、少しずつ状況も変わってきました。

 親たちの願い、受け入れ館からの働きかけなどもあり、京都市の行政決断を得ることが出来たのは1990年のことでした。当初は、障害のある児童の〝統合育成対策補助金制度〟として受け入れ奨励金的な意味合いで発足し、重度障害のある児童の受け入れは課題として残されていました。しかし、1992年には重度加算が計上され、重度児に対して門が開かれ、統合育成に関する職員研修も実施されるようになってきました。1992年当初は、受け入れ児童が30名で、受け入れ館所は22館でしたが、今年度は受け入れ児童が69名を数え、受け入れ館所が39館と増加し、徐々にではあるが広がり定着してきました。

 児童館事業自体が、市の単費事業であるという限界性もあり、まだまだ不十分な点が多々あります。

 今年度よりシステムを変更し、介助者・ボランティアの派遣も実施されるようになり、多少の混乱の中でより良い内容を求めて経験を積み上げています。

 この統合育成事業は、ノーマライゼーションの理念に立脚したインテグレーションであることは言うまでもありません。〝教育の場〟である学校と比較して、〝遊びの場〟である児童館は、より自然な形で統合がなされやすい場として考えられます。

 現在のところ、全国の児童館において障害のある児童を受け入れているのは、京都市のみと聞いています。京都市の児童館が、全国のモデルケースとなれるような発信を続けていきたいと思っています。

(京都市西陣児童館 館長 水谷洋一)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年10月号(第15巻 通巻171号) 54頁~56頁