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会議

CSUNカンファレンスに参加して

和山貴子

はじめに

 「技術と障害者」と題してロサンゼルスで毎年開催されるCSUN(California State University,Northridge)会議は、先端の障害サポート技術の展示と研究発表の場として広く知られる大規模なイベントです。今年は去る5月15日から20日までの6日間、開催されました。
 14年前に大学構内において約600人規模で始まったこの会議は、回を重ねるごとにその規模を広げ、今では世界約30か国から3000人近い参加者を集めるまでになりました。開催中は、テレビ局やラジオ局からの取材もあり、メディアの関心の高さを伺い知ることができました。

セッション

 1回30分または1時間、朝8時から夕方5時30分まで、多い日には80以上ものセッションが開かれました。あるアメリカの大学からは、障害をもつ学生が就職するために行っているさまざまなサポートの実践例が紹介されました。視覚障害で片方の耳が聞こえず、そして車いすを使っている重複障害の学生がレセプショニストとして希望の職を得た例では、ハード面では車いすが自由に移動できる職場環境の徹底改善など、ソフト面では、企業と共に働く職場の人たちに対して障害についての理解を深めてもらい、サポート体制を充実させるといったノーマライゼーションの実践を、教育と就労の面から紹介してくれました。
 一人ひとりの能力を見つけ、そして可能性を広げる。これは他の障害をもつ学生に大きな希望を与えるだけでなく、障害者とともに働く、障害をもたない人たちにとってのリハビリテーションでもあるのです。
 この発表を聴いて、昨年11月に来日し、30年に及ぶCBR活動の経験を講演されたデイビット・ワーナー氏の言葉を思い出しました。「社会こそがリハビリされる必要があるのです」。
 学習障害児向けの教育ソフトを開発しているセッションでは、9~12歳の子ども向けの読書パソコンソフトを実際使ってみました。既存の物語を解読しやすく再編したもので、語彙が少なく、一つひとつのセンテンスが短くなっています。ゆっくりと読み、読んでいる箇所を色で示してくれ、とてもよくできています。学習障害をもつ子どもは、同じ意味でもその文法を変えることによって理解に差があり、たとえば次の文が名詞で始まる文には他動詞で終わらないようにしなければならないなど、50以上におよぶガイドラインを基に物語りの再編をしていました。
 いくつかのセッションに出席して感じたことは、一方的なやりとりではなく、むしろ参加という意味合いのものが多くみられたことです。率直にコメントなり質問を発し、それによって発表者と聴講者間の対話が生まれ、そして情報交換の場と化します。もちろん、中には質疑応答の時間を削り、一方的に発表(しかも早口)に集中したセッションもありましたが、少なくとも教育分野のセッションにおいては、発表側と聴講側が対等に情報を共有するという、両者にとって理想的かつ有意義な形式スタイルでした。

展示

 120におよぶ団体、企業の参加がありました。視覚/聴覚障害者用にはPWキオスクと呼ばれるインターネットのホームページソフト閲覧機がありました。高さ約1メートル50センチ、縦横50センチ大の機械に付いている14インチほどのスクリーン上左側にそのページ操作のコンテンツが並列してあります。たとえば薬局のソフトだと「このページを読む」「薬の説明」「新製品紹介」「サポート」「前のページに戻る」「問い合わせ」などが表示してあり、触れた箇所を音声で読み上げます。知りたい情報へは手前にある大きなエンターキーを押すとたどり着きます。さらに、スクリーン左上の角端から右角端へまっすぐ線を引くように指を移動させると、はじめのページ、いわゆる「ふりだし」に戻ることができますし、とにかく無駄を省き、できるだけ分かりやすくをモットーにしたような情報提供ツールです。

その他

 会場となった二つのホテルには連日多くの人が集まり、案内等のボランティアがたくさんいるものと思っていましたが、それらしき人はほとんど見当たらず、実際聞いてみると10人ほどでした。「それで十分だったのですか?」と尋ねると「臨時採用を含む25人のスタッフとコンベンションセンターから派遣された15人がいたのですが、それでも大変でした。ですから来年は必ず増やします」と、今回の会議コーディネーターのキャロルさんは話してくれました。さらに、「今回の目玉は何でしょうか」と聞いたところ、「インターネット分野はセッションも展示も顕著に増加し、また内容も細分化して充実しており目を見張るものがあります」という返事でした。
 最後に、この会議の各セッションのペーパーから展示参加団体一覧、プログラムといった詳細すべてがインターネットであらかじめ知ることができ、今回のような大規模な会議には特に便利であったことを付け加えておきます。

(わやまたかこ 日本障害者リハビリテーション協会)

レポート

池田智博

デイジー関連のセッション

 私が参加したデイジー関連のセッションと機器展の様子を紹介します。このセッションでは、デイジーのデータを再生するソフトおよびハードの紹介や音声データをデイジー形式に作成するソフトのデモンストレーションなどが行われました。
 まず、デイジーについて説明します。これまでの録音資料はカセットテープなどのアナログデータでしたが、これをデジタルデータに変換する際、または新たにデジタルデータとして作成する際に、国際基準として規格を定めたものをDAISY(デイジー)といいます。国際基準として規格化することによって、関連企業や組織がデイジーの規格に対応するハードウエア、ソフトウエアを開発、あるいはそれが既存のシステムに組み込まれたりします。
 また、こうした動きにより利用する側もパソコンや専用の再生機器を使用して、デイジーデータを再生するシステムの選択ができるようになります。セッションでは、デイジーデータを作成するソフトの紹介がありました。
 このソフトはWindows環境で動作するSigtuna Recorder(シグトゥナ レコ-ダ-)といいます。特徴としては、音のデータを切り取ったり、貼りつけたりすることができ、編集が簡単にできます。また、既存のアナログデータや声を直接に取り込んで編集してデイジーに変換したりすることもできます。このソフトは近い将来、音声とテキストと画像(動画)を同居させることができ、視覚障害の方に限らず、だれもが利用できるデイジーデータを作成することができます。
 セッションには、視覚障害の方および関係者の方々が数多く参加していて、非常に注目されていることが感じられました。また、どのセッションでも共通していたことですが、だれもが使えるシステム設計が重要視されているように思われました。偏りがちなシステムから、どんなシステムでもだれでも使うことができるという働きかけをすることが、これからは重要になっていくように思われました。

機器展―日本との違い

 機器展は会期中、セッションと平行して行われていました。出展している企業は、小規模の企業が多く、また、日本にはない発想のものがいろいろとありました。たとえば、子どもの頃によく遊んだブロックの上の部分を点字の配列にして、遊びながら点字が学べるといったようなものや、拡大文字装置で、拡大する装置自体は他のものとあまり変わらないのですが、読むときに装置を移動させる仕組みに特徴があるものなどです。これは、いろいろなパーツを装置に付けたり外したりすることができるのですが、その取り付けにはマジックテープが使用されていました。精密機械とマジックテープという発想がとてもおもしろく、とても感心しました。
 また、ソフトではWindows環境の読み上げソフトがたくさん出展されていました。日本には、まだこれほどたくさんのソフトはなく、決まった企業しか作っていないというイメージですが、アメリカではたくさんの企業が参入し、企業同士がしのぎを削っているのが分かりました。同じ分野でこれほどたくさんのソフトがあると、利用者がより使いやすいソフトが多いのもうなずける気がしました。

(いけだともひろ 日本障害者リハビリテーション協会)