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特集/「アジア太平洋障害者の10年」中間年を迎えて

「アジア太平洋障害者の10年」中間年にあたって

総理府障害者施策推進本部担当室

 平成5年から始まった「アジア太平洋障害者の10年」も、いよいよ中間年に差しかかりました。

 我が国の障害者施策は、「完全参加と平等」をテーマとした昭和56年の「国際障害者年」を新たな契機として、これに続く「国連・障害者の10年」との中で大きく進展してきており、我が国では初めての「障害者対策に関する長期計画」(1983~1992年)の策定を始めとして、身体障害者雇用促進法、身体障害者福祉法及び精神衛生法の改正による障害者の範囲や施策の拡充、障害基礎年金の創設、身体障害者福祉関係事務の市町村への一元化、全国精神薄弱者スポーツ大会(ゆうあいピック)の創設など、新たな施策が次々と実施されてきています。また、海外においても、アメリカ、カナダ、オーストラリア等において障害者に対する差別を禁止する法律が成立するなど、先進諸国において障害者施策を推進するための法整備が図られています。

 しかし、アジア太平洋地域においては、全体としてはこの期間における施策の推進が必ずしも10分ではなかったことから、「国連・障害者の10年」最終年の国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)総会において、「アジア太平洋障害者の10年」(1993~2002年)を参加各国の共同提案の下に採択し、域内各国の協力により障害者施策の一層の推進を図ることとなりました。我が国においても、これまでの成果を踏まえた新たな長期計画のあり方について検討が行われ、平成5年3月に「障害者対策に関する新長期計画」が策定されました。これに基づき、①障害者の主体性・自立性の確立、②全ての人の参加による全ての人のための平等な社会づくり、③障害の重度化・重複化及び障害者の高齢化への対応、④施策の連携、⑤アジア太平洋障害者の10年への対応を柱として、施策の一層の推進に取り組んでいるところです。

 この「アジア太平洋障害者の10年」の前半においては、施策推進の枠組みを定める法改正やガイドラインの策定等、主として推進体制の整備を中心とした各種の取り組みがなされてきています。

 法律関係の整備としては、「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」「身体障害者の利便の増進に資する通信・放送身体障害者利用円滑化事業の推進に関する法律」「高齢者・身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律」が新たに公布されました。また、平成5年11月には心身障害者対策基本法が「障害者基本法」に改正され、①障害者の自立とあらゆる分野の活動への参加の促進を法の目的として規定し、障害者の「完全参加と平等」の実現を目指すことを明らかにしたこと、②精神障害によって生活に相当な制限を受ける人も、新たに障害者と位置づけたこと、③国や地方公共団体に障害者計画の策定を求めたことなど、重要な改正が図られています。

 さらに、平成7年7月には精神保健法が改正され、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」となりました。この中では、精神障害者の自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助の実施、精神障害者保健福祉手帳制度の創設、社会復帰施設や社会復帰促進事業の充実、医療面の法整備などが行われています。

 この間におけるガイドライン等の整備としては、「鉄道駅におけるエレベーターの整備指針」、「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者等のための施設整備ガイドライン」、「生活福祉空間づくり大綱」、「みんなが使いやすい空港旅客施設新整備指針」、「高齢者・身体障害者の利用に配慮した建築設計標準」、「障害者等情報処理機器アクセシビリティ指針」、「長寿社会対応住宅設計指針」、「盲学校、聾学校及び養護学校施設整備指針」など、生活環境の改善を図るものを中心として各種の指針等が策定されました。また、平成7年5月には「市町村障害者計画策定指針」を策定し、現在多くの市町村がこれを基本として障害者計画の策定に取り組んでいます。

 平成7年12月には、リハビリテーションとノーマライゼーションの理念を踏まえ国としての施策の充実を図るために、「障害者プラン-ノーマライゼーション7か年戦略-」が策定されました。これは、「障害者対策に関する新長期計画」の重点施策実施計画として策定されたもので、2002年までの具体的な数値目標等を盛り込んでおり、政府としてこの実現にむけて取り組んでいるところであります。

 昨年は、障害者情報ネットワーク「ノーマネット」が障害者及び関係団体の情報源となるべく運用を開始いたしました。また、アメリカ・アトランタで開催された第10回パラリンピック競技大会で活躍した障害者に対し、賜杯の授与、厚生大臣表彰並びに内閣総理大臣の記念品の授与が初めて行われました。さらに、障害者が制作した作品の展示会や演奏会等の芸術文化活動についても、各地で頻繁に繰り広げられました。障害のある方々の活躍や生きざまは、障害のない人にも勇気を与え、漠然とした心のバリアを見事に取り払ってくれる力を持っており、一層の活躍が期待されます。

 今年の9月には、ESCAPの中間年事業として、韓国で各国施策の進捗状況の評価会議が予定されています。政府としても、中間年を記念して有意義な事業が開催できるように検討しておりますが、各自治体、各団体においても、極力域内の諸国に貢献できる、そして心のバリアを取り払う何らかの事業が実施できるよう、今からの検討と準備をお願いできれば幸いです。

 中間年という折り返し地点に差しかかり、今後、政府としては、前半でほぼ確立した諸制度を、障害者プラン及び市町村障害者計画の総合的な推進のなかで実現し、充実させていきたいと考えています。超高齢社会の到来を控え、いまや障害はいずれ自分の身の上にも何らかの形で起こり得る事実となっています。今、社会を誰にでも住みやすく、活動しやすいものにしておくことは、喫緊の課題と言えましょう。

 21世紀を目前にして、4つのバリア(物理的、制度的、文化・情報面、意識上の障壁)を持ち越さないために、各位のご協力をよろしくお願いいたします。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年1月号(第17巻 通巻186号) 14頁~15頁