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海外自立生活新事情

カリフォルニア州のグループホームは今

定藤丈弘

 昨年10月の後半に、西宮市社会福祉協議会が運営する重度肢体不自由者通所施設「青葉園」の有志主催の研修ツアーが、カリフォルニア州のバークレー市にやってきた。青葉園は心身障害者を含む最重度級障害者の地域生活支援システムを当事者主体の立場から総合的に作り出すことを目指して、先駆的な実践を積み重ねてきたことで全国的にも有名な通所施設である。園長の清水明彦氏、親の会事務局長の田川康吾氏は私と昵懇の間柄である。
 この研修には本誌3月号で紹介した重度障害者藤井則之君と母親の桂子さんが参加されたが、桂子さんは一時的に体調をくずされてホテルのベッドで1日過ごされた。しかし、さすがに青葉園である。常時介助の必要な彼をいとも簡単にサポートし、彼は1日の独立生活を楽しんでいた。その青葉園が主な目標の1つとしているのが、最重度障害者が安定して利用可能なグループホーム建設である。そこで早速地域のグループホーム見学に出かけることにした。

グループホーム制度の概要

 まず、カリフォルニア州のグループホーム(以下GHと略す)制度を簡単に説明しておきたい。同州の「ランテルマン発達障害者法」は第1条で援助の目的として、「発達障害者は生まれ育った地域社会において、同じ年齢の非障害者の日常生活にできるだけ近づけ、かつ自主的でノーマルな人生を形成できるようにすること」を掲げている。この援助目的を達成する施策の一環として、他の居住サービスと同様に地域ケアつき住宅、すなわちGHが設置されている。
 同州の発達障害者には、知的障害者、脳性マヒ、てんかん、自閉症、その他知的障害者と同様の援助を必要とする知的障害と同様の状態にある者が含まれている。その多くは心身障害を含む知的障害者だが、脳性マヒ者らの中には身体障害だけの者も発達障害者としてGH利用対象となっている。
 GHは、毎日の生活で何らかの支援を必要とする障害をもつ児童や成人のための医療的ケアを必要としない居住サービスである。カリフォルニア州では発達障害局の管理下にある21の地域センター(民間の非営利機構)がGHの運営を希望し、州の定めるサービス運営ライセンスをもった民間団体(会社)とサービス購入契約を結ぶことによって、その民間団体にGHを運営させている。その運営費は連邦のSSI(補足的補償給付=米国の生活保護制度)を除き、すべて州から地域センターを経由して支給されている。
 そしてGHは、ランテルマン法のタイトル17の規定により、4つのサービスレベルから構成されている。
 レベル1のGHは、自力での生活が可能で行動に問題のない人たち、いわゆる軽度の障害のために、ごく限定されたケアや助言を行うものである。
 レベル2は、ある程度自力での生活能力をもち、主要な行動に問題のない人たちのために、ケアや助言および若干の生活訓練を行うものである。
 レベル3は、生活の自己管理能力が主要な面で欠けていたり、日常生活動作自立の面でもある程度限界があったり、あるいは他傷、自傷的な行動上の問題をもつ人たちのために、ケアや生活支援および必要な助言を行うものである。
 レベル4は、生活の自己管理能力を欠いていたり、あるいは日常生活動作自立が厳しく制限されたり、または他傷、自傷的な行動上の問題が深刻な人たちのために、ケアと生活支援や助言および専門的にスーパーバイズされた生活訓練を行うものである。
 このようにGHは、障害の重さ、それに伴う生活支援上のニーズの程度などによって4種に分類されており、したがって各々の運営費用やケアスタッフの人数も異なっている。利用者の定員は原則として6名までとされるが、実際には6名以上のGHもかなり存在している。

