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特集/障害のある人の介護を考える

介護保険制度について

厚生省高齢者介護対策本部事務局

1 はじめに

 昨年の11月29日に、介護保険制度を創設するための、介護保険法案、介護保険法施行法案及び医療法の一部を改正する法律案の3法案が、第139回臨時国会に提出された。

 その後、12月13日には、衆議院本会議において厚生大臣により趣旨説明が行われ、同月17日には、衆議院厚生委員会において提案理由説明が行われたところで、臨時国会は閉会し、介護保険関連3法案については、継続審査の取扱いとされ、今通常国会において、本格的な審議が行われる予定である。

 本稿では、介護保険法案の内容について、高齢者介護をめぐる問題状況やこれまでの検討状況等にも触れながら、その概要を説明していきたい。

2 高齢者介護をめぐる問題状況

 今日、高齢期における介護問題は、だれにでも起こり得る身近なリスクとなっており、総理府が行った世論調査でも、介護問題が老後の最大の不安要因となっている。

 この介護問題は、社会的な要因と制度的な要因とが相まって、家庭や地域でますます深刻な問題になっている状況にある。

 まず、社会的な要因としては、以下のような点が挙げられる。

(1)高齢化や平均寿命の伸長に伴う要介護者の増加

 長寿化や少子化の進展に伴い、我が国の人口構造の高齢化は、今後、急速に進み、現在約15%の高齢化率が、30年後には25%を超えるものと見込まれている。このように高齢化が進展する中で、現在でも既に200万人を超えている要介護高齢者の数が、今後さらに、毎年約10万人のペースで増えていき、平成37年にはおよそ520万人にのぼるものと見込まれている。

(2)介護期間の長期化・重度化

 かつての介護は、お年寄りが亡くなる前の「最期を看取る介護」であり、介護期間が短期間であったのに対し、近年においては、医学技術等の進歩等に伴い、高齢者介護は、長期間にわたって高齢者の「生活を支える介護」となっている。また、その要介護状態も重度化しており、介護が重労働化している。

 このように肉体的・精神的に負担の大きい介護を、家族だけに依存する状況には限界が生じている。

(3)家族機能の変容

 核家族化の進展等により、高齢者世帯が増加しているほか、女性の社会進出もあり、家族による介護機能が従前と比べて低下している。寝たきり高齢者の主たる介護者(同居)は、その過半数が60歳以上であり、中高齢者が高齢者の介護をしているという状況が一般的になっている。

 次に、制度面については、高齢者介護サービスが、現在、老人福祉制度と老人保健制度の2つの分立した制度により提供されていることから、以下のような問題が指摘されている。

 まず、老人福祉制度については、

 ① 市町村が行政処分によりサービスの種類、提供機関を決定するため、利用者がサービスを選択することができないこと

 ② 申請に当たって、市町村による所得調査が必要であるため、利用に当たって心理的抵抗感が伴うこと

 ③ 市町村が提供するサービスが基本であるため、サービス提供主体の間で競争原理が働かず、サービス内容が画一的となりがちであること

 ④ 収入に応じた利用者負担となるため、サラリーマンOB等の中間所得層にとって自己負担が過重になること

 他方、老人保健制度については、

 ① 福祉サービスの基盤整備が不十分であることや、福祉サービスに比べて老人医療は、利用者負担が軽い(中高所得層の場合)ことなどから、介護を理由とする一般病院への長期入院(いわゆる社会的入院)の問題が発生しており、医療費が非効率に使われていること

 ② 治療目的の病院では、介護スタッフが少ないことや、食堂、風呂等の設備など生活環境の面で、要介護者が長期に療養する場としての配慮が不十分であること

 といった問題が指摘されている。

3 介護保険制度創設のねらい

 老後の介護問題を解決し、人々が安心して老後を迎えることができるようにするためには、介護が必要な高齢者に対し、個々のニーズや状態に即した介護サービスが適切かつ効果的に提供されるよう、多様なサービス提供主体により保健・医療・福祉にわたる介護の各サービスが総合的・一体的・効率的に提供されるサービス体系が確立されることが重要である。

 その際、介護サービスを安定的に提供するための財源については、利用者によるサービス選択の保障やサービス受給の権利性の確保、給付と負担の対応関係が明確であり負担に対する国民の理解が得やすいこと等の点に鑑み、社会保険方式によることとし、同時に、公的責任を踏まえ、適切な公費負担を組み入れることにより、安定的に介護費用を賄うことが適当と考えられる。

