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1000字提言

可能性発見の旅路―2―

寺谷隆子

 国際交流が運んだエンパワーメント

 人間としての尊厳を十分に尊重され、可能性を発揮して地域の一員として活動し、社会に参加していきたいという精神に障害をもつ人々の願いを、世界の人々の共通の経験と関心であると考え、定年後の人生を米国と日本の精神保健福祉の懸け橋として過ごそうとやってきたセント・ジョン夫妻(文化事業協会)と出会ってから10年を迎えます。
 10年前、夫妻の企画した研修ツアーへの参加者は精神病院で働くソーシャルワーカーの私と青年精神科医師2人、職業リハビリテーションの専門家3人の6人でした。
 訪問した米国の地域精神保健福祉サービスでは、精神障害者自らが乗り越えてきた経験を生かし、専門家や住民と一緒になって生き生きと支援活動を展開していました。私たちを案内するメンバーの姿は、サービスのコンシューマー(消費者)としての自覚と責任(安全、知る、選ぶ、意見を反映するという4つの権利)を講義し、自らの可能性を活かした支援活動への貢献を紹介する誇りに満ちているようでした。
 感動と興奮の研修ツアーの最終日にシャリー夫人は、米国においても今の日本の状況と同様であった過去の歴史をふりかえり、「あなたと私は同じ地球人、あえて違いを探すなら、夢に向かって挑戦する勇気をもっているかの違いだ」とゆれる私の心を直撃し、決断を催促するかのように背中をマッサージしながら、一方の手で握手を求めてきたのです。
 私の人生のハイライトは、この日から始まりました。精神病院を退職し、民間の地域精神保健福祉活動に専念することになった私は、夫妻から「今、世界は地球村になった」と書かれた文化事業協会の額を手渡され、今後の交流を約し激励を受けました。
 以来、10年にわたった国際交流は、ピアカウンセリング、援助付き雇用、クラブハウス方式、SST、マネージメントサービスなど、いずれも精神障害という共通の経験を基盤とした相互支援の実現へ、エンパワーメントの風が止むことはありませんでした。
 支えあって共に生きる社会の実現をめざす地域支援活動は、コンシューマーとスタッフが共通の展望をもち、地域の人々と連帯して共同活動を展開することです。
 すべての人々にある可能性を信じ、その可能性を社会との関係の中で発揮して自己効力感を得られること、それは地球上のすべての人の共通のニードであり、互いに手を取り合って歩むノーマライゼーションへの感動の旅路であるといえるでしょう。

(てらたにたかこ 社会福祉法人ジェイ・エイチ・シイ板橋会理事長)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年4月号(第18巻 通巻201号)31頁