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特集/障害者プラン推進・厚生省予算

リハビリテーション どこまできたか日本の現状

職業

小川 孟

 職業リハビリテーションには国際的な基準があります。ILOが1955年に採択した「障害者の職業リハビリテーションに関する勧告」と、1983年の「障害者の職業リハビリテーション及び雇用に関する条約」や同じ名称の「勧告」などがそれです。
 わが国はILOの加盟国で、上記の条約も批准していますから、これらの基準が職業リハビリテーションの諸施策に反映されていることは確かです。法律・制度や施設、きめ細かいサービス・メニューは、他の加盟国に比べて遜色がないくらい整っているという見方もあります。しかし、障害の種類や程度によってサービスに格差があり、特に重い障害がありながらも働くことを希望している人々へのサービスは、量・質ともに決して十分とはいえない状態です。
 何より問題なのは、職業リハビリテーションが国際的な基準よりも極端に狭く規定されていることです。「障害者の雇用の促進等に関する法律」には、“障害者に対して職業指導、職業訓練、職業紹介その他この法律に定める措置を講じ、その職業生活における自立を図ること”が職業リハビリテーションだと定義されているのです。そして、これらのサービスは公共職業安定所を中心に展開されるものとなっています。労働行政としては、行政の縦割りの制約からこのように規定せざるをえなかったのでしょうが、国としての職業リハビリテーションを説明している「障害者白書」もまったく同じ論調で、当然含まれるべき厚生行政や文部行政で行われている部分については触れていません。
 1960年代からの障害者自立生活運動(IL)が、それまでのリハビリテーションの考え方を大きく変えたことはご存じのとおりです。めざすゴールは必ずしも経済的自立だけでなく、年金その他の収入によって介助を受けながらの自立生活も含まれると考えられるようになりました。したがって職業リハビリテーションの対象も、障害の種類や程度がより重度の人々に拡大され、到達ゴールも雇用就労や保護的就労だけでなく、さまざまな就労形態が選択されるようになりました。
 このような変化に対して、わが国の職業リハビリテーションが立ち遅れていることは否定できません。さまざまなサービスの現場や専門職の努力はあっても、全体のシステムが幅広いニーズに応えるようにはなっていません。伝統的なモデルの構築が整わないうちに新たなニーズに直面し、重度の障害者を含むサービス体制の建て直しに決め手を見いだせない状態にあるといえるのではないでしょうか。
 当面は、働くことを希望する障害者に応じる窓口の一本化、現実的な到達ゴールとそこにいたるまでのサービス過程の十分な説明と選択権の保障、分散しているサービス現場の役割の確認と連携、それらの一貫したサービスなどが課題であると思います。

(おがわはじめ 津山みのり学園)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年3月号(第18巻 通巻200号)21頁