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求められる重度障害者の生活保障の整備

徳川輝尚

1 重度障害者施設に対する制度改革の意義

 今回の改革の重要な意義は、人権擁護とノーマライゼーションの精神を基本としたところにある。この点について異論はない。むしろこれを、重度障害者福祉を高める得がたいチャンスとして活かすべきである。
 しかし、細部においては考慮すべき問題点がある。特に、最重度障害者の生活を保障するためには、いくつかの満たされるべき必要条件があり、その整備が求められる。

2 制度改革と最重度障害者

 今回の改革の基本は、利用契約制度の導入である。これにより、利用者はサービス提供者と対等の立場に立ち、サービスを主体的に選択できることとなる。それは「自ら選び、自ら生きる福祉」の実現であり、人権の視点から見て高く評価したい。
 しかし、改革の基本であるサービスの選択には、所得の保障、十分なサービスの供給、サービスに関する情報、サービス選択の支援が必要であるが、これらの条件を満たすことは、最重度障害者にとって困難が多い。また、契約を確実に締結し、良質なサービスを適正に受けることにも妨げがある。これらについての支援が十分に考慮されねばならない。

3 制度改革への対応

 利用者の立場から見るならば、適切なサービス選択のためには、年金制度や助成金制度などの充実による所得の保障、十分なサービスの供給、豊富なサービス情報の提示、適切な選択支援とケアプランが必要であり、最重度障害者のための手厚い対応が求められる。
 契約にあたっては、申請権が確保され、確実な申請手続き、契約内容の確認、応諾義務の遵守、契約の適正な締結の仕組みが必要である。契約内容の違反や、人権に反する扱いに対する苦情を解決するための利用しやすいシステムの設置が望まれる。
 施設運営の立場から見ると、最重度障害者を援助する療護施設の経営主体は、その専門性、安定性、継続性にかんがみ、社会福祉法人が行うのが適当であると考える。しかし、契約制度の導入により、「選ばれる施設づくり」のための創意工夫や効率化など、企業努力が求められよう。
 サービスの十分な提供には、障害者プランの完全実施が最低の必要条件である。施設整備には、現行の補助基準を超える施設整備費と借入金返済の財源確保が不可欠である。
 サービス費用の積算が介護量のみに限定されず、リハビリテーション、医療、社会参加などを加算し、十分なサービス費用(報酬)の基準額が設定されることを要望したい。
 施設の形態は、障害の軽度・重度への二極分化の状況に合わせ、社会自立の可能な障害者に対する地域に密着した小規模・分散型住居と、重度・重症の障害者に対する介護・医療色の濃いセンター型施設、ならびに、これらの施設や機関の総合化・相互利用が求められる。また、地域福祉に対しては、通所・短期入所事業などを促進させ、施設の社会化を図ることは、今後の重要な課題であろう。
 今回の制度改革において、最重度障害者や重症の障害者については、保護対策としてのセーフティ・ネットが考えられているが、人権擁護の基本理念に基づき、単に保護するのみでなく、最重度障害者に対するノーマライゼーションの対策が検討されるべきである。
 苦情解決の仕組みは、人権擁護に基づき、早急に対処すべき課題であるが、第三者機関の設置については、施設の運営にかかわることであり、慎重な対応が求められる。
 以上の対応にとって、何よりも重要なのは優れた専門職員の養成であり、特に、人権擁護の実践や、対等関係についての意識改革を進めることが急務であろう。

4 制度改革への要望

 制度改革の実施は、決して拙速に陥ることなく、1.最重度障害者の生活に難儀を強いてはならないこと、2.施設の安定経営を確保すること、3.実施にあたっては、利用者と事業者の納得と合意を得ることを重視し、ソフト・ランディングを原則とすべきである。
 福祉改革において、障害者基本法の第11条が規定する「重度の障害があり、自立することの著しく困難な障害者について、終生にわたり必要な保護を行う」という公的責任は守られなければならない。改革がかかげる「普遍化」が、「多数者の理論」に傾き、マイノリティ(少数派)としての最重度障害者の福祉を看過することのないよう、最重度者福祉を明確に位置付け、実践することを強く要望する。これは、福祉の本質的課題である。

(とくがわてるひさ 全国身体障害者施設協議会会長)