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ハイテクばんざい!

自立へのきっかけは身だしなみから
―整容動作―

谷合義旦

 ベッドで過ごす時間が長くなったり、外出の機会が減ってしまって、他人との接触が少なくなると、つい手をかけなくなってしまう動作が整容です。身なりを整えることは、身体の清潔を保つことだけでなく、他者に見られる、または見せるために自己を整えるという意味では、心理的・精神的自立に結びつき、社会の中で自立した個人として相互の関係を維持するために重要な動作ですので、習慣化することが自立への早道です。
 その主な動作について紹介しましょう。

1 精神機能に問題がある場合

 身だしなみを確認したり、汚れが気になったり、また、それらを正したりすることができる理解力、判断力は自立のための基本的要素です。鏡を見ることを習慣化して、身なりを確認したり、正したりしましょう。また、使用するものを認識しやすい色合いにしたり、操作するうえで簡単にできるような工夫や環境の調整をすることが大切です。

2 運動機能に問題がある場合

 腕が上がりにくく、ブラシやくしで髪がとかせない場合は、長柄のものやそれに角度をつけたもの、筋力が弱くしっかり握れない場合は、太柄のものや軽量のものなどを使うと便利です。このように粗大な動作は工夫で自立が図れますが、爪切りなど比較的細かい動作は、目と手の協調性、巧緻性、正確性が要求され、しかも手指の筋力がないと自立は困難であり、介助が多くなります。

3 環境に問題がある場合

 自立できる機能があるにもかかわらず、特に、洗面台やその周辺、浴槽やその周辺の環境的な問題で自立できないことが多くみられます。たとえば、広い銭湯では、ゆったり着替えられ、引き戸なので操作がしやすく、段差があまりないので、浴槽への出入りも無理なくできます。このことは環境が大きく影響していることが分かります。

整髪

 動作としては簡単ですが、手が頭に届かなかったり、ブラシを保持できなかったりすると寝癖を取るのも大変です。また、ドライヤーを使用するとき、両手でできない場合は、ドライヤーを固定して使うと便利です。

○長柄のブラシ・くし:主に肘関節に運動制限があり、手指が頭部まで届かない人に便利です。

○太柄のブラシ・くし:手指の筋力が弱く、柄をしっかり握れない人に便利です。

○太長柄のブラシ・くし:手指が頭部まで届かない人で、しかも筋力が弱く、柄をしっかり握れない人に便利です。

○ホルダー付ヘアブラシ:手指の運動制限で握れない人に便利です。手部に固定して使用します。

洗顔

 この動作の自立は、洗面台に身体が近づけられて(車いすでもできるように)、動作がしやすい浅めのボールで、なおかつ水栓金具が操作しやすいものが比較的便利です。また、市販されていませんが、洗顔ブラシにヘアブラシと同じように、適当な柄を取り付けて使用すると便利です。

○太柄洗顔ブラシ:手指筋力が弱く、柄をしっかり握れない人に便利です。

歯磨き

 健康維持のためには大切な動作です。各種の歯ブラシが市販されていますが、歯並びや歯の状態に適したものを選択してください。電動歯ブラシも普及していますので、手が震えたり、動きの悪い人には便利です。

