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特集/コンピュータネットワークの活用

インターネットによる情報提供「こころWeb」 

関根千佳

1 「情報」を得るということ

 生活の上で、何か困ったことが起きた。さて、だれに、どこに相談すれいいものか……。どなたにも一度はこのような経験があるのではないだろうか?何かを判断するときに、わたしたちはできるだけ多くの「情報」を集めようとする。知人や書籍にあたるだけでは解決しない、そんなとき、パソコン通信やインターネットが役に立つことがある。パソコンを電話線を介して外とつなぐことにより、電話帳や百科事典のように使ったり、同じような悩みをもつ人と連絡できるかもしれない。障害をもつ人や高齢者にとっても、病院や薬などの医療情報、年金やホームヘルパーの派遣といった福祉サービスなど、入手したい情報はたくさんある。より自立した人生を選び取るために、障害者や高齢者こそ多くの情報を得る必要があり、情報入手のためにこのような「情報機器」の利用が便利な場合も多い。しかしここで問題が起きる。インターネットで探せばほしい情報が手に入る可能性があるのに、見えない、入力できないといった障害がネックになって使えない場合がある。「情報収集」を可能にするためには、まず使うための道具、すなわち「支援技術の情報」を入手する必要があるのだ。

 このような障害をもつ人のパソコン利用などを支援する技術は、アシスティブ・テクノロジー(Assistive Technology)と呼ばれている。弱視の方が使うパソコン画面を拡大するソフト、全盲の方が使う画面を読み上げるソフト、そして肢体不自由の方が使うさまざまな入力装置やスイッチの数々……。これらの商品は必要な人がいるにもかかわらず、専門のエンジニアが少なかったり店頭販売されることが少ないため、なかなかユーザーの手元に情報が届いていない。情報を得るためには道具が必要なのに、その道具の情報を得ることができないという、「にわとりと卵」の関係だったのだ。

2 こころWebについて

 こころWeb(http://www.ibm.co.jp/kokoroweb/)は、そのようなアシスティブ・テクノロジーやコミュニケーション・エイドに関する「情報」を提供する、インターネット上の電子図書である(図1 略)。これは「こころリソースブック」という日本で初めての福祉情報機器を紹介する本を基にしている。この本は、香川大学教育学部中邑(なかむら)研究室を中心とする『こころリソースブック編集会』によって編さんされ、日本で入手可能な175社400以上の製品の仕様や金額、製品概要などを写真や連絡先とともに紹介している。

 こころWebではリソースブックの情報に基づいて、製品の一つひとつを1枚の画面(ページ)として表示している(図2 略)。製品によってはよりわかりやすくするため、動画や音声、アニメーションなどによる説明も追加している。また各製品のページからその販売元の連絡先をたどることができたり、関連する製品のページを参照できたりと、インターネットならではの機能を多く利用している。さらにこのような支援技術を用いたい場合の相談機関、国内外の関連する情報なども紹介している。

 また電子データの特性を生かし、製品名や企業名による索引、関連する単語から探す全文検索、ユーザーのニーズ別索引といった検索の機能を充実させている。特に1996年12月に機能追加した『ニーズ別索引』は、通称『(障害をもつ人のための)虎の巻』と呼ばれ、その人が困っている事柄からめざす製品にたどりつけるようになっている。内容的には『コンピュータを使う上でのアクセシビリティ』と『日常生活の活動の上でのアクセシビリティ』の2つにわかれていて、さまざまな場面においてユーザーの困っている点を洗いだし、その解決策となる機器類を使えばそれがどのように機能するかをアニメーションで見ることができる。また肢体不自由の方が用いるスイッチ類についても、感圧やまばたきなどによる利用法をアニメーションで示すため、よりユーザーの状況に応じたスイッチを選べるようになっている。

 このほか『障害者にアクセシブルなホームページの作り方』において、視覚をはじめとする障害者が正確に情報を受発信できるようなホームページデザインの方法をガイドしている。障害者がインターネットを利用することが増えてくると、機器そのもののアクセシビリティを確保するのと同時に、ソフトウエアやインターネットなどによってもたらされる情報の内容そのものもアクセシブルでなくてはならない。例えば絵を多用したインターネットのホームページは、必ずその裏に文字での説明を追加しておかないと視覚障害者にとっては意味のない情報になってしまう。この危険性は国際的な懸案となっており、日本においてもアクセシブルであることを再重視して作られた自治体のホームページも出現しつつある。公的機関や学校などの提供する情報はこのような配慮が必須になると思われる。今後、情報発信にかかわるすべての方に読んでいただきたいページである。

