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気になるカタカナ

ユニバーサルデザイン

八藤後 猛

 わが国では、ここ2年ほどの間に広まった新しい言葉である。おおよその意味は「だれもが使うことができる設計思想」のことである。その対象となるものは、工業製品をはじめとしたすべての消費財に住宅、都市、公共交通機関の設計に関するまで、広範囲にわたっているようである。このように、ややあいまいな表現になるのは、ことばが先行し、その意味するところがわが国だけでも諸説あり、混沌としたままであるためである。
 このことばの発祥とされるアメリカでは、工業デザイナーであるロン・メイス氏が提唱者として知られている。しかし、氏が提唱するまで、この概念がなかったとは考えられない。わが国でも、障害者等の特別なニーズをもった人たちに対応するという「バリア・フリー」は古い概念であり、はじめから対象を限定しない「ユニバーサルデザイン」が、製品開発における基本理念であるべき―といったかたちで紹介されることも少なくない。しかし、これまでわが国でバリア・フリーに関して研究や事業・運動として実践してきた人々は、すでにこの概念を前提としていた。とくに「ユニバーサルデザイン」ということばは使っていなかったとしても、その概念はすでに存在していたのである。
 最近では、わが国の各メーカーにおいて、このことばを使って商品を紹介するものがたいへん多くなってきた。ただし、これにかかわった者は容易に理解できるように、技術的に本来の「ユニバーサルデザイン」を製品や設計に反映することは非常に困難である。「すべての人が使いやすいもの」を目的としてデザインすると、結果として「だれもが使いにくいもの」になることがままある。すなわち、設計対象者の固有のニーズがあいまいになってくるのである。たとえば、現在「ユニバーサルデザイン」の象徴として紹介されるシャンプー、リンスの区別のためのギザギザは、それだけでは知的障害をもつ人などには適切ではないであろう。色、形状、表示デザインの統一などがさらに必要かと考えられる。
 筆者は、むしろこうした「1つの製品で共用できる」デザインにこだわるより、米国リハビリテーション法第508条「電子機器へのアクセシビリティ」のように、さまざまなニーズをもった人が自分にあった入出力インターフェース(使い勝手)のあるものを選択できること、またはそうしたものが本体に取り付けられる受け口を、ハード的、ソフト的にもつという設計理念が現実的であり、かつスペシャルニードをもつユーザーからみても好ましいものであると考える。

(やとうごたけし 日本大学理工学部建築学科助手)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年3月号(第18巻 通巻200号)23頁