○長柄歯ブラシ:手指が口まで届かない人に便利です。

○太柄歯ブラシ:手指筋力が弱く、柄をしっかり握れない人に便利です。

○太長柄歯ブラシ:手指が口まで届かない人で、しかも筋力が弱く、柄をしっかり握れない人に便利です。

○ホルダー付歯ブラシ:手指で握れない人に便利です。手部に固定して使用します。

爪切り

 手が震えたり、力の弱い人には困難な動作です。大きめの爪切りのほうが一般的に使いやすく、さらに、台に固定すると力が入りやすく操作もしやすくなります。

○爪切り(はさみ型):握りの部分が持ちやすく、堅い爪、肥厚した爪に便利です。

○台付爪切り:爪切りを保持、操作できない人に便利です。

○吸盤付爪切り:台が吸盤で固定されるため、操作時に力が入りやすくなっています。

○爪ヤスリ:仕上げ作業に使います。爪が切れない人は、早めにヤスリで整えることもできます。

ひげ剃り

 無精ひげは良い印象を与えません。できれば毎朝剃る習慣をつけるようにしましょう。電気剃刀も種類が多いですが、スイッチ操作や刃の掃除がしやすいものを選ぶと便利です。

○電気剃刀ホルダー:市販されていませんが、ホルダー付ヘアブラシと同じように手部に固定して使用できるように工夫すると、手指に障害のある人には便利です。

化粧

 わが身が気になることは、他人への意識が出てきたことでもあり、心の余裕が社会人としての認識を芽生えさせ、精神的自立につながるものと思います。

○口紅ホルダー:自在蛇口を利用したもので、市販されている自在蛇口に口紅をさして固定して使用します。関節障害などで手が口に届きにくい人に便利です。

入浴

 一般的に、日本人にとっての入浴は身体の清潔を保つことだけでなく、疲れを癒すことも主な目的となっています。
 入浴文化を考えると、次のようないろいろな意味があります。
1.汚れを落とす(衛生的意味)
2.疲れをとる(健康的意味)
3.心身を清める(宗教的・儀式的意味)
4.心身を癒す(医療的意味)
5.楽しみ(娯楽・遊興的意味)
 入浴動作の自立には、理解力、判断力などの精神機能、また更衣動作(本誌99年1月号「毎日の着替えが自立への近道」参照)、洗体動作などの身体機能及び環境が影響しますが、ここでは、主に安全に対する配慮や洗体動作に用いる自助具を紹介します。

○浴室:障害者や高齢者にとって入浴は最も自立しにくい動作の一つです。段差がある、床面が滑る、装具を外す必要がある、片足ずつ大きく振り上げる必要があるなど困難な動作が多く要求されます。使用する人の状態に合った環境を設定し、より安全に行えるようにすることが大切です。

○浴槽:改造や改築などを行う場合は、機能に合わせた浴槽と、家族と共用できるようにすることが大切です。また、和式・洋式・和洋折衷型など大きさ、形、素材などによる分類がありますので、専門家に相談するとよいでしょう。

○入浴用チェアー:小さなキャスターが付いていると便利で、移動いすとして、また、乗り移りや洗体用として用いることができますが、身体機能やバランスが必要ですので、自分の機能に適したものを選ぶようにしましょう。

○手すり:体格や歩行能力によって取り付ける場所が異なります。また、壁材によっては十分な固定力が得られない場合もありますので専門家に相談することを勧めます。

○入浴用リフト:重度の障害をもつ人の支援機器です。そのため、介護する人も使いやすいものを選ぶことが大切です。また、高価でもあり、使用環境が限定されるものもありますので、購入する際は専門家に相談してください。

○滑り止めマット:浴室・浴槽は最も滑りやすい場所です。歩行が安定していない人や、注意力が低下している人には滑り止めマットを活用すると安全性が高まります。しかし、浴室は多湿でカビが生えやすく不衛生になりやすいので、よく洗って風通しの良い場所に干してマットの管理をしてください。

○入浴用自助具:運動や筋力などの身体機能の問題で、洗体動作(洗う、拭く)がしにくい人に便利です。

 98年4月号より身の回り動作の自立に関し、生活に役立つ自助具をシリーズで紹介してきましたが、この稿をもって終わります。障害に合わせた自助具等を利用して快適な生活が送れることをお祈りします。

(たにあいよしあき 埼玉県立大学保健医療福祉学部作業療法学科)


〈参考文献〉

1 谷合義旦著 『介護用品の選び方』 家の光協会、1998
2 (社)日本作業療法士協会編著 『日常生活活動』 協同医書出版、1994
3 (財)テクノエイド協会編 『福祉用具カタログ1998』 中央法規出版、1998

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
1999年7月号(第19巻 通巻216号)