音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

列島縦断ネットワーキング

[滋賀]

滋賀県立福祉用具センターの設立について

-「福祉用具センター(仮称)」構想の地域への展開-

山本俊介

 高齢者社会の急速な進展、障害者の福祉ニーズの高まりに伴い、福祉サービスの高度化が緊急の課題となっている。

 このような状況から、政府の取り組みも本格化し、平成5年10月には「福祉用具法」の施行、平成6年12月には高齢化対策としての「新ゴールドプラン」、平成7年12月には「障害者プラン」が策定された。また、平成八年八月に通商産業省機械情報産業局長主催の「福祉用具産業懇談会」が第一次中間報告書を取りまとめ、福祉用具産業の市場規模は約6200億円と推定、今後は福祉用具評価基盤の整備等が必要と提言した。

 これらの対策とともに、福祉用具への期待も高まってきており、福祉サービスの高度化を図るためには、福祉用具の質的向上とニーズに適した福祉用具の存在が必要不可欠となる。

 当室においても、より質の高い福祉用具の供給と福祉用具産業の新興を目的に、政策の一つとして、「福祉用具センター(仮称)」構想を掲げている。この構想は、「中央センター」と「地方センター」から構成される。「中央センター」では、福祉用具についての安全性・信頼性・適応性等について評価を行い、そこで得た情報を「地方センター」に提供する。具体的には、通商産業省製品評価技術センター、(財)自転車産業新興協会技術研究所等が該当する。「地方センター」は、「中央センター」からの情報を受けるとともに、福祉用具の展示、相談業務の他、最終的には加工を施し、ユーザーへのフィッティングを行う。「中央センター」と「地方センター」、または他の関係機関が連携し、より質の高い福祉用具の普及促進を図る。

 近年、地域において福祉サービスの向上を目指す動きが見受けられるが平成8年11月、滋賀県にこの「地方センター」に相当する「福祉用具センター(旧仮称・補助器具センター)」が完成予定である。今回は、この「滋賀県立福祉用具センター」についてご紹介したいと思う。

●「滋賀県立福祉用具センター」設立の経緯

 滋賀県においては、近い将来訪れる「高福祉社会」に対応するため、県の福祉政策が早くから展開されていた。

 高齢者対策の総合的なプランとして「レイカディア10か年プラン」及び福祉サービス体制の確立を目的とした「滋賀県高齢者保健福祉計画」を策定し、福祉用具の適切な利用促進について検討されてきた。

 また、前述した「福祉用具法」の施行により、県として市町村に対して福祉用具に関するさまざまなサポートを行う立場となったわけである。

 このため、福祉用具のユーザーが心身の状況・使用する環境に応じて、適切に利用できるようにするための機能を有する「福祉用具センター」の整備が必要となった経緯がある。

「滋賀県立福祉用具センター」設立までの経緯

平成3年度 海外調査による北欧の補助器具センター等の先進例研究

  4年度 補助器具センター設置調査検討報告書作成

  5年度 補助器具センター設置基本構想策定調査

  6年度 基本計画策定

  7年度 用地造成工事、建設開始

  8年度 11月完成予定

なお、運営は(財)レイカディア振興財団が行う予定。

●事業の内容

 真に求められる福祉用具とは、個々のユーザーの心身状況、使用環境にマッチしたものであり、画一化された福祉用具のままでは使用不可能なことが珍しくない。したがって、そのユーザーに最も適した状態に改造・製作することが必要である。また、地域において関係機関との連携を保ち、常に福祉用具に関する情報交換、技術の向上、普及を図ることが大切である。

 「滋賀県立福祉用具センター」においても、最終的にはユーザーが最も使用しやすい福祉用具にするためのフィッティングを行う予定である。これは我が国においても画期的なことである。

詳細な事業内容として、次の点が予定されている。

(1) ユーザーの相談に基づく福祉用具の改造及び製作

 ① ユーザーの相談を受け、心身の状況及び使用環境等、ユーザーと福祉用具の適合状況を、評価・分析する。

 ② 評価・分析結果を基礎に、ユーザーに必要な改造・製作を行う。さらに、改造・製作後の福祉用具がユーザーにマッチするか、装着テストを行い、これを確認後、ユーザーに渡す。

(2) 福祉用具に関する技術開発

 ユーザーのニーズが蓄積した段階で、新たに改造・製作の手法を開発する必要があったものについて、学識経験者他で構成する委員会による意見を参考に、試作品の製作等、必要な技術開発を進める。

(3) 関係機関等に対する技術についての研修・指導

 ① 関係機関の相談能力、ボランティアの実技能力等の向上を目的に、実習を伴う研修を実施し、福祉用具の適合、改造・製作等の技術向上を図る。

 ② 福祉用具ネットワーク事業等、地域における福祉用具関連事業に対し、適合、改造・製作等の技術指導を行う。

(4) その他センターの設置の目的を達成するために必要な事業

 福祉用具及びセンターに係るPR、情報提供等。

 以上、滋賀県に完成予定の「福祉用具センター」についてご紹介したが、冒頭で述べたとおり、福祉サービスの高度化が急がれる状況となっている。

 われわれとしても、福祉用具産業の発展を目的に産業政策を展開しているが、福祉用具の安全性等の評価方法・評価基準を開発するため、実際の利用状況を再現した性能試験の実施が可能な設備を通産省製品評価技術センターに整備予定であり、平成9年度予算として要求しているところである。

 また、平成8年6月には「日本健康福祉用具工業会」が設立され、今後の業界横断的な取り組みが期待される。同工業会においては、優れた福祉用具を提供し、福祉サービスの向上を図るために技術交流や標準化の検討・評価システムの検討を行っている。

 このような福祉用具をめぐる動向のなかで、「滋賀県立福祉用具センター」の設立は、今後の福祉対策の例として、注目されるであろう。

 「滋賀県立福祉用具センター」事業の成功を願うとともに、全国各地において地域にマッチした福祉用具関連施策が進展することを期待するものである。

(やまもとしゅんすけ 通商産業省機械情報産業局医療・福祉機器産業室)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1996年11月号(第16巻 通巻184号) 56頁~58頁