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ハイテクばんざい

生活に役立つ自助具

―食事―

谷合義旦

 自助具とは低下したり失われた動作能力を補い、日常生活活動(主に身の回り動作 : 食事、排泄、更衣、整容、入浴)の自立を図るために工夫考案されたものをいいます。従来、個々に必要とされる自助具は、個人の機能によって形やデザインがさまざまであるため、既製品として市販されにくかったのですが、近年、福祉用具の研究開発が進み、生活に役立つ自助具や機器等がたくさん市販され、手に入れやすい状況になりました。
 ここでは身の回りの動作に関する自助具について、役立つ情報として市販されているものを動作項目ごとに紹介します。このシリーズを手がかりに、利用する人々の日常の生活が少しでも豊かになることを望みます。

食事

 家族やみんなで囲む食卓は楽しく、食事もおいしくなるものです。だれでも食堂で楽しく食べられるようになりたいものです。食事動作には盛りつけ、配膳、摂食、後かたづけ等の動作がありますが、ここでは摂食動作に限定して話を進めます。
 人の手を借りずに飲んだり食べたりできるようになるのはほぼ3~4歳頃です。他の動作に比べて早く自立しますが、その方法や程度には人により違いがあり、身体や精神機能の発達に伴って摂食動作も自分でコントロールできるようになります。摂食動作が障害される主な要因には、①知能の低下を主にした精神的問題、②体幹や上肢、口腔の運動機能の低下(具体的には筋力の低下、運動範囲の制限、運動調節の不良など)を主とした身体的問題、③手指や舌、口腔のシビレや知覚低下を主とした感覚的問題、④使用する食器や盛りつけ方、安定した姿勢を保持するための椅子や介助者の有無など環境的問題が考えられます。人によっては1つの問題であったり、複数の問題であったりしますが、自立しやすい動作ですのでいろいろ工夫してみてください。

姿勢・肢位―座って食べよう

 寝たままでは咀しゃくや嚥下(飲みこむこと)も困難です。介護者もこぼさないように口元まで食事を運ぶことにも苦労します。座位は食事しやすい姿勢であるとともに、胃腸の働きを良くし消化機能を促進します。また、座位をとることで頸、体幹の筋や腹筋の強化にもなり、排泄動作時に必要な姿勢の保持や腹圧を作り出すことにも役立ちます。

食器

 食器は食事をおいしくするために大変重要な役割をしています。いろいろな材質の食器が市販されていますが、中でも陶器の食器は感触を楽しむことができ、重さが固定として役立つこともあります。その他材質は異なりますが、食器の深さを工夫したり、皿にガード等をつけることでスプーンやフォークが使用しやすく工夫されている食器や、底にラバーをつけたり、ネットを敷いたりして滑りにくくした食器もあります。自分の状態に適した食器を選んで、楽しく安定した食事をしてください。

●木製すくいやすい皿:深さがあり、皿の縁が内側に湾曲しているのですくいやすくなっています。大・小の2種類があります。
●スクープディッシュ:皿の片側が高く内側に湾曲しており、こぼさず楽にすくえるようになっています。裏に滑りどめゴムが付いています。
●大皿(みずくさ)・鉢(七宝):丸みのある角皿です。四角の角に食べ物を追い込むことですくいやすい形になっています。また、片側の縁が低くなっておりスプーンを入れたとき柄や手が当たらないようにデザインされています(写真1 略)。
●すべり止め付き食器・すべり止め付き椀:底に滑り止めのフォームラバーがついていて食器が固定されやすくなっています。
●フードガード:皿の縁の一部にとり付けて壁を作り、食べ物をすくいやすいようにします。ガードは内側に湾曲し、こぼすことなくスプーンですくいやすいようになっています。
●食器用バンパー:半透明プラスチック製で、丸い皿なら使用できます。

スプーン・フォーク・箸など

 肘関節の運動は手指を口元に近づける働きを担っており、食事動作では重要な機能です。手指の運動が低下し、しっかりした握りができない人には、スプーン、フォーク、箸などの握り部分を太くすると便利です。
 太柄の部分は、形状や材質等が異なった種類がたくさん市販されていますので自分に適したものを選んでください。
 肘関節の運動も低下し手指が口元に届きにくく、しかも手指の筋力が弱かったりして、しっかりした握りができない人には、スプーン、フォーク、箸などの握り部分を太くすると同時に長柄にしたり、角度をつけたりすると便利です。柄の部分は、形状、材質や重量等、異なった種類がたくさん市販されていますので、自分に適したものを選んでください。
 なお、自分の手の状態や形状に合わせて形作れたり、機能の変化に合わせて形を変えられるものもありますが、使用する際には専門家に相談してください。