レベル2、レベル3のグループホームについて

 清水園長らと見学したのはレベル2と3のGHであり、2は2か所、3は3か所の合計5か所を数時間かけて訪問した。いずれも同一経営者のGHである。
 最初に訪問したレベル2のGHは10年近い歴史があり、利用者6名、スタッフは常時1名で、全員が自力で掃除や料理ができ、働いている。ウイークデイは朝の7時半過ぎにGHを出発し、仕事はそれぞれ工場でキャンディを作ったり、庭仕事をしたり、デパートで働いたりして、夕方4時過ぎに帰宅する。後は自由時間で夕食をとったり、入浴などをしている。居室は割合広いが2人部屋が原則で、リビングルームや台所はゆったりしたスペースであった。親子とも知的障害者の利用や、59歳が年齢の制限ながら73歳の障害者も本人の希望で利用していた。
 次にレベル3のGHを2つ見学した。ともに利用者は6名で、その1つはスタッフは日中2名、夜間1名の3名で、利用者は知的障害に加えて、肢体不自由による車いす利用を必要とする者が3名、その他視覚障害や聴覚障害等をもつ重複障害者であり、そのため全員が入浴介助などの何らかの介助が必要な障害者たちであった。
 もう1か所は夫婦が住み込みで働いていて、常時2名のスタッフ体制であった。利用者はダウン症の人たちが中心で、そのうち2名は重度のため食事介助が必要で、全員自力での料理づくりは困難で、入浴介助も必要な人たちであった。ウイークデイは朝9時頃から出発し、3時頃に帰宅するまで、デイ・プログラムに参加している。両者ともリビングルームなどはレベル2よりももっと広い空間であったが、原則として2人部屋で居住水準はほぼレベル2と同様である。われわれが訪問した時は帰宅後の自由時間で、各々テレビをみたり、スタッフに話しかけたり、プレイルームのようなところで遊ぶなど、くつろいだ雰囲気であった。
 最後のレベル3のGHを訪れた時はいささか驚いた。15年の歴史をもつこのホームは、病院のような建物に26名の利用者がいる。障害者も自閉症やダウン症などを含む最重度級の知的障害をもつ人や、肢体不自由だけの日常不定時介助の必要な人たちもいて、車いす使用者が18名も入居している。
 そこには日常の介助や生活支援を行うスタッフは12名いて、その他に調理担当者2名や掃除担当者もいた。ウイークデイは早朝に入浴を行うので、8名のスタッフが対応する。また、帰宅後就寝近くまでも8名のスタッフが同様に対応して、夜間は2名のスタッフに委ねられている。薬を渡す以外に、実際の医療行為はなされていない。
 ここも2人部屋が基本になっていた。重度の脳性マヒで10年前は車いすにも座れなかったある障害者が、GHでのリハビリやその障害にあった電動車いすの活用により、単独で車いす利用が可能になるなどの効果もみられる、とのことであった。「このGHは大きすぎて好ましくないと言われている」とGHの経営者が弁解するように述べたのが強く印象に残っている。
 GHをスーパーバイズする地域センターのケースワーカーは年数回、担当のGHを訪問、必要な助言などを行うが、障害利用者への虐待等のおそれが感じられた場合、州の発達障害局と連携しつつ、人権擁護の担当機関に連絡する。その担当機関が調査して虐待の事実が発覚し、数か所のGHが閉鎖された年もあるという。
 GHの財政は、レベル2で1人の利用者当たり1か月1170ドル、レベル3で1か月1472ドル(1996年現在)の経費が全額公費で支給されており、その範囲内での運営が基本的には求められている。連邦から支給される1か月1人につき約440ドルのSSI以外はSSIに追加される州の約240ドルの補足給付金を含めて、その差額はすべて州政府の負担となり、GHでの食費や光熱費、住宅費、および人件費などに充当されている。

表1 レベル2、レベル3のグループホーム
グループホーム名
レベル 2 3 3 2 3
利用者数 6名 6名 6名 6名 26名
スタッフ数 日中 1名 2名 夫婦が住み込みでスタッフとなっているので、常時2名

不明

朝の時間と利用者帰宅後夜までの時間は8名、日中は1名、夜間は2名
夜間 1名 1名
1人当たりの支給月額 1,170ドル 1,472ドル 1,472ドル 1,170ドル 1,472ドル
利用者の特徴 全員が日常生活上の介助等は必要のない、情緒的にも安定している軽度障害者。車いす利用者もいない。 知的障害に加えて、3名の人が車いす利用者。視覚や聴覚障害の人もいる。全員が入浴介助必要。 ダウン症の人が中心。かなり重度の人が2名。その2名は食事介助が必要。全員が入浴介助必要。 発達障害というよりも、精神障害的な感じのする利用者もいる(印象)。 18名が車いす使用。自閉症、ダウン症などを含む最重度級の知的障害者や、同じく最重度級の肢体不自由者もいる。入浴介助が必要、食事介助も少し必要。