3 障害をもつネットワーカーたち

 こころWebには『私はこうして使っています』というコーナーがあり、障害をもつネットワーカーたちの生の声が10数人、紹介されている。視覚、聴覚、肢体不自由、難病といったさまざまな障害をもつ人々が、コンピュータやネットワークをどう利用しているか、使うためにどんな工夫をしているか、技術利用についての期待や要望などを生き生きと語っている。初めてパソコンに触れた方からソフトウエア開発を仕事にしている人まで利用経験はさまざまであり、職業も会社員から主婦、研究員、会社経営者と多岐にわたっている。

 たとえば北海道網走に住むALS(筋萎縮性側索硬化症)のYさんは、体の動きがいよいよきかなくなるころ決意してパソコン教室に通った人であるが、スティックなどを利用してパソコンを自在に操っている。インターネットも、さまざまな情報を集めたり各地の友人との連絡をとる際の道具として使いこなしている。このYさんの紹介ページからご本人のホームページが参照できるが、これもALSに関する有益な情報を提供したり、各地の関係者へ連帯を呼びかけたりしている。障害も時間も地理も超えた、人と人をつなぐネットワークの世界を実現しているのである。(図3 略)。

 このような障害者自身による情報発信は、本人の生きがいになるだけでなく、それを読む障害者、家族、関係者や見ず知らずの健常者にも、価値ある情報を与え、勇気づけ、生きる力を与えるものである。コンピュータやネットワークの利用によってここに登場する人々は自らの可能性を広げた。そしてコンピュータやネットワークを通じて、他のすべての人々もそのような生き方を知ることができるのである。障害をもつ人や高齢者が、その障害(Disability)によってではなくその能力(Ability)によって生きる可能性を、ネットワークは示しているような気がする。

4 今後の「情報・福祉・社会」に望むこと

 こころWebは1995年の開設以来、多くの方からお手紙をいただいてきた。福祉関係者からのリンク依頼はもとより、質問、要望、激励などが寄せられている。しかしリソースブックおよびWebのデータは常に更新されている必要があるのだが、現在その作業は大学の一研究室や企業の一セクションにおいて、数人のボランティアワークで支えられているのが現状である。ユーザーの立場にたった福祉機器情報の収集や発信が、将来的には公的機関による支援のもとに行われることを強く希望している。

 また障害者が情報武装していく一方で、福祉関係者の中にはパソコンは苦手とおっしゃる方もあるだろう。超多忙な日々の中で教育を受ける機会も少ないとうかがっている。しかし忙しい福祉関係者こそ、高度情報化社会の恩恵をもっと受けてもいいはずなのだ。時間や立場、障害を超えてさまざまな関係者の意見を求めたり、いながらにして各地の制度などの情報収集が可能だったりするからである。関係者が地域に分散していて横の情報交換がしにくい場合こそ、ネットワークはその有効性を発揮するのである。数年のうちに、各地の福祉センターや養護学校の相談室にはどこでもインターネットの端末があり、その場で最新の情報を検索できるような仕組みになっていてほしいと思う。それはもはや机に電話やFAXがあるのと同じくらい普通のことなのだから。

 情報へアクセスし自らも情報発信をすることは、空気や水と同じような「権利」の一部なのだ。そのためにも、こころWebのなかで紹介されているような支援技術の情報が、広く一般に知られ各地で実際に適用される共通の基盤づくりが必要であろう。各地のリハビリテーションセンターに必ず情報エンジニアがいて、横の連携をとりながら、アシスティブテクノロジーの提供や障害者の情報受発信をサポートすることが当然であってほしい。

 来るべき世紀が、障害者や高齢者の情報保障がもっと大切に考えられる福祉社会、そしてすべての人々へ情報がアクセシブルに提供される情報化社会であってほしいと切望するものである。

(せきねちか 日本IBM(株)SNSセンター)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年2月号(第17巻 通巻187号)10頁~13頁