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フィンランドからの便り

フィンランドにおける
手話通訳サービスの現状

柴田浩志

はじめに

 フィンランドはもうすぐ夏至を迎えようとしています。夜9時、人々は散歩をしたり、ビールを片手に話し込んだり長い夜を楽しんでいます。
 私は、社会福祉法人清水基金の第17回海外研修生として「フィンランドにおける聴覚障害者福祉」を学ぶため約2か月間、フィンランドろうあ協会のご協力を得て、首都ヘルシンキにある聴覚障害総合センター「ライトハウス」を拠点に、フィンランド各地の聴覚障害者関係施設や教育機関を訪問させていただいています。今回は、フィンランドにおける手話を中心とした通訳サービスの現状について紹介したいと思います。
 フィンランドの通訳サービスの特徴は、法に基づいたサービスの提供と、高度な専門技術を有する手話通訳者の養成ではないかと思います。
 具体的に紹介しますと、通訳サービスは「障害者サービス援助法」(The Services and Assistance for the Disabled Act)に基づいて、ろうあ者、盲ろうあ者、中途失聴者を対象に提供されます。フィンランド手話通訳者協会の1998年度年次報告によると、ろうあ者(Sign Language usersという言い方が広がっている)5,000人、盲ろうあ者750人、中途失聴者約3,000人がサービス対象とされており、その数は全人口510万人の0.17%を占めています。

3年半コースによる手話通訳者養成

 フィンランドろうあ協会は1985年まで、スロットマシン協会の資金援助を得て170時間の短期養成コースを各地で開催していましたが、1983年秋、フィンランド南部の都市トゥルクの大学(Turku Christian Institute)において手話通訳者養成1年コースが始まったことにより、この短期コースは1990年を最後にすべて終了しました。その後、フィンランド北部の都市クォーピオの大学(Pohjois-Savon Kansanopisto)にも養成コースが設けられ、現在、両校合わせて毎年約40人が3年の(昨年秋より3年半課程開始)養成課程を修了し、手話通訳者として社会に送り出されています。
 フィンランドでは、この両校での専門的な通訳者養成を頂点に、大学や各自治体などで市民を対象とした手話講習会がさまざまな形で行われています。現在、フィンランドには500人以上の手話通訳者が全国社会福祉委員会のリストに登録されていますが、その約半数は両校の3年コースの修了者です。最も新しい両校の3年半コースのプログラムには昨年、高卒の資格を有する18歳以上の者が、トゥルクの学校に638人、クォーピオには505人が志願し、各々21人、16人が合格するという狭き門となっています。
 先日、今年9月から始まるクォーピオの3年半コースの第2次入学試験に立ち会う機会を得ましたが、手話実技、心理テスト、語彙力試験、面接と大変厳しいものでした。3年半のコースでは140単位(1単位40時間)、総計5,600時間とほぼ4年制の大学に匹敵する教育が行われ、盲ろうあ者や中途失聴者へのコミュニケーション技術、教育関係での手話通訳技法、翻訳技法、心理、社会問題等幅広い分野にわたった学習が行われています。
 なぜ、多くの学生が手話通訳を志願するのかミッコネン学部長に伺ったところ「フィンランドではテレビ、本、講演会等至る所で手話を見ることができ、手話は一つの言語として人々の関心の的となっています。手話を学ぶということは、公用語をいくつももつフィンランド人にとって、ロシア語やスペイン語を学ぶのと同じ感覚なのです。むしろ、非常に魅力的な言葉として受け止められています」という言葉が印象的でした。
 両校を卒業した学生は、全国22の通訳機関やろうあ協会で主に働きますが、常勤で働ける人は少なく、多くは登録通訳者として働いているのが現状です。
 また、全国ではこの他に聴覚障害の学生の通訳として、約100人が教育関係での通訳に従事していますが、利用件数は着実に増加しており、現在、全国で147人の聴覚障害学生が利用しています。

通訳サービスの利用

 通訳の利用については、障害者サービス援助法で定められており、ろうあ者は年間120時間、盲ろうあ者は年間240時間、無料で自由に通訳サービスが受けられることになっています。
 また、聴覚障害学生に対する教育関係の通訳サービスは、このサービス時間とは別に提供されます。ろうあ協会の役員は「この法律のサービス時間というのは、各自治体がろうあ者等に対し、最低これだけは保障しなければならないというもの(minimum)であり、利用限度(maximum)を示したものではない」と強調していました。
 手話通訳サービスは、全国社会福祉委員会に登録された通訳者のみが行うこととされ、通訳者にはサービス終了後、各自治体が国に準拠して定めた報酬規定に基づき報酬が支払われる仕組みとなっています。

(しばたひろし 京都市聴覚言語障害センター)