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フォーラム'98

Webアクセシビリティ・イニシアティブ

Dr.Daniel DARDAILLER
(フランス国立情報処理自動化研究所〔INRIA〕インターネット管理担当)

はじめに

 インターネットに関連する国際的な標準化作業が活発に進められている今日、従来のパソコン通信につけ加えマルチメディアがネットワークに融合しはじめていることはよく知られている。その標準化作業の過程でもっとも重要な中枢的役割を果たしている国際団体であるWWWコンソーシアム(W3C)は、アメリカ(マサチューセッツ工科大学計算機科学研究所[MIT/LCS])、ヨーロッパ(フランス国立情報処理自動化研究所[INRIA])、そしてアジア(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)の3地域センターを活動拠点として1994年に設立された。W3CはWWWに関連する国際標準化や各種の技術指針の製作を推進、インターネット関連産業に対して大きく寄与している。

W3C/Web Accessibility Initiative(WAI)

 1997年4月7日に発足したWAIは、今後のWWWの普及と開発進展を促進するW3Cにより国際的非営利団体として活動を開始した。さまざまな障害をもつ人たちの要求に対していかに迅速かつ適切に反映しつつ、Webの可能性を引き出すことを目的に、インターナショナル・プログラム・オフィス(IPO)を設立し、ソフトウエア・プロトコール等の新技術の開発、それに関するガイドラインの作成、さらに企業育成や研究開発指導等のWeb関係プロジェクトをコーディネイトする機関として幅広く活動を進めている。以下、活動内容を紹介する。

・技術開発分野:HTML(HyperText Markup Language)、HTTP(HyperText Transfer Protocol)、XML(Extensible Markup Language)、MML(Multimedia Markup Language)、SMIL(Synchronized Multimedia Integration Language)、CSS2(Cascading Style Sheets)等
・障害者を交えたHTML編集トゥール(Authoring tools)などの評価改善
・ブラウザーやHTML編集トゥール製作企業(Microsoft社やNetscape社等)、あるいはWebコンテンツ制作者を対象にしたガイドラインの作成
・コンテンツ制作者の障害者に対する意識の改善向上
・標準化過程におけるユーザーインターフェイスや新しいシステムのデザイン等の高度な研究・技術開発

だれがWAIを支援しているか

 W3Cは、コンピューターおよび通信系企業や財団、または学校などの教育現場から政府関連に至るまで約215メンバーからの幅広い支援を基に、40人ものスタッフを雇用するまでに成長している。
 1997年1月にアメリカのホワイトハウスにて開催された「障害者とWebアクセシビリティ大会」は、WAI、特にIPOの必要性について参加した企業や教育現場からの同意を得ることに成功し、またアメリカ政府からは具体的な基金支援さえも約束され、これからのW3C/WAI/IPOの飛躍に大きな期待が寄せられている。
 なお、IPOの資金援助活動に興味のある方は、IPOディレクターのジュディー・ブルーワー(Ms. Judy Brewer jbrewer@w3.org)までご連絡ください。

WAIの概要

 次世代を情報化社会と認識している我々にとって、WWWとは情報の水源池である。心身に障害をもつもたないにかかわらず、一個人としてWebを通じて情報へアクセスすることを権利として主張することは当然のことではないだろうか。ところが、コンテンツ創作者の些細な不注意による、あるいは無責任なホームページが氾濫する今日、そのアクセスさえも奪われつつある事実は見過ごせない。こうした現状の対処策として、SMIL、XMLやHTTP、MMLに加えてCSS等Webコンテンツを補充するようなフォーマットやプロトコールの発展を我々は強調すると同時に、あらゆる面でWebアクセシビリティに関連する事業・団体に積極的な参加・協力を求めている。

