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新しい仕組みと知的障害者福祉施設

松下良紀

1 利用制度と判定基準

 厚生省が平成11年4月15日に発表した「社会福祉事業法等一部改正法案大綱」では、改正の趣旨を『個人が尊厳を持ってその人らしい自立した生活が送れるよう、個人の選択を尊重した制度の確立、質の高い福祉サービスの拡充、個人の自立した生活を総合的に支援するための地域福祉の充実を図る』としている。
 社会福祉基礎構造改革は、知的障害をもつ人々にとってどのような変化をもたらすか。また、直接サービスの提供者である施設は、どのような変革が求められるのか。社会福祉事業法、障害者福祉3法の改正をめぐり、知的障害児・者施設の立場から新しい仕組みを考えてみる。

 今改革の大きな特徴は、行政が行政処分によりサービス内容を決定していた措置制度から、利用者が事業者(施設)と対等な関係に基づきサービスを選択する利用制度に改められることである。利用者の主体性が尊重され、与えられる福祉から選ぶ福祉の時代を迎えることにより、社会福祉に対する考え方の枠組みが大きく変わろうとしている。
 施設も選ばれるサービス事業者の一員として、その目的を明確にしサービスの質的向上を図らなければならないが、知的障害をとりまく利用制度の条件整備として、介護等支援サービス(ケア・マネジメント)導入に際し、障害の判定基準を見直す必要がある。
 現行の療育手帳制度においては、障害程度の判定は知能指数を基本としているが、新しい利用制度においては障害者個々の日常生活面、行動面、あるいは保健面等における介護度を重視した全国共通の判定基準が必要となる。

2 利用者の保護

 自己決定能力においてハンディをもつ知的障害者の地域生活は、地域福祉権利擁護制度、苦情解決の仕組み、成年後見制度など下支え機能の整備と実効性が伴わなければ対等な関係は難しい。
 昨今、社会福祉事業をとりまく不祥事は監督官庁にまで及び、利用者はもちろんのこと真摯に取り組む施設関係者を嘆かせている事態は憂慮すべきことである。
 新しい利用制度では、利用料助成にふさわしい質を有するサービスを提供する施設・事業者を特定するために指定制度が創設されるが、指定基準の明示と定期的な再審査などの仕組みが必要となる。
 施設団体である日本知的障害者愛護協会では、利用者の権利擁護・サービス評価を第三者機関にゆだねるだけでなく、自己検証の仕組みとして一昨年策定した「倫理綱領」を具現化するために「知的障害施設職員行動規範―1999年版―」「知的障害施設チェックリスト―改訂版―」の作成を終え、関係施設に周知を図ることにした。

3 今後に向けて

 全ライフステージに沿った地域支援体制を確立するためには、学齢期の児童の把握を含め市町村障害保健福祉行政の機構を児・者一元化する必要がある。市町村の役割として法定化が見込まれる「身体障害者・知的障害者・障害児生活支援相談事業」と施設に委託されている障害保健福祉圏域資源の「障害児(者)地域療育等支援事業」の連携は、重層・横断的な障害児・者の地域支援を進めるうえで実効性の高いものになるだろう。
 一方、学齢期から青年期にかけての発達支援は、成年の生活支援とは異なる成長期ならではの支援が求められている。障害程度にかかわらず、親から独立した主体的な大人の暮らしを得るために、家族を含めた児童期の支援体制を生活圏の中で確立しなければならない。少子高齢社会だからこそ、障害の有無にかかわらず、少ない子どもを有用な人材に育てる先行投資が必要である。
 今後は、総合的な相談・調整機能の充実を図るとともに、地域単位で直接サービスの総量を増やさなければならない。生活介護を主とする施設は、一極集中型の単一機能施設よりも、リハビリ、日中活動など複合機能をもつ小規模分散型の施設が求められている。社会福祉法人設立要件の緩和や、障害者通所授産施設の定員要件の緩和は、要請に合致した改正と言える。
 50年目の改革はあまりにも遅く、あまりにも速いスピードで駆け抜けようとしている。高度経済成長期が日本人の価値観を変えたと言われるように、急激な変化は人の心や社会までも変えてしまう。多様なサービスの参入、競争原理の導入、利用者と事業者の対等な関係、自己決定等々、耳に心地よいキーワードが並ぶ社会福祉基礎構造改革だが、市場競争の谷間に新たな社会的弱者を生み出さないようにしたいものである。

(まつしたよしのり 日本知的障害者愛護協会副会長・地域福祉委員長)