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ワールド・ナウ

アメリカ

アトランタパラリンピックカウントダウン

谷 紀子

 アトランタはアメリカ・ジョージア州の首都、日本からはシカゴまたはデトロイト経由で15時間ほどである。ここで来年の8月16日から25日にかけて、第10回パラリンピックが開催される。現在の時点で117か国が参加を表明しており、もちろん日本も含まれている。ここでは、大会の概要、パラリンピックの歴史、競技種目について説明する。

●大会概要

 身体、視力、または知覚に障害があることが、参加の前提であるが、その上に競技種目により障害の種目が限定され、またそのなかで障害の程度によってクラスが分けられている。この直前に行われる(健常者が対象の)アトランタオリンピックに比べて、約3分の1の規模で、選手3500人、コーチや審判などが2500人、それに15,000人のボランティアが参加することが予測されている。

●歴史

 パラリンピックは、1948年にロンドンオリンピックに合わせて、イギリスで車イススポーツ競技大会が開催されたことがきっかけとなったと言われている。公式には1960年のローマ大会が第1回であり、この時は車イスを使った競技だけが行われ、23か国400人の選手が参加した。それ以降はオリンピックの開催と合わせて4年に1度行われており、東京でも1964年に、東京オリンピックとあわせて開催されている。

●競技種目

 17の公式種目と2つのデモンストレーション種目がある。それぞれの種目について大会本部の発表に私の経験に基づく主観を加えて解説しよう。

アーチェリー 選手は立位または座位で弓を引く。ルールはオリンピックと同じ。確か前回のバルセロナオリンピックに車イスで参加した選手がいたはずである。というわけで、パラリンピックといえども競技のレベルはかなり高いものが予想される。

陸上 短・中・長距離走、投的、5種競技およびマラソン。大会の花は車イスマラソンである。女子の部はボストンマラソン6年連続優勝のジーン=ドリスコルが大本命だが、男子の部は混戦が予想される。アメリカは開催国の意地を見せたいところだが、ヨーロッパからも強豪の参加が予想される(今年のボストンマラソンは1・2位がスイス、3位がフランスだった)。もちろん日本チームにも頑張ってもらいたい。

バスケットボール 車イス使用者のみ。アメリカ男子は、バルセロナで金メダルを逃しており、名誉挽回のためにやっきになってくるだろう。前回、女子の部はアメリカが優勝したが、そのチームのコーチによると、日本女子チームはアメリカチームよりも高い技術を持っていたが、スタミナが足りないために敗けてしまったとのことである。パラリンピックの時期、アトランタは夏であり、東京と同じような蒸し暑い気候が予想される。慎重にコンディションを作ることが勝利の鍵となるだろう。

自転車 小児マヒ・視力障害・身体障害の3グループに分かれ、ロードレースとタイムトライアルの部門で競技が行われる。以前紹介したハンドサイクルは、残念ながら競技の種目には含まれていない。視力障害者は2人乗り自転車の後方の座席に乗って、健常者のパートナーの指示にしたがって、ひたすらペダルを踏み続ける。パラリンピックをめざしている視力障害の友人によると「自分と同じように早いスピードで自転車を漕げる健常者を見つけることがとてもたいへん」なのだそうだ。

乗馬 ドレサージュ種目のみ。

フェンシング 車イス使用者のみ。フルーレ、サーブル、エペの3つのスタイルで競われる。

柔道 視力障害者、男子のみ。手触りの違うフロアー素材を使って、目が見えなくても場内外の違いが分かるようになっている。日本が優勝するだろうか?女子の参加はいつから始まるのだろう?

重量上げ 身体障害者、男子のみ。オリンピックの重量上げ種目の中から、ベンチプレスだけが行われる。

サッカー 1チーム7人で構成され、身体障害を持つもののうち、歩くことが出来る参加者のみで行われる。

射撃 身体障害者のみ。ライフルとピストル。

水泳 視力障害・身体障害。

テニス 立位または車イス。前回の優勝は、日本にも数回きたことのあるランディ-スノウ。これは男子はアメリカ、女子はヨーロッパ勢が本命であろう。頑張れ日本!

バレーボール 立位または座位。前者はオリンピックと同じルールで行われる。後者はシットバレーと呼ばれ、小さなコートと低いネットを使って、6人のチーム全員が床にお尻を付けてバレーボールをする。やってみると結構楽しいものである。

バッチーボール 小児マヒを持つ選手のみが参加する。イタリアから生まれたゲームで正確にボールを転がすことと、チームの作戦力が要求される。

ゴールボール 視力障害者のみ。鈴の入ったボールを使って行なう、ハンドボールのようなもの。

ローンボウリング 身体障害(小児マヒを除く。)と視覚障害の2グループで争われる。バッチーボールより広いコートを使うが、とても似ている種目である。

ラケットボール(デモ) 車イス使用者のみ。テニスと基本的には同じ。

ヨット(デモ) 全ての参加者が対象となる。95年6月号の「障害者の福祉」の表紙でヨットのへりに腰掛けているクリス=マーフィー、彼もパラリンピックをめざして頑張っている。

ブレーズ

 最近の世界競技大会はマスコットが選ばれるのが習慣のようであり、オリンピックの方はイッジー、パラリンピックは不死鳥ブレーズが公式マスコットとしてTシャツやプログラムに印刷されることになっている。私の主観では、ブレーズの方が何倍もカッコいい。大会事務局の発表によると、ブレーズは体長2メートルを越え、体重は100キロ近く、不屈の精神を持ち、コカコーラと春巻が好物で、帽子を集めるのが趣味なのだそうである。

 さて、この紹介で、いったい何人くらいアトランタパラリンピックに興味を持ってくれただろうか。前回のバルセロナ大会では150万人の観客が集まった。ADAにより、交通機関や宿泊施設のアクセスが整っている、スポーツとレクリエーションが障害者の間に幅広く普及している、アメリカはバルセロナ大会で最大・最強のチームであったことを考えると、アトランタ大会は盛り上がることを確信している。

(たにのりこ・在アメリカ)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年11月号(第15巻 通巻172号)68頁~69頁