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シリーズ/市町村障害者計画

鶴岡市障害者保健福祉計画

-普通の貌をしたまちづくり- 

竹内正直

一 鶴岡のまち

 鶴岡市は、山形県庄内平野の南端に位置する人口約10万人のまちである。

 ちょうど赤川の支流内川と青竜寺川に挟まれて築かれた大宝寺城の城下町として栄えてきたまちで、慶長6年(1602年)最上義光が庄内を治めるに至って「鶴岡」と改められたという由緒をもっている。

 またこのまちは、明治の評論家高山樗牛や近くは時代小説に独自の境地を開いた作家藤沢周平、芥川賞・川端康成賞等の受賞作家丸谷才一を生んだ文化の香り高いまちとしても知られている。

 そうした歴史の土壌をもっているせいか、1958年(昭和33年)から始まった鶴岡市総合計画は、1996年の第3次計画で「いのち輝き、新しい文化創造する緑の城下町/鶴岡創造プラン」と命名された。鶴岡ならではの、さわやかな夢と初々しいロマンが期待されるキャッチフレーズである。

二 プランの背景

 鶴岡市は国際障害者年の1981年8月、すでに「障害者福祉都市宣言」を発表している。この宣言は、「市民ひとりひとりが障害者に対する正しい理解と認識をもち、自らの立場でできることは何かを考え、温かい思いやりのある『福祉の心』を培うとともに、障害者自信も積極的に社会参加し、調和のとれた真の福祉を実現する」と、たいへん分かりやすい表現で「市民ひとりひとり」に優しい呼びかけを行い、その自覚をうながしているが、「鶴岡市障害者保健福祉計画」(以下「プラン」という)の萌芽と源流は実はここにあったといえる。

 このことはもとより、その時の国連や国、県の障害者に関するさまざまな計画や指針によるところもあるが、全国にさきがけて制定された障害者の自立とバリアフリー化を目指す「鶴岡市の建築物等に関する福祉環境整備要綱(以下『環境整備要綱』という)が、障害者基本法成立の前年の1992年にスタートしている点からも一目瞭然である。

 この要綱の策定と前後して、鶴岡市は「高齢者保健福祉計画(1994年3月制定)」の検討に着手している。

 こうした一連の計画の延長線上に障害者プランがあり、このプランの検討と並行して「つるおか・すくすくプラン(エンゼル・プラン)」が取り組まれ、ほぼ期を同じくして1996年3月に仕上がっている。

図1 鶴岡市障害者保健福祉計画組織図

図1 鶴岡市障害者保健福祉計画組織図

三 経過

 この施策の先見・進取に富んだ一貫性は、その根っこに「鶴岡には人々に深い感銘を与えるたいへん価値あるものがあると思いますが、これがよく生かされていないという意見もしばしば聞きます。経済の豊かさを求め続けてきたこの半世紀の間、このことはとかく後回しにされてきました。私たちは、このような資源や環境の本当の価値についてよくよく考え直し、きちんと未来に生かしたまちづくり」をすすめるという、素朴で謙虚で、あたたかみの感じられる鶴岡創造プランを生んだ、鶴岡市民の「福祉の心」が常に働いていたからではないかと思われる。

 プランは手順としてまず1994年11月、障害者施策の現状について障害者施策推進協議会がプランの柱に当たる政策的課題の検討を行い、それを受けて庁内組織としての計画策定委員会が1995年2月、行政課題や、法律や制度との整合等について論議を重ねた。その上で、福祉の現場を代表する専門職、あるいは現場職員からそれぞれ分野別に意見聴取が同年3月行われた。

 この段階で、身体・精神の障害者と市民を対象にアンケート調査が実施され、その結果を再び前掲の3機関に検討の素材として報告、原案を得ている(知的障害についてはこの調査の前年実施済みとなっている)。

 そして最後に、市議会、医師、民生委員、自治会、学校、施設、ボランティア等の代表による有識者懇話会メンバーに意見や提言を求めて練り上げたという。

四 目標・視点と施策の方向

 プランは5章からなっており、全体を通じて国のプランのような数値目標は示されていない。

 この点について市の福祉課は、「国のプランが出る前の作業であったし、見直しの段階でしっかりクリアしたい。そして1項ずつ、何を、いつ、どのようにやるかを具体化の方向で絶えず考えていく」と語っているが、これを作文や理念で終わらせないという固い決意の程が言葉のはしばしに表れていた。