 また、高齢化の進展等に伴い、今後、社会保障関係の費用が増大していく中で、社会経済の活力を損なわず、国民に過重な負担を課すことのないようにするためには、良質なサービスを効率的に提供する体制を実現していく必要があり、現行の社会保障制度全般を再構築して、公平で効率的な制度を作りあげなければならない。

 今回の介護保険制度の創設は、国民の老後生活における介護問題に対応するとともに、社会保障制度の構造改革の第1歩として、保健・医療・福祉の各分野にわたる介護サービスを社会保険方式の下で、一体的、効率的かつ公平に提供することをねらいとするものである。

4 介護保険制度案の概要

(1) 保険者

 介護保険事業の運営主体(=保険者)は、地方分権の流れ等を踏まえ、住民に身近な市町村とし、これを国、都道府県、医療保険者、年金保険者が財政面や事務面において、重層的に支え合うこととしている。

(2) 被保険者

〇被保険者は40歳以上とした上で、次の2つに区分している。

・第1号被保険者=65歳以上

・第2号被保険者=40歳以上64歳以下の医療保険加入者

 ※このように、40歳以上の者を被保険者としたのは、

 ① 40歳以上になれば、初老期痴呆や脳卒中による介護ニーズの発生の可能性が高くなること

 ② 自らの親も介護を要する状態になることから、介護保険制度の創設によりその負担が軽減されることになること

 等を勘案し、保険料の負担にも一定の理解が得られるものと考えられたことによるものである。

〇要介護状態にある被保険者(要介護者)及び要介護状態となるおそれがある状態にある被保険者(要支援者)に対し保険給付を行う。

 なお、高齢期における要介護状態への対応を基本とする介護保険制度の位置づけを踏まえ、第2号被保険者については、初老期痴呆、脳血管障害等加齢に伴って生ずる疾病を原因とする要介護状態等にある場合に、保険給付を行うこととし、それ以外の事由により、要介護状態にある人については、障害者プランなど公費による障害者保健福祉施策により介護保険と格差のないサービスを提供していくこととしている。

 ※ なお、被保険者及び保険給付を受けられる者の範囲については、介護保険法案の附則第2条の検討規定において、将来的には、障害者の福祉に係る施策との整合性等に配意し、検討が加えられ、その結果に基づいて、必要な見直し等の措置が講ぜられるべきものとされている。

(3) 保険給付

〇被保険者が保険給付の対象となるかどうかを確認するため、要介護認定を行う。要介護認定は、被保険者の心身の状況に関する調査結果及びかかりつけ医師の医学的な見地からの意見に基づいて、市町村に設置される介護認定審査会において審査及び判定を行い、その結果に基づき認定する。市町村は、介護認定審査会が行う審査判定業務については都道府県に委託することができる。

〇要介護認定のための基準は、認定結果にばらつきが生じることのないよう、客観的なものとし、全国一律に定める。

〇要介護者については、在宅サービス・施設サービス両面にわたる多様な医療サービス・福祉サービス等を給付することとする。

【保険給付の内容】

◎在宅に関する給付(要介護者及び要支援者を対象。ただし、グループホームは、要介護者のみ対象)

・訪問介護:ホームヘルパーが家庭を訪問し介護や家事の援助を行う。

・訪問入浴:浴槽を搭載した入浴車で家庭を訪問して、入浴の介護を行う。

・訪問・通所によるリハビリテーション:理学療法士や作業療法士等が、家庭を訪問したり、あるいは施設において、リハビリテーションを行う。

・医師等による療養管理指導:医師・歯科医師・薬剤師等が家庭を訪問し、療養上の管理や指導を行う。

・デイサービス:デイサービスセンター等において、入浴、食事の提供、機能訓練等を行う。

・短期入所サービス(ショートステイ):要介護者を介護施設において短期間預かる。

・グループホームにおける介護:痴呆の要介護者が10人前後で共同生活を営む住居(グループホーム)において介護を行う。

・有料老人ホーム等における介護:有料老人ホーム等において提供されているサービスを介護保険で評価する。

・福祉用具の貸与及びその購入費の支給:車いすやベッドなどの福祉用具について貸与を行うほか、貸与になじまないような特殊尿器などについて購入費の支給を行う。

・住宅改修費の支給:手すりの取付けや段差解消などの小規模な住宅改修について、その費用を支給する。

・居宅介護支援(ケアマネジメント):要介護者の心身の状況、意向等を踏まえ、前記の福祉サービス、医療サービスの利用等に関し、居宅サービス計画(ケアプラン)を作成し、これらが確実に提供されるよう介護サービス提供機関等との連絡調整などを行う。

◎施設に関する給付(要介護者を対象)

