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ほんの森

梅永雄二著
親、教師、施設職員のための
自閉症者の就労支援

〈評者〉知原阿稚子

 自閉症という言葉は世間において、いろいろな使い方がされているため誤解を招きやすい。この本にも調査結果が紹介されているように、障害者雇用の経験がある企業においても、知的障害者や精神障害者との相違があいまいな場合も多い。そのうえ一人ひとりの機能障害レベルがさまざまであり、障害の広さや重さも異なる。また非常に高い能力がある反面、「こんなことができないの」と思うような簡単なことができないなど、能力がアンバランスなために誤解を招きやすい。そのようなことを踏まえたうえで著者は、自閉症とは何かについて今までの研究成果の紹介とともに、就労支援という具体的な場面から、幅広くかつやさしく具体的に説明している。
 障害からくる問題行動に対して、なぜそのようなことになるのか、そのようなときにどのように指導すればよいかなど、就労支援の場面のヒントになる著作は少ない。障害にあわせた支援体制が組まれれば、まだまだ就労の場は広げられるはずである。この情報化時代といわれる多くの情報や刺激がある社会において、言語刺激が理解しにくい自閉症者にとって、ルールや原因と結果がどのようにつながるのかも分からない状態に置かれたまま、あれはいけない、これはいけないと禁止ばかりされてはパニックを起こすのも当然かもしれない。しかしながら職場では幸いなことに、視覚に頼ることが多いように思われる。具体的に仕事内容が見える、作業や行動も他の人を見ながら繰り返し時間をかけてまねができる。時間的経過や流れが見え、原因と結果が分かりやすい。「早く」と言葉で指示されるより、製品が積み上げられ、周囲が忙しくしていることのほうが、彼らには理解しやすい。働くことを通して、役割を担うことの充実感、周りから必要とされているという満足感から、生きるという実感を味わっている自閉症者も多い。
 働く体験で彼らの視野が広がり、逆に言葉のとおりがよくなったと家族から報告を受けることがある。この本を読めば、障害に即した支援づくり、環境づくりができれば、「難しい、難しい」と言われつづけてきた自閉症の人たちが、非常に高い能力を発揮するのだということが理解されると思う。そのような環境、社会づくりによって彼らに対する誤解が払拭されるように、多くの専門家が協力できればよいなあと思う。

(ちはらあちこ 島根障害者職業センター所長)