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特集/障害のある人の介護を考える

地域リハビリテーションの立場から

浜村明徳

 臨床医として病棟を預かっていると、労働年齢にありながら障害が重いため、基本的な医学的リハビリテーション(以下「リハ」という)は終えても、その後の生活に納得できる方針が見つからず、長期の入院になっている場合がある。家庭生活を望んでも何らかの介助を必要とするなら、基本に家族の介護力がない限り在宅生活は成り立たない。また、施設での生活を選択しても容易に入所できる状況になく、入院生活が長期化する。

 一方、地域リハ活動で出会う人の中には、それまでのリハ治療に問題を抱かざるを得ない人もいる。高齢者と成人ではニーズも異なるが、動作能力の獲得だけを中心としたかかわりが続けられている実態もある。医療に、障害を抱えた生活に向き合う姿勢が不十分と考える。

◆介護の責任

 障害のある成人を抱える家族では、家族のだれかが生計を支えるために活動せねばならず、それによって生じる介護力のなさを個々の家族の問題とするわけにはいかない。また、在宅介護する人と障害のある人とが生活の一体感をもてるときはまだしも、介護者の中には、“自分がいなければ……”という義務感や“介護生活がどこまで続くのか、自分の人生はどうなるのか……”という不確かさに苦悩している人も少なくない。多くの介護者から語られる“私がお世話しなければ、この人は生きていけない……”という言葉には、介護生活の意義を求めて悩んだ姿がうかがわれる。“なぜ私が”という問いに、“自分しかいない”という結論を導き出すには語り尽くせぬ葛藤があったに違いない。一方、臨床の場では、家族の身になって世話してくれる施設が求められたり、援助者側からは介護者としての家族のあるべき姿が期待されることも少なくない。

 これらの家族を巡る諸問題は、介護にだれが責任をもつのか、家族はどのような役割を果たしていけばよいのか、つまり在宅ケアにおける家族の位置付けが合意されていないことから起こっているように思われる。そしてこのことは、介護における社会的責任の範囲とつながる。

 核家族、女性の就労、家族機能の変化など現代社会のキーワードと上記の実態を併せて考えたとき、障害のある人の介護を個々の責任において解決しようとする考え方はもはや成り立ちにくい。さりとて社会全体の責任とするには合意も得にくく、介護保険法案では中間の表現となっている。

 社会の責任を第一義的に考えれば国民の負担が一層増すことにつながるが、臨床の場で介護者の苦悩と障害のある人々の普通の生活を求める叫びの狭間にあると、個人的には、社会全体でケアするという考えを基本に据える時がきているのではないかと思われて仕方ない。この考えが前提となるなら、家族は社会を代表して行う最も情愛の濃い介護者、ホームヘルパーということになろう。当然、経済的活動として認知することになる。家族介護が社会的に認知され、それに社会的援助が加えられることによって安定した家庭生活になるケースも少なくない。

◆地域リハと介護保険

 介護保険は必要な人に可能なサービスを的確に提供できる点で、これまでのケア状況を発展させる可能性をもっている。障害のある人の回りに利用できるサービスがないという状況は経過の中で解決されていくであろう。しかし、保険ではいかんともしがたい地域リハの推進課題がいくつかある。

 地域リハ(community based rehabilitation)をどのように考えるかはさまざまな意見があるが、1994年に発表されたILO、UNESCO、WHOのJoint Position Paperによると、「地域リハとは、地域におけるリハの発展、障害のあるすべての人々の機会均等(equalization of opportunities)や社会的統合(social integration)を目指した戦略である」とされ、「地域リハは、障害のある人々自身、その家族、そして地域住民、さらに個々の保健医療、教育、職業、社会サービスなどが一体となって努力する中で履行されていく」と述べられている。また、日本リハ病院協会では、「地域リハとは、障害をもつ人々や老人が、住み慣れたところで、そこに住む人々とともに、一生安全に生き生きとした生活がおくれるよう、医療や保健、福祉および生活にかかわるあらゆる人々が、リハの立場から行う活動のすべてを言う」(1991年、地域リハ対策委員会)と定義し、当面の活動課題として、①直接的援助活動(例えば、介護保険の諸サービス)の充実、②地域リハの組織化活動(ネットワークづくり)の推進、③一般の人々への教育啓発活動の重要性をあげている。

 身体的・精神的機能のレベルを超えて、障害があっても地域社会に住み続けられる条件を、地域のみんなでつくっていこうと唱えている点で両者の視点は一致している。地域リハが、障害のある人に限られたり、機能や能力の障害に限定され、関係者のみの活動としてしかとらえられていなかったものを、ノーマライゼーションの考えを基本とした地域づくりの活動に整理された。

 対象となる年齢やサービス量など、介護のための保険案として討議すべき問題も少なくないが、サービスの乏しい現状を考えると、地域リハの推進に諸サービスが寄与することは間違いない。

 しかし、地域リハが目標とするノーマライゼーションの達成には、前述したようにサービスや人・組織・機関のネットワークづくり、バリアフリーの生活環境づくり、市民の理解と協力、偏見のない社会など、障害のある人々が健康で快適な生活を楽しみ、社会・文化・政治などのあらゆる面に参加できる権利を保障するための取り組みが重要となる。数々の取り組みが実践されているが、課題の中には制度や施策になじまないものもある。地域リハ推進の立場から考えると、介護保険ですべてが解決できるものではないことを認識しておくことも重要であろう。

 この10数年、デイケア利用者と1泊旅行を楽しんでいる。一般の方から声をかけられ、手助けしていただくことも多くなってきた。しかし、無言のままそそくさと立ち去る人、あんなになりたくないという小声、自分と異なることや状態を自然に受け入れられる我々でもない。ノーマライゼーションという言葉は我々を酔わせる響きをもつが、その達成のためには介護保険のサービス以外に多くの課題がある。

(はまむらあきのり 国立療養所長崎病院)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年3月号(第17巻 通巻188号)24頁~25頁