   (壬生明日香氏作成)

レベル4のグループホームについて

 この訪問の数か月後、イーストベイ地域センターのロドリゲス部長の紹介で、レベル4のGHを経営するカリフォルニア地域居住サービス会社を訪問した。同社は近くオープン予定のホームを含めて8か所のレベル4のGHを経営しており、その利用者数、スタッフ数、1人当たりの支給経費は表2のとおりである。
 この種のGHは強度の行動障害を伴うなど、小集団生活にも馴染みにくい最重度級障害者を利用対象にしており、そのため利用定員は3、4名の小人数で、マンツーマンに近いスタッフ体制をとっている。
 同社の管理スタッフによれば、これから訪問するケロッグというGHの利用者が8つのGH利用者のなかでは行動障害が最も重く、1人の男性は身体が大きくて、時々怒りだすと乱暴で、石を投げたり、人を追い回すなどの行動を起こすという。また、女性の1人はこのGH入居前は、問題行動を起こすと、精神病院で一時的に保護されたり、警察にも数回保護された経験があるという。GHでは、スタッフは彼らに絶えず接して強い関心を示し、さまざまな生活支援を行うことで、行動障害に対応しているとのことであった。
 カリフォルニア地域居住サービス会社を訪問した足でGHに向かったわれわれは、いきなりそこの入口で、話題に出た男性障害者がタバコを吸っているのに出くわした。やや緊張ぎみにGHに入ったわれわれは、利用者やスタッフと接して、すぐにここが家庭的で自由な雰囲気の生活の場であることが理解できた。
 利用者は男性(48歳)、女性(27歳)、女性(22歳)の3名で、いずれもコミュニケーション能力などの知的水準は割合高いようで、デイセンターを通して一般の職場で働いており、それぞれが順次自分の部屋に案内してくれた。いずれも個室の12畳前後の部屋で、清潔によく整頓されていた。
 男性はビルの清掃関係の仕事をもち、きれいずきで、特に自分の部屋はよく整理されていて、ガールフレンドの写真が大きくはられていた。29歳の女性は、一緒に訪問したボランティアの手をとって自室に案内してくれた。彼女はレストランで清掃の仕事をしており、部屋にはいろいろなぬいぐるみがおいてあった。テレビのビデオカセットも多く、電池で動く回転式の玩具を面白そうにわれわれに披露してくれた。22歳の女性はこれまで問題的行動が最も多かったが、レストランでハンバーグを加工する仕事をしている。部屋にはバスケットボールの有名選手のポスターがはってあり、音楽カセットも多くもっていた。最初は、両手で顔を覆う仕草を何回も繰り返していたが、次第に自然体で接してくれるようになった。その日は偶然彼女の誕生日で、夕方の5時から8時までパーティが開かれる予定になっていた。
 そのGHで利用者と接している間は、スタッフはほとんど口を出さず、利用者の意向が中心で、生活主体者として尊重されるなど、運営上の配慮が感じられた。スタッフはほぼマンツーマン体制で日中3名、夜間2名が常勤し、他に2名の補助体制がある。仕事場でも、それぞれデイセンターのスタッフによる精神面でのサポート体制がとられていた。このホームは、1人当たりの運営費の支給月額が最高額の7154ドルとなっていて、そのうちの多くが人件費に充当されている。
 ウイークデイのプログラムは、朝6時頃に起床し、シャワー、朝食、服薬、身繕い、ベットの整理をして、9時に出勤し、2時半頃GHに帰ってくる。3時から5時半までは自由時間、5時半から8時までは食事の準備、夕食、食卓の片付け、洗濯・乾燥、アイロンがけ等を行い、8時から10時までが自由時間、10時以後就寝となっている。週末はショッピングや余暇活動、旅行などを楽しんでいる。
 スタッフによれば、3人の利用者がこのGHに入居してから1年8か月になるが、利用者全員が情緒的に安定し、社会的な成長が明らかにみられるという。

