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1000字提言

「相手の立場」に立つ大切さ・難しさ

小西 勝巳

 流通業などの接客部門では、障害者の雇用が遅れていると言われる。その大きな原因の1つに「お客様がどのように受け止めるか分からない」から、障害者の配置をためらってしまうということが挙げられる。従って障害者の職場は後方部門が主体となり、自ずと雇用できる範囲が限られてしまう。

 私が勤務している会社の神奈川県のある店に配属となったA君(30歳)は、脳性マヒによる重度障害者で、青果部門のバックヤードで、加工や管理の仕事を担当していた。しかし流通業で働く以上、本人はお客様と接することが出来る売場で働きたいという希望を持っていた。ところが上司は、「お客様が迷惑するのではないか」という心配から、売場に出すことをためらっていた。だが本人の強い希望を退けることもできず、売場に出すことにした。それから2週間も経った頃だろうか、地元の新聞の「読者の声」に、A君についての投書が載った。その内容は、「ハンディを持ちながら、一生懸命働いている彼の努力を讃えたい。そしてこうした職場を障害者に開いている企業も立派である」というものであった。「お客が迷惑するのではないか」という推測は、企業側の勝手な思い込みであって、地域社会はとっくに「優しく」変化していたのである。

 それまでなかなか進まなかった当社の障害者雇用は、この事例を契機に次々と進んでいった。障害を理由に「あれが出来ない、これは難しい」と考えるのではなく、「相手の立場に立ちながら、出来るようにするにはどうしたらよいか」という視点で、一人一人の仕事を考えてみようという気運が拡がった。

 その結果、聴覚障害を持ったBさんが、手話のできる人を同じ職場に配置することによって、接客部門で働けるようになった。商品が高い位置に置いてある売場で働くことが、難しいと考えられていた車イスのC君が、商品の位置が低い時計売場に配属されて、販売や商品管埋の仕事を、難なくこなせるようになった。

 「相手の立場に立つ」ことによって、今まで不向きとされた仕事に、重度障害を持つ人も就けるようになったのである。ノーマライゼーションを推進する上で、「相手の立場に立つ」ということが、難しいけれど、いかに大切かを考えさせられているこの頃である。

(こにしかつみ ㈱イトーヨーカ堂採用教育部総括マネジャー)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1995年12月号(第15巻 通巻173号) 28頁