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特集/検証「障害者プラン」

新時代を語る「障害者プラン」

高松鶴吉

1 はじめに

 老舗「障害」は今回総合的なスーパーマーケットになり、その開店となった。新店「老人」はニギニギしく開店し、早々と改装もした。「子ども」も開店したが、関係省庁の多さからスーパーへの展開を考えている。

 これは老舗「障害」の奮起である。「障害」は古い専門店で、馴染みがワンサといて新風が吹きにくいところだった。古いたたずまいのままでいいはずがないと、断固として省を超えたスーパー化への進路となった。

 こうして「中間報告」という折込みが配られて素敵なスーパー誕生が予告され、やがて開店となった。チラシには立派な理念が書かれ、しかも「ノーマライゼーション7か年計画」という立派な看板も付いた。スーパー建設の人々の心意気が伝わってくるではないか。

 あなたもみんなと共に期待に胸をふくらませて入店し、このスーパーを眺め解説せよという依頼が来た。

2 建店の姿勢

 このスーパーは次のような姿勢を持つ。

 まず「途中見直し」と「関係行政機関相互の連携強化」を約束し、次いで「国」は支援を惜しまぬが主体は「地方」といい、その施策の計画や実行には「障害者や関係者を含む施策推進協議会」の設置を求めると語る。

 国は分権のみならず、本人や関係者の積極参加を呼びかけているのだ。また「計画策定手法の普及や、計画づくりへの支援等を行う」と、任せるがとても心配だと「親心」ものぞかせている。本人や関係者は〈国〉を親と信頼し「頑迷な」地方行政に手を焼くならば、遠慮せずに母なる国へ直訴しよう。

 関係者というが、関係団体の長は容易にボス化する。また団体を背負えば〈我田引水〉を止揚できぬ。伸びやかな世代の意見を大切にしたいから古手大学教授や役人OBや関係団体老代表を除外しよう。そのため私は委員の定年を提案する。この私も除外である。

3 総合性

 「厚生」専門店から「総合スーパー」への変貌は嬉しいが、時間足らずか、理念足らずか、理解足らずか、意欲足らずか。

 街つくり、住まいつくり、交通環境の見直しについては熱意が伝わって嬉しい。公共住宅や建築物に関しては数値は読めぬが整備や指導が書き込まれているし、街や交通では多少の数値も具体的に書かれていて嬉しい。

 福祉機器や情報関係やスポーツや旅行に安全対策など、総花的だが正式に書き込まれていて嬉しい。「労働」は努力目標の羅列で楽しくない。それに教育は現状固守の頑迷さを変えていない。非障害と障害を子ども時代から分離する現教育路線の変更こそが「心のバリア」を取り除く第一歩ではないか。

 全体として数値目標も含め、根本的な見直しを求める。それにもう一つ大切な「自治」が参加しているのかどうか、そのことが心もとない。

4 福祉エリア

 「概ね人口30万人当たり…」という言葉に地方はまず当惑するだろう。わが市の隣に一市四町の地域があるが、そこで「療育システム」作成に関係者は長く努力してきたが、この行政横割を乗り超えられないでいる。

 福祉だけでなく行政を地方に下ろすにはこの横割の整理が必要である。地方の自治というなら新しい行政区分作りは必須である。

 小選挙区は40万人の300区となった。これは地理的に歴史的にある程度整合性があり、加えて選挙の積み重ねで政治力学的にも一体化が進む。そう思い私は小選挙区を横割の単位にと提唱している。だが小選挙区制イヤダという情けない政治家が増えてきている。

 30万人という区分けでもいいが、自治省はどこまで参加しているのか。イエスならば「将来は30万人単位で行政区分を考える」と書き込んで欲しい。そうするだけで、地方は30万人地域を真剣に考え始めるだろう。

5 老舗「厚生」

 この「厚生」コーナーだが、商品は雑多に積まれていてお客は途方に暮れる。少なくともオデンに決めたとオデンセットを探してもそれはない。不親切と憤慨しても、わが家の味を大切に一つひとつを吟味し、レシピに工夫を加えねばならぬ。それが地方分権というものである。このプランの難解さを「8年度予算」と「全国厚生関係部局長会議資料」を手にして解読すれば、素敵な晩飯が用意できるというものではないか。

 大局的には二つのヒットと一つのハテナが見える。ヒットは「部局一本化」と「支援事業の数値化」。「難病対策」の滑り込みもファインプレーだ。ハテナは「入所施設の増設」、現実的ではあるが看板が哭いている。生活支援が充実すれば、店は得たりとプラン訂正をするだろう。まずは入所大切の旧思想が元気にならぬよう、店は正しい路線への世論誘導を大切にして下さい。

6 おわりに

 私的にいえば、長年提言してきた「障害児の地域療育システム」はこのプランによってようやく材料が揃った。あとは私たちの腕次第である。これはまことに嬉しい。

 だがもう一つは難解である。障害者の活動の場として、福祉工場と授産所のほかに重度人のデイセンター(活動施設)の必要性を厚生省は認めた。澎湃とした要望の声をバックに私たちはその実現に努力中である。その姿を障害者プランの中に探し求めるが、まだしばらくは模索が続く。

 7月に部局統一が実現する。具体的な施策はそれからという声も聞こえるが「どんなレシピができましたか」と店は私たちに問うだろう。現場からの具体的な提案がいくつも出てはじめてプランは具体化していく。国が計画し地方や現場がそのまま食べるという時代は過ぎたのだ。障害者プランは深奥において、その新時代を語っているようだ。

(たかまつつるきち 西南女学院大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年4月号(第16巻 通巻177号) 19頁~20頁