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各国のセルフヘルプグループ

海外のセルフヘルプグループ

―アメリカ・AboutFaceの活動―

中田智恵海

 海外のセルフヘルプグループを紹介する本シリーズの第2回から5回までは、口唇口蓋裂児者のセルフヘルプグループを中心に紹介する。この第1回として、カナダに総本部を、米国にも本部を置いてきめ細かに、しかも大規模に活動しているAboutFaceを紹介しよう。
 AboutFaceは口唇口蓋裂や痣などの先天性による場合でも、やけどや癌の手術の後遺症などの後天性による場合でも、いずれの理由であれ顔貌が異形の人々のグループである。AboutFaceという会の名称はそのまま読めば「顔について」という意味であるが、同時に、「(意見や主義を)180度転換」という意味もある。顔貌が異形な人は自分自身でも醜く劣っていると捉えて劣等感をもち、生き生きと自分らしく生きていけない、あるいは他者からは気持ち悪い・お化けのようだと見られ社会からも排斥される。しかし、顔に痣ややけどのケロイドがあっても、手術で眼や鼻がなくなっていても、あるがままに誇りをもって社会に出て生きよう、そして一般市民にもスピークアウトして自分のこれまでの抑圧された考え方も社会の考え方も180度転換しようという、スローガンでもある。

▼AboutFaceの成立経緯

 まずは、1943年に米国において、アメリカ口蓋裂頭骨顔協会(American Cleft Palate-Craniofacial Association : ACPA)が発足する。これは医学・歯学・聴覚言語・看護・心理学といった口唇口蓋裂治療の関連領域の医療専門職からなる会員組織である。
 1973年には慈善団体の口蓋裂財団(Cleft Palate Foundation : CPF)が発足した。ACPAとCPFとは事務所と職員とを共有している。この財団は、①無料の電話相談、②会報の発行、③ACPA会員への研究調査費助成を活動の三本柱としている。現在、この事務所はピッツバーグの小さな民家の地下にあり、2人の専任職員がいるが、その責任者は30歳代の修士号をもつソーシャルワーカー、ナンシー・スマイスである。
 筆者が訪れた1994年の夏、彼女は、生後1か月の次男を事務所の机の横にベビーベッドを持ち込んで、非常勤の職員やボランティアや若い男性職員の助けを得て子育てしながら、世界から寄せられる論文を基に口蓋裂学会誌を編集したり、後に述べるAboutFaceの会報の編集をもしていた。この財団そのものの会員は専門職で名誉会長・会長・事務局長・部長というようにランクづけされた官僚機構であるが、この事務所は極めてアットホームな横の組織であるような印象を受けた。ちなみにこのCPFの部長はAboutFaceの総本部長のアンナ・ピレッギである。これは専門職集団とセルフヘルプグループとがゆるやかに連携していることを示している。
 1960年代後半には既にいくつかの地域に口唇口蓋裂児者の会が存在したが、1984年、検眼士グーズベイン博士は口唇口蓋裂のある孫娘が生まれた時、全米レベルで親と子ども本人を支援することの重要性を痛感し、全米各地に呼びかけて、全米口唇口蓋裂協会(National Cleft Palate Association : NCPA)の設立を提唱した。この時、CPFの支援を大いに得ている。そして、45人の口唇口蓋裂児をもつ親と本人とが全米17州からシカゴに集まった。これが、NCPAの始まりである。
 NCPAが1987~88年に実施した電話調査によると、全米には90の口唇口蓋裂児者の会があり、そのうち回答を得た68の会の総会員数は、4938人で200人以上の大きな会は5つあった。プログラムには、新生児が生まれた時に病院に出向いて相談にのる(71%)、市民に広報して教育する(64%)、専門職に患者の生活や苦悩に気づいてもらう(51%)、ことばの教室・授乳の援助・会報の発行・口唇口蓋裂チーム医療への参加・他の患者の代弁・電話相談、などを実施している。会が抱える問題は、会員が治療の時期が終わると退会する、新しい会員を増やす、会のリーダーになり手がない、会合への参加者が少ない、である。これらは大抵のセルフヘルプグループが抱えている問題と大差はない。他に会員の傾向を見ると、地域の小さな会に入会しつつ、NCPAから情報を得ている会員は40%あった。また、61%は別の地域の会とも交流があった。地域の小さな会は、互いに連携を取りあう必要性があることをうかがわせる。
 一方で、この同じ頃、1985年にカナダ・トロントでAboutFaceが設立された。設立者は血管不形成のために片側の頬が異常に発達した顔貌が異形のエリザベス・ベドナーと、顔貌が異形の子どもたちを養子に迎えている看護婦の2人で、この2人を大いに支援したのがトロントの子ども病院の精神科医ルフェーブルであった。AboutFaceは急速に発展し、理事会が設けられ、職員も増えた。この総本部から発送される会報はおよそ3000部である。
 米国のNCPAとカナダのAboutFaceとが合併したのは1992年のことであるが、この時にNCPAはなくなり、会報もAboutFaceからだけ発行されるようになった。この会報の発行にはCPFも協力している。現在もAboutFaceの総本部はトロントにあるが、年1回の総会はすべて米国において実施されている。米国の部長はパム・オニックス。NCPAはなくなったが、各地域の口唇口蓋裂児者の会はそのまま存続しているし、全米組織の他の組織も存続してAboutFaceとゆるやかに連携している。英国の同じような組織のChanging Facesとも大西洋を越えて交流している。
 他にAboutFaceと連携しているグループには、Let's Face It, FACES, Wide Smilesといった病気や障害のために顔貌が異形の人たちのすべてのグループや口唇口蓋裂のために顔貌が異なる本人たちとその親たちのグループがある。
 Let's Face Itは年1回発行の会報に、年間に出版された専門職や当事者による関係誌の出版目録を紹介し、顔貌の異形に対する社会の動きを広報している。会長のベッツィ・ウィルソンは癌の手術で顔の左半分が変形し、それが原因で離婚に至ったことがこの会をつくるきっかけとなった。顔の異形が人生に与える影響の大きさを広報すると共に専門職へも医療の促進を呼びかけている。
 FACESの正式名はもともと、「全米頭骨顔障害者協会」であったが、1997年に障害者というのは公平でないし不適切だという理由から、「全米頭骨顔協会」に名称変更した。この最近の会報には医療情報や当事者の声だけでなく、湾岸戦争経験兵士にゴールデンハー症候群(顔の半分の骨が不正常に発達し、顔の歪曲が生じる病気)の子どもが多く出生しているという事実を掲載している。この病気は通常2万人に1人の割合で生まれるが、7万5000人誕生した湾岸戦争経験兵士の子どものうち16人がゴールデンハー症候群であり、その出現率は通常の4倍であった、とさりげなく記されている。平和を願い、訴えるインパクトは大きい。社会に開かれたグループである。
 Wide Smilesの設立者ジェイソン・グリーンには韓国で出生した3人の口唇口蓋裂のある養子がいる。彼女が養子を望んだ時、養子協会から口唇口蓋裂の子どもがいるがどうかと、問い合わせがあり、何のためらいもなく養子に迎えた。もう1人望んだところ、再度口唇口蓋裂児を紹介された。愛する2人の子どもたちに囲まれて幸せを感じている時、養子協会から、もう1人口唇口蓋裂のある女子をためらわずに迎えたという。これは単に偶然の愛と真実にすぎない、と話す。養子に治療や育児に困難が予想される口唇口蓋裂児を迎え、そのための情報を得るためにグループを設立する。このように自由で利他主義な生き方もあるのだ。
 このグループは年1回の総会を除いて、すべてインターネットによる情報提供と会員とのオンラインによる交流に終始している。この情報量は驚くべき多さである。口腔外科・形成外科・矯正歯科は言うに及ばず、遺伝学者・麻酔科・臨床心理などあらゆる関連専門職とリンクして、本人が意思決定しやすいようにと不偏公正な情報を提供している。
 AboutFaceがこのように、種々のグループとゆるやかに連携して組織を大きくしたのは、大別して顔貌が異形だけであって機能的な障害がない者に対する社会の無理解に対して、社会へのアピールを強化することと、メンバーがエンパワーメントするようにとの2点を目的としている。

