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1000字提言

地域の中で「生ききる」

日浦美智江

 地域の中で生きるということは地域の中で「生ききる」という意味だと思う。14年前、重症心身障害児・者の通所施設“朋”をつくった時、重症の人たちの健康状態が悪くなって朋に通えなくなったら、重症心身障害児施設への入所とつないでいけばよいと考えた。そして朋の1年後に横浜市に重症心身障害児施設を開設し、これで重症の人たちのライフサイクルは、通園施設、養護学校(横浜市には重度・重複障害児のための小規模の養護学校が4校ある)、通所施設、入所施設と保障されたと、ほっとしたものだった。朋ができるまで、重症者は入所施設か家庭かどちらかの生き方しかなく、地域の中で、社会の一員としての生活が組み立てられると考えている人は少なかった。朋も現在のような活気ある朋となる確信があったわけではない。私たちみんなが自然に享受している社会生活が、なぜ重症者には許されないのかに疑問をもったことから、そのチャンスをつくりたいと生まれたものだ。
 当然、命は第一に大切にしなくてはならない。嘱託医と看護婦を配し、試行錯誤の実践の中で、メンバーはのびのびと地域の中での暮らしを謳歌し始めた。街の人たちの中で、笑顔いっぱいのみんなを見ていると、朋はこの笑顔に引っ張られてここまできたのだ、朋をつくってきたのは、だれでもない、重症の人たち本人なのだと思い知らされる。この人たちがその笑顔を、最後まで地域の中で見せてほしい、その願いから朋の2階に朋診療所ができた。健康が優れなくなったから重症児施設へとは言えなくなったからである。
 地域での生活と入所施設での生活とはクオリティが違う。そう感じた時、地域で生ききるための条件に医療が不可欠となった。私たちは病気になれば病院に行き、必要ならば入院ができる。
 現在、障害のある人たちに十分医療は保障されているだろうか。入院が簡単にできるだろうか。朋診療所は入院ベッドをもたない。入院が必要になるといくつかの病院の小児科のお世話になる。年齢が増せばだれだって病気にかかりやすくなる。地域で生きるという言葉が、地域で生ききるという言葉となるためには、障害のある人たちの基礎疾患を捉えたうえでの治療の保障と入院先の確保こそ大きな条件になる。
 生活の基礎となる健康の保障、そのための専門医療基幹病院の設置と医師の確保の方法を早急に考え、実現させることが望まれる。障害のある人たちの地域生活が全うされて、初めてノーマライゼーションが実現すると考えるからである。

(ひうらみちえ 訪問の家“朋”施設長)