・特別養護老人ホーム

・老人保健施設

・療養型病床群、老人性痴呆疾患療養病棟等介護体制が整った施設

 ※ 当面、現金給付は行わないこととしており、家族介護については、ショートステイの利用枠の拡大等で支援する。

(4) 基盤整備

 介護に関するサービス基盤の整備を計画的に進めるため、国が策定した基本指針に基づき、市町村、都道府県がそれぞれ市町村介護保険事業計画、都道府県介護保険事業支援計画を策定する。

(5) 利用者負担

 保険給付の対象費用の1割とする。なお、施設入所時の食費負担については、医療保険制度と同様に、標準負担額(平均的な家計において負担する食事費用に相当する額)を設定して利用者の負担とする。

 また、利用者負担が高額になる場合は、高額介護サービス費により自己負担の上限を設定する(現行医療保険制度における高額療養費制度類似の仕組み)。

(6) 公費負担

 高齢者介護に対する公的責任を踏まえ、公費(国:都道府県:市町村)の負担は総給付費の2分の1とする。

(7) 財政調整

 国費の負担のうち総給付費の5%に相当する額を、要介護リスクの高い後期高齢者の加入割合の相違等について介護保険の財政を調整するために市町村に対して交付する交付金に充てる。

(8) 保険料

・保険料により、総給付費の約2分の1を補う。第1号被保険者と第2号被保険者の1人当たり平均保険料額は、同額となるようにする。

・第2号被保険者については、医療保険各法の定めるところにより医療保険加入者が徴収し、これを高齢化率の差異等による財政影響を調整するため、各市町村に対し、各市町村の給付費に占める割合が全国一律となるように交付する。

 ※ 保険料額については、住んでいる市町村の給付水準や本人の所得により多少異なるが、平均すると、高齢者1人当たりの負担月額は、平成12年度で約2,500円程度、平成17年度で約2,800円程度、平成22年度で約3,500円程度となる見込みである。

(9) 市町村の支援

 市町村の安定した財政運営と円滑な事務運営を確保するため、財政支援の強化、事務負担の軽減と都道府県の役割を強化する。

①市町村に対する財政支援の強化

・要介護認定等に係る事務経費の2分の1を法律に基づき国が市町村に交付する。

・第1号保険料の未納や給付費の見込違いによる財政影響を緩和するため、財政安定化基金を都道府県に設置し、基金の財源として、国:都道府県:第1号保険料で3分の1ずつ負担する。

・40歳から64歳までの第2号被保険者に係る介護保険料の上乗せが国保財政に与える影響を緩和するため、国費による財政支援措置を講ずる。

②市町村の事務負担の軽減と都道府県の役割

介護保険制度の円滑な運営を図るため、次の事務を都道府県の事務とし、市町村の事務運営を支援するとともに、保険者事務の広域化の促進を図る。

・要介護認定に係る審査判定業務の受託

・介護サービスの供給調整

(10) 施行

 昨年6月の制度要綱案においては、平成11年度から在宅サービスを実施し、平成13年度から施設サービスを実施するという段階的な実施とされていたが、その後に開催された地方公聴会における同時実施についての要望を踏まえ、平成12年度からの同時実施とすることとしている。

 なお、実施時期を平成12年度からの同時実施とすることに関しては、冒頭に述べた昨年9月19日の与党合意の中で「施設サービス・在宅サービスを同時実施とすることによって、施設へのニーズ集中による混乱が生じることへの懸念もあることから、法施行までの間における在宅サービスの整備を一層積極的に推進する」旨が述べられており、特に在宅サービスを中心としたサービス提供基盤の整備を進めることとしている。

(11) 検討

〇被保険者及び給付を受けられる者の範囲、保険給付の水準・内容、保険料負担の在り方等、介護保険制度全般について、今後の状況変化、社会経済情勢等を踏まえ検討を加え、必要な見直しを行うこととしている。

〇制度の見直し等に係る検討に当たっては、地方公共団体等関係者の意見を十分考慮することとしている。

6 おわりに

 介護保険制度の創設及びその円滑な実施のためには、国民の方々の十分なご理解とご協力が不可欠との認識の下、これまで、保険料負担の見通し等を含めて介護保険制度について、一般の方々に分かりやすく説明をするパンフレットやビデオを作成・配布したり、全国各地で説明会を開催し、直接、国民の方々と意見交換を行う努力をしてきたところである。

 今後、介護保険法案は、国会において本格的な審議がなされることになるが、現行制度の横断的・抜本的な見直しを行う社会保障構造改革の第1歩として、本制度の趣旨・内容について幅広く情報提供を行い、国民各層の幅広い合意形成を図りながら、早期の成立を目指すこととしている。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年3月号(第17巻 通巻188号)10頁~15頁