▼AboutFaceの活動内容

 トロントの総本部は有給の職員が3名、当事者の親、ソーシャルワーカー、事務職員から成り立っている。米国本部には、会員数1760人、データベースには4500人が登録されている。運営資金は会費の20ドルと賛助会費、企業からの助成金を主としている。必要な人には無料で情報や会報を提供していて、基本的に会員と会員外とを厳密には分けていない。
 活動内容は年1回の総会、会報の発行、会員・専門職・一般市民の教育、情報の提供、親睦を主とし、固有のニーズをもつ子どもたちを代弁し、顔貌の異形を理由に教育の場で差別を受けた場合に、教員が対処する方法などを教育するプログラム、心理的に葛藤する親の状況を医師に伝え、医師を教育するプログラムを組むなど、極めて多岐にわたっている。
 年1回の総会では、CPFが主催する専門職の学会とAboutFaceの総会とが同時期に同じ会場で開催され、専門職と当事者とが同席する昼食会や夕食会を企画している。食事を共にしながら、当事者の声を専門職に伝えて教育すると共に、対等な医師患者関係を創出する工夫がなされている(写真 略)。ディナー形式で500人以上がテーブルにつく昼食会は壮大で、この席でその年、会のリーダーとして特に顕著な働きをした人がCPFから表彰され、400ドルと総会に出席する交通費が与えられるなど、専門職から自立して堂々と社会に自己を主張して、本人たちが医療の、あるいは人生の主人公となるよう、積極的に活動している。
 この会の会報には、手術前の口唇口蓋裂児やトレチャーコリンズ、痣、癌の手術後などの顔をアップで大写しにして掲載している。ちなみに私が関係する関西地区・口唇口蓋裂児と共に歩む会では、過去に手術前の口唇口蓋裂児の写真を掲載した女性週刊誌に対して、抗議文を送ったことがあった。手術前の口唇口蓋裂児を公開することは人権侵害であると訴えたのである。しかし、事実を隠すことこそ、口唇口蓋裂児者を否定することになる。AboutFaceはありのままを社会に提示して広報し、理解を得ようとすると共にメンバーはありのままで自分らしく生きることを教えようとしている。なんと堂々としたグループではないか。
 今回は個人主義と民主主義の発展した米国の典型的なセルフヘルプグループを紹介してセルフヘルプグループの育つ土壌に触れた。次回は、オーストラリアの事情を紹介しよう。

(なかだちえみ 武庫川女子大学)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年3月号(第18巻 通巻200号)54頁~57頁