 まず計画は、基本目標と視点及び施策推進の目当てを次のように定めている。

1 共に生きていくために

 (1)心の壁の除去、(2)暮らしを支えるサービスの充実、(3)安全な暮らしとバリアフリー

<施策の方向> ①広報啓発活動の活発化、②差別用語、欠格条項の見直し、③交流・福祉教育の充実、④ボランティアの育成・強化、⑤在宅サービスの充実(障害者地域生活支援センターの整備、レスパイトケアの実施、グループホームの整備、各種相談員のネットワーク化と機能強化)、⑥公共的施設・公共交通機関の整備(「環境整備要綱」の啓発と推進、リフト付きバスの導入)、⑦障害者用住宅の確保、⑧防災体制の充実・強化

2 社会的自立を促進するために

 (1)療育と教育の充実、(2)働く場の確保、(3)利用しやすい施設の充実

<施策の方向> ①総合療育訓練センターの設置(平成十年四月予定)、②早期療育指導体制の整備(保健・医療・福祉・教育の連携と充実)、③早期教育の充実、④社会教育・生涯学習の推進(若葉青年教室などの障害児者学習、交流サークル活動の支援・充実)、⑤障害者の雇用確保(市の民間法定雇用率は1.67%で県の雇用率1.4%を上回っている)、⑥授産事業の拡充と小規模作業所運営の安定化、⑦通所施設・入所施設の整備と適正配置及び生活の質の向上

3 健康な暮らしを支えるために

 (1)健康、医療の充実

<施策の方向> ①障害の発生予防と早期発見のための体制強化、②マンパワーの確保と重度障害者・精神障害者への医療供給の充実

4 豊かな生活を送るために

 (1)スポーツ・文化・社会参加活動の促進

<施策の方向> ①障害者のスポーツの振興、②施設の開放と情報提供の充実(障害者が利用しやすいように体育施設・文化施設の開放と使用料の減免をはかる)、③文化サークルの育成と生涯学習の充実

5 計画の位置付けと目標年度

 計画は第3次鶴岡市総合計画の方向を踏まえた障害者福祉施策推進の基本計画であり、地域でともに取り組む全市民、関係組織の共通指針で、平成八年を初年度とした向こう10か年目標である。

五 そしていま、これから

 鶴岡市はいま、行政サービスの上で変化が現れている。

 たとえば橋1つ造るにも、福祉課から来てくれと声がかかる。今までになかったことだ。施策のすすめ方が横断的になったし、その基本に絶えず社会的弱者の視線が働いている。そこを誤りたくないという気持ちが現場にある。プラン策定に当たってアンケート調査が実施されはしたが、福祉課には障害者やお年寄りがいつもさまざまな課題を持ち込むのでニーズの把握は容易だ。その上、昨年5月から福祉課に設置された「福祉総合相談窓口・ハローふくし(TEL0120-866-294)」が、市民の生きざまをその呼吸づかいごとニーズを伝えてくる。

 そして鶴岡市は1998年を目指して、障害者保健福祉計画に基づく、障害を問わないサービスの提供に配慮した在宅サービスの拠点としての「障害者地域生活支援センター」づくりをすすめている。

 この施設は、すべての障害者のために開かれた施設として、また健常者と気軽に交流できる“たまり場”として、さらにレスパイトケアからおもちゃ図書館、喫茶店、軽スポーツ用スペースなどの機能をもった文字通り共生・共存の場所となるはずである。

 すでにこの計画に先行して、デイサービス等、高齢者の在宅生活を支援する市内四か所目の拠点施設として、1996年3月オープンした地域福祉センター「なえづ」は、全国でも数少ない障害者デイサービスを実施しており、この地域には学校や、公園、一般住宅が建ち並び、「なえづ」を核とした普通の貌をしたまちが近くできることになっている。

 鶴岡市はプランの策定を契機に、障害のある人もない人も、ごく当たり前に、さりげなく人肌の温もりを伝え合うことのできるまちづくりを推しすすめている。

(たけうちまさなお 山梨県障害者福祉協会・本誌編集委員)


 

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年2月号(第17巻 通巻187号) 46頁~50頁