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特集/障害者基本計画

「基本計画への期待」

■市町村が精神障害者問題の出発点

池末 亨

 中間報告を見ると、精神障害者問題について随所で言及している。まず、障害者施策をめぐる現状と課題では「他の障害に比べ、いまだ社会的偏見も著しく、また、福祉施策の整備は緒についたばかりである。」としている。障害者施策の基本理念では「遅れが指摘されている社会復帰施策や福祉の面を充実させることが重要…」としている。

 これを受けて、総合的な障害者施策の展開では、精神保健福祉法の制定により法的枠組みは整備されたが、その具体化はこれからの課題であるとし、「社会復帰施設の設置運営基準の見直し」「手帳制度に基づく福祉的措置の充実」「地域における援助施策の推進」などの具体的課題をあげている。

 さらに障害者施策推進体制の見直しでは、市町村の役割強化の項で「これまで、精神保健施策は都道府県を中心に推進されてきた。社会復帰施策や福祉施策等のきめ細かい対応を要する分野については、徐々に市町村の役割を強化していくことが望ましく…」と述べている。

 私たちの長年の願いがようやく取り上げられたと思っているが、果たしてこれが各市町村の計画にどれくらい反映されていくかとなると危惧の念を禁じ得ない。1993年障害者基本法が成立し、精神障害者も身体障害者、精神薄弱者と並び障害者として位置付けられ、2年近く経過しているにもかかわらず、地方自治体の精神障害者福祉に対する認識は極めて弱い。

 私たち全国精神障害者家族連合会は、全国で千四百の単位家族会、14万人の会員を擁しているが、市町村の窓口にさまざまな問題を持ち込んでも、「精神障害者の問題は県に聞いてくれ」と、取り合ってもらえないことがしばしばある。

 私たちは今年10月に創設された精神障害者の手帳制度が、精神障害者福祉を拡充させていくための大きな武器になると認識している。それは、身体障害者手帳、療育手帳が障害者福祉施策拡充の基盤になってきた歴史的経緯を見ているからである。

 手帳の交付により、障害者一人ひとりの状況やニーズが把握でき、どのような福祉施策が必要かがわかり、そこから施策は展開していく。そのため、私たちは手帳交付の窓口は市町村・福祉事務所でということを繰り返し要求してきた。市町村が精神障害者の問題を自分たちの問題と捉える出発点になると考えたからである。しかし、窓口は保健所になってしまった。「精神障害者の問題はまだ市町村にはなじんでいない。長年精神障害者の相談援助に関わってきた保健所が窓口になるのが妥当。」というのが厚生省の見解である。しかし早くなじんでもらうことこそ必要である。

 市町村の基本計画に精神障害者の福祉施策をどれだけ組み入れられるか、手帳の窓口問題はそこにひとつの壁を作ってしまったように思うと残念である。

(いけすえとおる 全国精神障害者家族会連合会理事)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年1月号(第16巻 通巻174号) 24頁