表2 カリフォルニア地域居住サービス会社のレベル4のグループホーム
グループホーム名 ミスウトール ウエストフィールド グランド ジョーダン ケロッグ ティーゲン マラカイボ
利用者数 4名 3名 4名 3名 3名 3名 3名
スタッフ数

日中

3名 2名 2名 2名 3名 2名 2名

夜間

2名 1名 1名 1名 2名 1名 1名
1人当たりの支給月額 6,348ドル 4,736ドル 5,542ドル 3,924ドル 7,154ドル 5,542ドル 3,924ドル

評価

 カリフォルニア州のGHは理念的には、脱施設化政策の一環として入所型施設を縮小させ、その代わりの中核的な居住サービスとして位置づけられ、発展している。
 1970年代から脱施設化の方向は着実に進展し、発達障害局の最近のデータを参考に最近10年の推移をみても、入所施設の典型とされる発達センターは11.5%(1988年)から5.5%(1997年)に減少し、6名定員までの成人GHは15.8%(1988年)から17.3%(1997年)に増加している。この間、自立生活居住の形態も5.1%(1988年)から12.1%(1997年)と増加している。
 そして、脱施設化政策の反映として、スタッフのマンツーマン体制の必要な重度障害者用のGHの建設も進んでいる。
 たとえば、前述のレベル4のGHであるケロッグホームの運営費の支給月額は7154ドルであり、これを利用者数と12か月を乗じると年間に25万7544ドルで、日本円にすれば年額約3090万円(4名の場合は4120万円)となる。最も安い費用のGHでも月額3924ドルで、日本円にすれば年額1695万円(4名の場合は2260万円)が公費で助成されている。GHの経営は民間団体に委ねられるとはいえ、その全額が公費で賄われているのである。わが国の、重度障害者用GHの年間公費助成は、4名の利用者で約600万円であるのに対して、福祉二流国のアメリカでさえ、地域居住施策に対してこれだけの公費助成がなされているのである。
 しかしスウェーデンの状況と比較すると、カリフォルニア州の発達障害者居住形態は親同居が46.3%(1997年現在)とほぼ半数を占め、GHなどの地域統合型居住は中核的な形態には至っていない。その原因の1つは、やはり2人部屋にみられるように、GH施策が劣等処遇のレベルにあることや、本来のGHとはいえないような7名以上の大規模GHがかなり存在していることがあげられる。このようなレベルのGHを、親や本人が積極的に選択したいとは思わないであろう。
 成人用大規模GHは、最近では減少傾向にある。前述のデータでは11.4%(1988年)から5.8%(1997年)に減少している。ケロッグホームを見学した際の実感としても、利用者が生活主体者として尊重される最低限の物理的要件は、小規模で一定空間の個室が確保されることであるように思われる。このようなレベルのGHと自立生活形態という地域統合型居住の拡大が、ここでの重要な課題の1つとなる。
 とはいえ、カリフォルニア州の家族の同居が、わが国の家族同居とは内容の面で大きく異なっていることも留意しておく必要がある。カリフォルニア州では親同居の成人障害者に対して、親の資力にかかわりなく、本人に一定レベルの社会的収入がなければ全員にSSIが支給され、介助その他の生活支援が必要であればIHSS(家庭内援護サービス、いわゆる介助手当)が支給され、親同居でも最低限の経済的自立と他人による介助者ケアに依存することで、親の介助からの自立も可能となるのである。
 これに対して、わが国では親族扶養が優先され、介助手当方式を導入した介護人派遣事業の受給資格条件として、親同居の場合は親の年齢が65歳以上であること、などを設けている自治体もあるのである。わが国にとって、カリフォルニア州の発達障害者の居住形態とサポートシステムから学ぶべきことは多いように思われる。

(さだとうたけひろ 大阪府立大学)

〈注〉 カリフォルニア州発達障害局の発達障害者の居住形態に関するデータは何種類か入手したが、いずれもその数値に若干の違いがみられる。ここでは居住形態を最も詳しく分類しているデータを採用した。


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年5月号(第17巻 通巻190号)36頁~41頁