●折り曲げスプーン・フォーク・ナイフ:太柄で握りやすく、使う人の状態に合わせて左右に曲げて使うことができます(写真2 略)。
●組立式スプーン・フォーク・ナイフ:ハンドルはプラスチック製で、リングで取り外しや調節をします。
●ソフトグリップ:スプーン、フォーク、ペンなどの柄を握りやすいように太くするためのグリップです。太めでソフトなスポンジ状のホームラバーで軽くて握りやすく、握力が弱い人などに適しています(写真3 略)。
●形状記憶スプーン・フォーク、スポーク : 形状記憶ポリマーを使用しており、使う人の状態に合わせてグリップの形を自由に変えられます。

 箸で食事をしたいが、通常使用する箸では操作ができない場合には、箸の握り部分をつなげてピンセット様式にしたものもあり、手指の機能が低下している人にも使用できます。

●らくらく箸:ピンセット様式のステンレス板の両端に箸を固定し、つまんで食事ができるようにしたものです。手指が動きにくくなっている人でも箸で食事ができます。
●新型お箸(箸蔵くん):箸の握りの部分を一体にして握りやすくしており、手指機能が低下している人のために工夫された箸です(写真4 略)。

カップ・グラスなど

 寝たままの姿勢で飲める吸い飲みやストロー付きカップがあります。また、座位をとることができ、手指機能の低下でカップなどを持つことができない人には、工夫されたカップやカップホルダー(取っ手)を使用すると便利です。カップが持ちやすい形状になっていたり、取っ手に手を差し込んで握らずに持つことができるホルダー(グラス・カップ)などがあります。

●両手付きカップ:両側に斜めにとりついた握りは手指に合わせた形状になっており、滑らず、しっかりと握りやすくなっています。
●ストロー付きカップ:寝たままでも飲めるように工夫されたカップです。
●らくらくゴックン:工夫された吸い飲みで、お茶用、おかゆ用、ミキサー食用があり、寝たままの姿勢で飲みやすくなっています。口が開きにくい人やスプーンを噛んで食べさせにくい人に便利です(写真5 略)。
●ガードル付きコップ:把持できない人が取っ手に手を差し込んで握らずに持つことができます。

その他

 食事用エプロン:手や指の動きが不自由だったり、歯が抜け落ちたり、顎の力が弱くなったりすると、食べこぼしがひどくなります。食べこぼしによる汚れを防ぐためにはエプロンがいちばんです。水や油をはじく素材で襟元や腰でしっかり留めるもの、エプロンをトレイの下に敷き込むタイプや裾を折り返して大きなポケットを作り、そこで食べこぼしを受けるポケットタイプのものなどがあります。

●ハナビースエプロン:汚れはふき取るだけで臭いやシミがつかず、食べこぼしはエプロンの裾を折り返したポケットが受けてくれます。
●食事用エプロン:防水性が高く簡単に汚れを落とせ、洗濯もできます。食べこぼしも安心なワイドサイズです。留め具がマジックテープで着脱が簡単です。
●食事用サロン:エプロンの周囲をギャザーにして、食べこぼしも受けられるように工夫されています。

付記

 装具(スプリント)をしていても食事ができます。

●手首スプリント:手首や手指の機能改善や変形、拘縮の予防のためにスプリントを装着してもスプーンホルダーを組み合わせれば食事ができます。

(たにあいよしあき 埼玉県衛生部看護福祉系大学設立準備室主幹)

〈参考文献〉
1 「作業療法士が選ぶ自助具・生活機器」 社団法人日本作業療法士協会編、保健同人社、1995.
2 「97福祉機器用品最新情報」 時事通信社編、時事通信社、1997.
3 「福祉用具アセスメント・マニュアル」 市川ほか編、財団法人テクノエイド協会、1995.


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年4月号(第18巻 通巻201号)36頁~40頁