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特集/障害者とスポーツ

ルポ・市民が手づくりするスポーツ行事をたずねて

丸山純子

多摩市で「障害者スポーツ大会」が行われた。参加者は、年齢、障害の種類、程度を問わず、競技はみんなが参加でき、楽しい一日となった。初めてのスポーツ大会がどのようにスタートしたか、その運営と同じ多摩市で活動している水泳クラブ「東京ラッコ」の練習の様子をルポライターの丸山純子さんに紹介してもらった。

● 「障害者ふれあいスポーツ大会」(多摩市)

障害者の年齢、障害の種類、重さを問わず、出場者を募集

 さる3月23日、東京・多摩市立総合体育館で「障害者ふれあいスポーツ大会」が開催されました。主催は、多摩市と障害者ふれあいスポーツ大会実行委員会(実行委員長・田中三郎氏)。同市の予算を使って開催された、初めての障害者のためのスポーツ大会です。同市では、障害者事業として年1回開催している美術展「美術・文化・手づくり作品展」がすでに5回を数えるまでになり、軌道に乗っていました。そのほかに、スポーツや音楽の分野でも障害者事業を行いたいと考えていたのですが、まずスポーツ事業が予算化されました。そして、平成7年度の行事として開催が可能になったのです。

 実行委員長は、リサイクルショップ「ちいろばの家」のおもちゃ職人で、多摩市身体障害者福祉協会副会長でもある田中三郎さん。実行委員は、障害者の通所訓練施設「色えんぴつの家」の代表で、同市の障害者スポーツ指導員の資格も持つ蒔田秀子さんをはじめ、市内の障害者団体の代表者など約20名で構成されました。

 参加の呼びかけは、市内の障害者団体、作業所、通所訓練所、入所施設、身体障害者福祉協会へ直接行われたり、市報などでも告知されました。障害者の年齢、障害の種類、重さなどにはいっさい制限をつけなかったため、年齢は幼児から高齢者までと幅広く、障害の種類は肢体、視覚、聴覚、知的障害とさまざまで、重さは全面介助が必要な人もいました。田中さんによると、

「すべての障害者が、少なくとも1種目は参加でき、楽しめるものにしたい。それができるかどうかがいちばん気がかりでした」とのこと。また、スポーツ大会の運営は初めてのことなので、何をすればよいのかすべて一から勉強だったそうです。そのような中で、大きな力となったのが、国立市にある東京都障害者スポーツセンターでした。過去に何回も障害者のスポーツ大会を開催したことのある同センターの課長に相談し、協力を依頼して、順調に準備がすすめられたのです。

 具体的には、過去の大会のプログラムや写真などを借りてきて参考にし、競技種目を企画しました。そして、参加できない障害者がいないかどうか、どんな点を工夫すればどの障害者でも参加できるようになるのかなどのアドバイスをもらいました。また、大きな競技用具を借りたり、大会当日の司会、進行、競技委員などもスポーツセンターの指導員にやってもらいました。ほかに準備としては、ボランティアの人数検討と募集、小道具の準備(鉢巻き、横断幕、笛、名札など)などもあり、大会まで1か月半という短い準備期間中、田中さんや蒔田さんたちは大忙しでした。

一体感を感じられる団体競技は感動を呼んだ

 そして、いよいよ当日、障害者170人、 介助者70人、ボランティア110人の合計350人が参加して、大会は盛大に開催されました。バスケットコート3面がとれるという、広々とした多摩市立総合体育館は、これだけの大人数も楽々収容。雨や寒さを気にする心配もありません。選手宣誓は、聴覚障害者が手話によって行い、通訳が代読するというめずらしいもので、大変好評でした。

 競技種目は全部で9つ。個人競技は、「パン食い競争」「障害物競争」と、〇×クイズに答えて陣地を移動する「ウルトラクイズ」。団体競技では、目隠しをして大きな輪を持ったグループが、太鼓の誘導でゴールをめざす「ナビゲーターゲーム」、磁石のついた釣りざおで魚を10匹釣る早さを競う「つり吉タマ平」、座って行う「綱引き」や、「大玉送り」「フォークダンス」も行われました。特に団体競技では、みんなで一つの競技を成し遂げたという一体感を感じることができ、大玉送りの大きなボールが目の前を走る様はかなりの圧巻だったということです。昼休みには、障害者が親しみやすいスポーツの紹介というねらいで、ショートテニスのデモンストレーションが行われました。

 田中さんや蒔田さんは、障害者のスポーツ大会を運営してみて、いろいろ勉強になったことがあるといいます。一つには、競技の招集をするときには、なるべく障害の種類が同じ人たちを集めて競技させたほうがよいということ。障害の種類がバラバラだと、差が開きすぎることがあるからです。また、勝ち負けにこだわったり、ルールを厳密に守らなければいけないというのではなく、障害者が競技をなかなかこなせないときには、上手に手助けをしてあげ、楽しませることを第一に考えるということです。障害者の相互理解が深まったという収穫もありました。たとえば選手宣誓は、聴覚障害者でも手話と通訳によって十分できることに気づいたこと、視覚障害者のためには、誘導の鈴をつければ同じように競技に参加できることなどです。

