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特集/障害のある人の介護を考える

民間のサービス提供の立場から

新井教泰

◆不十分な介護支援

 平成8年3月に(社)シルバーサービス振興会により示された「在宅介護サービスの類型化とその安定的供給に関する調査研究事業報告書」(注1)によれば、民間在宅介護サービスの購入意思決定者による民間サービス購入の理由は、第1に「家庭介護者の身体的・精神的負担軽減のため」が64%と最も多く、第2に「要介護者の健康状態の保持」「一時的または定期的な家庭介護者の代理として」が過半数を占め、以下「要介護者の希望や要望にこたえるため」「自立の促進のため」「専門的な介護を希望するため」等が各々3割程度の回答数としてあがっている。

 「負担の軽減」といったサービス利用のニーズの最大因子は、いかに、障害を負ったり介護が必要になった人々に対する介護支援が家庭で不十分であるかを端的に物語っている。

◆介護保険導入で生じる問題

 公的介護保険導入への経緯が、わが国の社会保障制度の財政的な建て直しに端を発している一面からも察するに、今後はサービス提供の費用の高低、コストの妥当性を評価する視点が厳しくなるのは必至だ。

 そのため、対高齢者へのサービス提供に関してはサービスの内容と量を各領域ごとに分類し、公平かつ適正なサービスの方法(ケア・プラン)が実践されなければならない。

 ケアマネジメント、要介護認定の問題、現物給付となるサービス水準の標準的な質と量はどの程度のレベルで支給されるのかを明確に説明し得る基準が待たれている。

 また、求められるサービスの選択決定に利用者の主体性はどの程度反映されるのか? などの疑問の声が利用者側からあがっている。一方、サービス提供主体の側には、段階ごとの「松・竹・梅」パッケージのような商品の選択が可能となる補足的サービスは利用者に浸透していくのか?また行政は、補足部分の調整をどの程度行うことが可能なのか?等々、議論すべき点はいくつも存在し、なおかつ国民への情報の公開、数値の公表も必要となってくるであろう。

 現行の措置制度を基本とする自治体による福祉サービスの提供量は、予算上の制約から利用者のニーズの総量以下に抑制されてしまっていることも多い。また、措置制度ゆえに利用者がサービスを選ぶのではなく、時に我慢を強いられつつ、「スティグマの是認」(注2)を受け入れざるを得ない状況にある。

 公的介護保険の導入によってサービスの利用者が新たな介護システムを通じ、前記のような状況に置かれずにより積極的にサービスの自主選択が可能になるといわれているが、一方では、保険内の給付制限によって一定量以上のサービスの利用が見込めず、現状維持どころか、それ以下のサービス量となるのではないかとの声も上がっている。

◆障害者及び家族により効果的な方策を

 では、障害者本人あるいは要援護障害者を抱える家族に対し、介護保険の適用面を考えてみる。より有効な方策としては、「現金給付」の適用を認めることのように思われる。現行の諸福祉手当は、保障の基礎に位置付け、さらには、障害によって異なる個々のニーズに応じるため、たとえばホームヘルパーの利用や自助具等の購入の際、障害者本人の自主的な選択決定の裁量の幅を広げていくことを可能とする。だが、あくまでも障害者の生活基盤である経済的援助は、公費助成の範ちゅうで行うべきであろう。

 個々の「生活の質」(注3)が高められるような社会資源の利用の推進と、自立支援を目的とした非貨幣的福祉ニーズを充足するために、保険の現金給付で支給するといったかたちが社会的に認められてもよい時期にきていると思う。

 これにはさまざまな反論が予想されるが、福祉先進国といわれる国々では、「自立生活運動」が盛んになるにつれ、今では、障害者本人がアテンダントを自主選択できる仕組みまで成立しているという。「措置制度から公的介護保険(への移行)によって被保険者としての市民は、介護サービス利用の権利を確保される」と前出の報告書ではうたっている。しかし、障害者の生活状況をみると、先天的あるいは後天的な障害かどうかによって、またその障害像の差異によって、またはライフステージによって、実際はニーズも違えば援助すべきサービスの様態も変わってくる。サービスの質と量を定量化したり、画一化することには問題がどうしても生じてしまう。今後の課題となろう。

◆サービス提供形態の変革への提言

 以下に、「サービス提供形態の構造変革」の視点から、公民の新たな役割分担の枠組みの創造の必要性をまとめてみたい。

 多様な個性と生活スタイルをもつ障害者のニーズに対応でき得るサービスの提供主体が求められている。例えば、介護保険の保険者となる市町村が従来の枠にとらわれない新しい地域内介助支援のかたちを実現するために、地域ごとに異なる生活スタイルやニーズの質と量に対応できる組織の再編を図る。そこで規制枠や既得権にしばられない民間活力利用の手法を展開することが求められている。

 または、保険料の運用を中央集権的な管理システムによらず、地域ごとのざん新な提案、企画を採用できるようにする。県レベルでの地域振興組織が障害者の自主運営組織の代表者を交じえて活発に意見交換を行い、柔軟な意志決定のプロセスを実現したり、小さな市町村が合同の福祉エリアを設けて共同作業で保険運用にあたる等々の、いわゆる地方分権のエンパワーメントが必要となってきている。

 公のもつ一定の信頼性と民のもつ柔軟かつ新しい企画力を双方活用しつつ、新しい福祉行政のあり方が創造されれば、さまざまなスタイルをもったサービスの出現が可能となる。

 「リバースモーゲージ(資産担保による生活資金貸付制度)」の導入の可能性も公的支援型か個人契約型かという選択肢よりも両方の中間型が望ましいかもしれない。

 また、「福祉工場」「作業所」「障害者雇用(就労)支援センター」等の設立運営面でも企業と自治体の共同出資で行われたり、地域の非営利団体と当事者団体が「自立生活センター」を協同運営したり、「在宅支援センター(ケアセンター)」「グループホーム」を民間が設立する等の、民間のビジネスベースの事業参入のさまざまな可能性を、公民の共同プロジェクトのかたちで推進する道が、今後数多く開拓されることを期待している。

(あらいのりやす 日本福祉サービス(株))

〈注〉
1 当報告書は、平成7年4月1日~平成8年3月31日にわたって実施された調査をまとめたものであり、『本事業では、在宅介護サービスに関する「消費者の欲求と需要の実態」および「事業コストと採算性」の実態についての分析をベースに、民間事業者の今後の事業戦略立案に資するような提言の検討』を行うことを目的としている。

2 R・M・ティトマス/三友雅夫監訳、『社会福祉政策』1981年4月、恒星社厚生閣

3 『障害者の権利宣言』(1975年)によれば「障害者は、経済社会計画のいかなる段階においても、その固有なニーズを考慮される権利を有する」と明言されている。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年3月号(第17巻 通巻188号) 27頁~29頁