WAIの技術

 元来GUI(Graphical User Interface)として知られるWebコンテンツは、HTMLを基本に画像や音、あるいは動画等を一体にフォーマットする代表的なマルチメディア・ドキュメント形式であるが、昨年12月18日のHTML4.0改定に伴い、障害者への具体的なアクセシビリティへの対応を念頭にW3CがCSSを必須条件に加えたのは次世代への新たな第一歩だといっても過言ではない。
 CSSとは、HTMLのプレゼンテーション形式として用いられるが、フォントやカラー、マージン、または音声読み上げ等機能をテキストとして個別に認識し、セクションやパラグラフごとの番号付与などの際も同様に選別し活用される。しかし、Webコンテンツ上に全く支障をきたさず、Webページを点字や合成音声で読むものにとっては、こうしたテキスト認識が重宝である。

技術応用のためのガイドライン

 ブラウザーやHTML編集トゥール製作に必要なガイドラインが産業界にいくつか存在するが、近年のめざましい新技術開発のために各製品間の互換性が失われつつある。WAIでは、いくつかの互換性のあるガイドライン作成を今後の技術発展のために、さらには障害者への適切な対応をも成し遂げるという趣旨のもと、以下の内容を推薦し検討している。
・最新のWeb技術
・最適な環境での利用法(例えば、点字への転換は合成音声からもスクリーンリーダーからも区別される)
・利用者(さまざまな障害の重複化や重度化に対する開発者の認識)
・障害に対する認識

コンテンツ創作者の教育と自覚

 障害をもつ人に対していかにしてWebコンテンツを利用しやすい形にできるかが、今後のコンテンツ製作者の第1の課題である。効率の良い方法を試みようとする創作者による研究と模索が重要であることを前提に、WAI/IPOは以下の項目の教育プログラムを促進している。
・HTML編集トゥール製作企業との交流(Microsoft社やNetscape社等)
・Web専門のデザイナーとの交流
・Webデザインの教育者たちとの交流
・報道・出版機関との交流
・利用者同士の親善
・主なWWWカンファレンス・セミナーへの参加促進
・主なWWWサイト・HTML編集トゥール製作者との交流
・雑誌等への論文の発表
 特に、このプログラムに関しては、W3Cの部分的役割分担活動という見方よりも、これからのHTML編集トゥールと共にトレーニングプログラムの促進の一環として継続させていきたい。

研究と開発

 Webコンテンツを補充する製品の標準化に向けての品質改良・開発研究はWAIにより日々促進されている。その1つとして知られるのがPICS(Platform for Internet Content Selection)の標準化である。当初の目的は、子どもたちの性に関するWebサイトアクセスへの抑制システムとして開発されたが、今では各Webサイトに関連するプライバシーや著作権等の管理として助成している。

おわりに

 WWWが市場に登場してから約7年以上が経過するが、今では情報化時代の次世代を背負うのはWebともいわれるほど、その新製品の開発には目を見張るものがある。世界中には10億もの人たちが何らかの障害をもっているといわれ、その障害も精神的・身体的、聴覚・視覚または知的障害などさまざまで、障害の重複化・重度化もある。そのような中で、視覚障害者に対するアクセシビリティを取り上げることで、視覚障害者は点字や音声読み上げ等の機能により画面上の情報に自由にアクセスすることが可能になった。
 それはまた、失読症、いわゆる目は見えても文字の読み書きの困難な人たちにも文章を聞き・学ぶことができるようになるなどの結果を生んだ。アメリカでは、このような副次的な結果を「カーブカッツエフェクト(Curb cuts effect)」として例えられている。つまり、本来は車いすを使用している人のためにつくられたはずの歩道の縁が、ある時はビジネスマンがキャスター付きの鞄と共に歩道の乗り降りに利用し、ある時はベビーカーを押す母親たちにより利用されるなど、1つのアクセシビリティを実現することにより一石二鳥、さらには三鳥という結果を生んだというのである。
 W3C/WAI/IPOが取り組むWebアクセシビリティの使命は、世界中の障害をもつ人ともたない人のためにWebの最高の可能性を引き出すことであり、また的確にその可能性を普及することでもある。
※WAI/IPOの概要・活動報告に加え、SMIL、HTML4.0やCSS2等の最新情報を記載するW3Cホームページ(http://www.w3. org/)は、インターネットで公開されている。

(翻訳・森川比呂美 日本障害者リハビリテーション協会)


(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1998年4月号(第18巻 通巻201号)54頁~57頁