 参加者たちに感想を聞くと、「楽しかった」「友だちが増えてうれしかった」などの声が聞かれました。また、特にボランティアたちの中には「感動した」という人が多かったそうです。「全員が満足できたとは思えませんが、障害を問わずに一つのことをやりとげられ、壁を一つ突破したのかなと思っています」と田中さん。今後、多摩市ではこれを恒例の行事としていくようです。次は、一般市民と障害者が組んだ大会も開催したいという田中さんたち。ますます意欲に燃えています。

● 水泳クラブ「東京ラッコ」

個人のレベルに合わせて練習

 大会出場者もいる知的障害者も参加しているという点で、全国でもめずらしい障害者の水泳クラブ「東京ラッコ」は結成されて13年になります。まったく水に入ったことのない人でも、ある程度泳げる人でも加入は自由。障害者の水泳指導を専門的に勉強したコーチが、個人のレベルに合わせて指導してくれ、楽しみながら実力を上達させていける水泳クラブです。現在、会員は約40名。男性6割、女性4割で平均年齢は35歳。働いている人が20数人いますので、練習は休日や夜となっています(週2回、日曜の午前中と木曜の夜で、1回1時間30分)。下肢障害、脳性マヒ、そして知恵遅れや自閉症など知的障害をもつ人たちがメンバーです。

 代表の前田康博さんによると、そもそも同クラブは、多摩障害者スポーツセンターの水泳教室の第1回の卒業生20名によって結成されたもので、当時は下肢障害や脳性マヒの人たちなど、身体障害者だけがメンバーでした。前田さんは、学生時代は国体出場の経験をもち、現在では、日本水泳連盟の公認コーチの資格や身体障害者スポーツ協会の身体障害者スポーツ指導員の資格をもっています。同クラブのコーチをつとめるようになったきっかけは、障害者スポーツセンターで泳いでいたところ、障害者の水泳指導をしてもらえないかと頼まれたとのこと。

 「水泳は腕で泳ぐもの。浮くことができるようになれば、下肢障害の人でも必ず泳げるようになります」と前田さんはいいます。

 障害者の場合、水に入ったことがまったくないという人も多いのですが、そのような人が水泳を始める場合は、まず水に慣れるということから始めると前田さんはいいます。初めにシャワーを浴びることから始まり、次に家族を主とした介助者にだっこしてもらい水に入ります。そこで水に顔をつけ、ブクブクと息を吐いては顔を上げるというような息つぎの練習をします。慣れてきたら次に手を動かす練習をし、伏し浮き(うつぶせの方向で水に浮く)をします。これがクロールの原型です。そして、介助者がおなかなどを支えながら、伏し浮きで泳いでいきます。初めは5mぐらいから。徐々に10m、25mと伸ばしていきます。そして、バック、平泳ぎ、バタフライと発展していき、最終的に4つの泳ぎ方ができるようになるのが初めの大きな目標といいます。現在では、メンバーのほとんどが25m以上泳げ、中には12時間連続泳ぎ(正確には1時間泳いで5分休む)ができる人や、障害者の水泳大会出場のために練習を重ねている人もいます。

 「水泳は、努力した結果がすぐ現れるものです。今まで経験したことのなかったこと、できなかったことができるようになったときの喜びは大きく、自信になるんですね。そして、もっと上手に泳ぎたい、もっと早く泳ぎたいというように向上心がかきたてられていきます。始めると、水泳のとりこになってしまう人も多いですよ」と前田さんはいいます。

 下肢障害などの場合、水の中では陸上よりも体を移動させることがスムーズにできるようになるし、水につかって体をのびのびとさせることでリラクゼーション効果も大きいということです。

専門的な勉強をしたコーチが障害に応じた指導をする

 障害者の水泳指導は、障害の種類によって変わります。腕の回し方一つにしろ、障害の程度によって変わりますし、重度になるほど体のバランスをとるのが難しくなります。前田さんによると、理学療法士のアドバイスも受けながら、指導しているとのこと。知的障害者の場合は、指導を理解するまでに時間がかかったり、体にさわることを嫌がったりする人もいるので、時間をかけて気長に教えることや無理強いさせないことが大切になるといいます。また、ダウン症の場合は、腹筋が弱いという特徴があるので、それを考慮した指導が必要になります。このように、障害に合わせた専門的な知識に基づく指導が必要となるため、前田さんが副会長を務める日本身体障害者水泳連盟(JSFD)では、定期的に指導者を養成する活動を行っています。また東京ラッコのような水泳クラブをつくって指導をしたり、水泳大会を開催したりして、障害者の水泳普及につとめています。

東京ラッコの年会費は、4,000円。週2回の練習のほか、年1回の「記録会」が恒例行事になっています。25m、50m、100mなどの距離を泳いで記録を競う大会です。また、夏には海水浴も行い、ボーリング大会、クリスマス会などの懇親会もあります。メンバーは平均数年以上在籍している人が多く、和気あいあいとした中で、水泳という共通の楽しみをもって活発に活動を続けています。今後は、子供の会員も増やしていきたいという前田さん。水泳普及活動で大変忙しい毎日を送っています。

(まるやまじゅんこ ルポライター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年7月号(第16巻 通巻180号)24頁~27頁