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ハイテクばんざい!

感覚障害をもつ人々のための福祉機器

―聴覚障害のある人のコミュニケーション―

法村ひろし

手話によるコミュニケーションの限界

 聴覚や発声に障害をもっている方とのコミュニケーション手段としては、手話・口話が一般的なものとなっており、近年はテレビドラマ等の影響もあって健聴者でも手話の習得をする人が増えてきました。しかしながらこの種のジェスチャーによるコミュニケーションは相手と対面していることが要求されること、また、会話しようとする双方が手段として技術の習得をしていることが前提となります。
 最近では、低価格化が進むテレビ電話を聴覚障害者の通信手段に用いることも研究されていますが、現在の一般家庭では普及していない高速の専用回線の利用が前提となること、またその条件が整ったとしても、手話を取得していない健聴者との会話が実現するものではありません。このように、手話という会話手段は習得者同士、かつ対面という状況でのみ有効となっているのが現状です。

近年のコミュニケーション機器

 近年ではファクシミリはもとより、電子メールや高性能ポケットベル、データ通信が可能な電子手帳(PDA)等が多く製品化され、また実際の利用に係るコスト(機器購入費及び通信回線使用料)の面でも利用が容易な状況となっています。これらの機器は音声を用いる必要がないため、聴覚障害・発声障害をもつ方々にとっても有効な通信手段として徐々に普及しつつあります。しかしながら、これらはメッセージを伝えることはできても、コミュニケーションの本来的な場面である「会話」の機能を提供してくれるものではありません。
 健聴者が電話で普通に行っている会話、例えば「もしもし、鈴木です。今、何してる? ちょっと相談したいことがあるんだけれどいい?」。このようなやり取りは実現できていません。また、コンピュータをはじめとするデータ通信機器の場合、だれにでも電話のように簡単に利用できるものとはなっていないことも現実です。現在、通信機器開発の最前線では、これらの問題を解決できる機器が製品化され利用が始まっています。

会話を可能とする通信機

 聴覚障害者用に、遠隔地間で「会話」を実現できる機器としては、代表的なものとして国内では「筆談通信機ライトーク・パーム」、「イーコット」の2機種、米国では俗称「TTY」の名称で多くの機種が製品化されています。
 TTYはキーボードと文字表示用のセグメント・ディスプレー、電話回線との接続部から構成されており小型のワープロに似た形状をしています。これを家庭の電話回線に接続、同じ製品をもつ相手の電話番号を押して相手を呼び出し接続されると、自分のタイピングした文字が相手側の機器のディスプレーに現れるというものです。回線が接続されている間は何度でもメッセージのやり取りができるため、電話による音声会話に近い感覚で利用できるのが特徴です。このTTYの歴史は古く、現在では高速道路の非常電話や空港の公衆電話などにも設置されている例が多く、また小型軽量で持ち運びにも簡単な電池駆動タイプのものも製品化されています。キーボード文化であること、また電話回線を使った音声以外のデータ通信での利用が古くからなされている米国ならではの製品と言えるでしょう。
 日本ではこのあたりの事情が大きく異なるため、製品化の面で遅れをとったものと考えられます。日本では、ワープロやパソコンの利用者以外の人にとってキーボードの使用がなじみにくいこと。また、アルファベットと異なり、日本語文章の入力には「かな・漢字」変換等の入力面でのスキルが要求されるため、製品の価格や操作面でも、およそ「だれにでも使え、安価で購入できる」製品の提供が困難であったというのが実情です。現在日本で製品化されている「筆談通信機」は、手書きの文章やイラストをそのまま扱える手法を採用することでこれらの問題を解決し、またファクシミリやパソコン通信との接続をも可能としたものとなっています。

筆談通信機とは

 筆談通信機の最大の特徴は会話のリアルタイム性にあります。紙にペンで字を書くように、機器の表示画面上に専用ペンで絵・文字を描くと、ペンの動作そのものが時間をおかずして相手の機器の画面上に現れるため、あたかも相手が隣にいて筆談をしているイメージでの会話が実現されます。ファクシミリや電子メール等の通信手段が電話と異なるのは、これらの機器が「情報の蓄積・一括伝送」しかできないため、「会話」の手段には成り得ないことが挙げられます。先に例として挙げた電話による音声での会話に近いものが、筆談という機能で提供される訳です。この手段の優位性は、相手が日本人であれば日本語という共通言語を使用できることであり、手話を習得していない人ともコミュニケーションを図ることができる点にあります。さらに、ペンで書いた文字やイラストがそのまま相手に送られるため、キーボードを使ってのテキスト文字しか使用できない場合と比べ、多彩な感情表現が可能な点も、コミュニケーションで重要な「楽しさ」というメンタリティの付与に貢献しています。
 筆談通信機のコンセプトは以前からあり、業務用としてかなり高価なものが製品化されていました。また、NTTからも聴覚障害者向けに「ひつだん」の名称で製品化された機器もありましたが、機能や使い勝手の点でこなれた製品でなかったためか、普及には至りませんでした。一般的に、通信機の普及に関しての最大の問題点は、通信をしたい相手が同種の機器を所有していることが前提条件となっていることにあり、その意味では現在製品化がなされている「筆談機」も同様の問題を抱えていると言えます。しかしながら、親しい友人同士が帰宅後に会話を楽しみたい場合や外出中の家族との連絡が必要な場合など、利用価値や必要性が高い状況にある方々には便利な機器であるため、徐々に普及していくものと考えられます。また、移動中でも既存のファクシミリとの送受信が行えること、電子メール等が利用可能である等の機能の付加も、機器の普及に寄与するものと考えられます。

筆談器の実際の使用について

 筆談通信機は言うなれば、聴覚に障害がある方のための「電話器」に相当しますが、電話を使う習慣のない人には不慣れと思われる動作を要求します。つまり、音声電話によるコミュニケーションではごく当たり前である「電話がかかってきたら、呼び出し音がしている間に受話器を取る」という動作に相当する行為が必要となることです。ファクシミリの着信を光で知らせる「フラッシュ・ランプ」等の製品は既に各メーカーより製品化されていますので、筆談通信機はこれらと組み合わせて利用することが必要となります。
 筆談通信機の操作については、機器の操作に不慣れな人を意識し、かなり簡便にはなっていますが、「だれにでも簡単に」という水準にはあと1歩の感があることも否めません。それでも、テレ・コミュニケーション、つまり遠隔地間や屋外にいる人とも会話ができることなど、新しいコミュニケーション機器としての魅力は十分にあると考えられます。

今後の製品の開発動向

 今後の製品開発に求められるものとしては、不在中の自宅に入ってきたファクシミリを外出先から閲覧できる機能、手書きの留守番電話を実現できるシステム等の開発が既に進められています。またインターネットを利用して、長距離、長時間の筆談通信における通信費を大幅に低減することを目標にしたシステム等の開発も進められています。

(のりむらひろし 株式会社ブライトン)



(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1997年12月号(第17巻 通巻197号)46頁~48頁