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ほんの森

岡知史著
セルフヘルプグループ

―わかちあい・ひとりだち・ときはなち―

〈評者〉松田博幸

 大学の社会福祉学部・学科などにおいて「社会福祉の方法」をめぐる教育が行われているが、そこで取り上げられるのは、一般的に専門職者としてのソーシャルワーカーが用いる援助の方法である。
 そこで、「当事者活動は社会福祉の方法には含まれないのか?」という単純な疑問が生じる。当事者活動は、決して専門職者による実践に比べて価値や必要性が低いわけでもない。“利用者は主人公である”なら、主人公が用いる方法が社会福祉の方法の中心に位置付けられてもよいのではないか。また、当事者による専門職者に対する教育は、重要な「社会福祉の方法」なのではないだろうか。
 しかし、実際には、当事者活動を中心として「社会福祉の方法」が語られることはまれであろう。そのような状況のもとで本書が出版されたことの意義は大きい。
 本書を読んでまず感じるのは、一貫して平易な表現で書かれているということである。しかし、それは単に内容が分かりやすいということ以上に大きな意味をもつ。著者は、「本人の会」においてふだん使われていることばを用いながら、これまで「本人の会」の活動において必ずしも明確にされてこなかった視点を浮かび上がらせ、「本人の会」を進めていくための基本的な考え方を示している。それは専門職者が用いる考え方とは異質なものであり、異質であるがゆえに豊かで自由な活動を生み出す基盤となりうるものである。例えば、「なりたちの崩れるとき」で述べられているような、「本人の会」は生成―消滅するものであるという考え方は、専門職者の発想からは生じにくい一方で、「本人の会」のさらなる主体的な活動を可能にするものであろう。
 また本書は、決して「本人の会」の活動を行っている人たちに対して考えの修正を強いたり、著者の考えを押しつけるものではない。これまでに蓄積されてきた「本人の会」の活動の成果を整理し、その本質を明らかにし、そして、新たな発想を自由に導き出すための枠組みを提供するものである。
 「本人の会」の活動の中で生まれたことばを取り入れ、豊かにし、そして「本人の会」の活動に返すのが研究者の仕事であるなら、本書は「本人の会」の活動への返礼であると言えるだろう。「本人の会」の活動が著者のことばをさらに豊かにして、ことばが再び著者に返ってくることを期待したい。

(まつだひろゆき 大阪府立大学社会福祉学部)