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気になるカタカナ

インクルージョン

八巻正治

 「インクルージョン(inclusion)」という用語は、教育界を中心として、ここ数年間で急速に広がってきた概念です。そして、現在、世界の教育界はこのインクルージョン体制づくりに向けて急速に動きつつあります。これは、インテグレーション(integration)やメインストリーミング(mainstreaming)を通してのノーマライゼーション(normalization)の実現、といった方向性の集大成ともいえる実践論理です。

 インテグレーションが「統合教育」と訳されるように、そこには適応主義的な評価基準がベースにありますし、また次のステップであるメインストリーミングもその弱点を克服できてはいません。それに対して、インクルージョンとは「本来的に、すべての子どもは特別な教育的ニーズを有するのであるから、さまざまな状態の子どもたちが学習集団に存在していることを前提としながら、学習計画や教育体制を最初から組み立て直そう」といった論理構造を有しています。文字どおり「すべての子どもたちを包み込んでいこう」とする理念です。

 そして、こうした世界的な流れを受けて、知的ハンディキャップ児(者)の権利擁護団体である「全日本手をつなぐ育成会」の英語名称も、すでに昨年「INCLUSINO JAPAN」と、その名称か変更され、最近では「育成会21世紀プラン:インクルージョン戦略」を提起しています。希望にあふれた、大変すぐれたプランです。

 このように、インクルージョンは教育界を中心に広がってきましたが、福祉の分野においても同様に取り組みがなされつつあります。しかし、そのためには社会体制や国家構造そのものの改編と連動せざるを得ない、といった関係上、具体的実現には困難な点が数多くあります。

 すなわち、インクルージョン体制を積極的に推進しつつあるニュージーランドの場合は、①多民族・多文化国家として安定した歩みをなしてきた国である、②高度の人権意識を有する国である、③環境保全に細心の注意を払っている国である、④人口が三百六十万人程度の規模であるため、変革が容易である、⑤学歴主義を強く指向する国ではない、等々の国全体としての方向性のなかで、インクルージョン体制づくりが進展しつつあるのです。

 その点において、残念ながらわが国の場合は、インクルージョン体制づくりのための、さまざまなハードルが非常にに高い国である、と言えるのではないでしょうか。

(やまきまさはる 四国学院大学社会学部社会福祉学科)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年11月号(第16巻 通巻184号)29頁