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インタビュー
成年後見制度を知っていますか
本人の立場から

 編集部では、精紳障害をもつ当事者の方とその家族に、成年後見制度についてインタビューしました。
 制度の内容について十分説明できたわけではありませんが、制度のことをまず知ってもらう目的がありました。
 以下、そのまとめたものを紹介します。

 東京都に住むAさんは54歳、現在80歳になる母親と二人暮らしです。発病は20歳の時、病院で分裂病と診断を受け、転地療養のため、北海道旭川の病院に20年入院していました。後半の7年間は院内作業をするまでに回復し、その後、東京に戻り、自宅近くの病院に転院しました。30年以上を病院で過ごし、昨年ようやく退院し、現在は病院のデイケアに月曜日から金曜日の午前9時から午後3時まで毎日通っています。
 現在の状態は本人に言わせると良くも悪くもないそうですが、ここまで回復したのは奇跡的だと先生が言っているのを聞いてもいい状態であることが分かります。話を聞いたときも時折笑顔で答えてくれるなど落ち着いた表情でした。
 Aさんに今心配なことを聞いてみました。まず自分の病気のこと、体のことが一番心配だと言います。母親と二人暮らしなので、お母さんに万一のことがあったらどうしますかと聞いたところ、お金に関しては心配ない、母親が弁護士に全部依頼済みでその点は安心している、と話していました。
 Aさんの家はアパートを経営しています。今までは母親が全部管理していましたが、つい最近母親が倒れて、母親任せだった銀行や集金などを初めて自分でしたそうです。できるかどうかとても心配だったが、教えてもらったら自分でできた、やってみたらそんなに難しくなかったと言います。このことがきっかけで、母親が最近は自分のことを頼りにしてくれるようになったとうれしそうにしていました。母親は自分が死んだらアパートを売って、年金で暮らせばいいと言っていますが、Aさんとしては病院の仲間と暮らすことのできるグループホームにしたいという願いがあります。ケースワーカーにも相談し、病院の仲間とも話し合っています。
 Aさんは経済的には恵まれた状態にあります。母親も自分亡き後を心配し、弁護士に依頼してあるというし、何も心配がないように思えます。しかし、Aさんが考えているように、たとえばアパートをグループホームにしたいという願いをかなえるには、それを何らかの方法で記しておかなければならないでしょう。自分が死んだ後、自分が考えているように事を進めるためにはどうしたらいいかということは、Aさんには分かりません。
 成年後見制度のことを聞いてみましたが、名前は聞いたことはあるけど、中身は分からないということでした。利用してみたいと思うが、どこに頼めばいいか分からない、後見人はだれにしたらいいか分からない、お金がかかると聞いたがたくさんかかったらどうするかなど、分からないことだらけです。話をしているうちに、Aさんはもし後見人をつけるなら後見人は自分の身内に頼みたい、財産も親戚の子どもに譲りたいといろいろ希望がでてきました。
 Aさんのように、成年後見制度といっても、みんなピンとこないのが実情でしょう。実は母親も精神疾患があり、現在、通院しています。Aさんも現在は状態が安定していますが、再発の危険性はなくはありません。しかし、自分一人になってから、どうしようと言っても遅い場合があります。その前に、打つ手立てはないか、そのことをどうやって家族や本人に伝えていけるか、という問題が新たにでてきます。そのくわしい状況を一番知っているのは家族会やケースワーカーの方々です。Aさん自身も何でもケースワーカーに相談してきました。ケースワーカーは生活全般にわたり頼りになる存在として、重要な位置にあります。
 今後は広くこの制度のことを知ってもらうために、関係者へのきめ細かな広報や対応が求められます。Aさん自身もぜひデイケアに来て、説明してもらいたいと言っていました。現場の方の声を聞いて、ぜひ、身近な利用しやすい制度になっていくことを願ってやみません。

家族の立場から

 東京都に住むBさんご夫婦は、おもちゃ屋を営んでいます。ご主人(74歳)は家で製造の仕事をしていましたが、3年前に軽い脳梗塞で倒れ、その後遺症で右手と右足に障害が残ります。奥さん(78歳)は現在、家事をはじめ商売も1人で切り盛りをしています。家族は夫婦と息子1人(48歳)です。
 息子さんは、中学生の時、分裂病を発病。高校1年のとき都内の病院に入院し、以後20年ほど過ごしました。その後主治医の先生の転勤に合わせて東北地方の病院に転院しました。家に戻ってきたのは、平成3年です。現在は、在宅で2週間に一度通院しています。
 日々の生活では、高齢の両親にかわって家のことを手伝っています。買い物に行ったり夜回りをしたり、店のことも簡単な接客はできます。しかし、ときどき落ち着かない様子がみられるので、1人で生活するのは難しいと母親は言います。親としては、高校1年からの長い入院生活で世の中のことに疎いこと、一人っ子なので将来のことがやはり心配と言います。また、友達がいないのが悩みで、病院からも作業所にいくように進められているようですが、本人は気が進まないと通っていません。
 息子さんは「親が死んだら、おれは1人だから、(自分が死んだとき)墓場に入れてもらえるかな…」と不安を口にします。そんなときは母親は「あなたより先には死なない」と答えると、言葉だけでも安心するようです。親としては、普通なら子どもより先に死ぬのはあたりまえですが、子どものことを考えると死ねないという気持ちと、息子は息子で親が死んだ後のことを不安がっています。
 将来、息子さんが1人になったとき年金だけでは生活はできません。息子さんは、お店をたたんで、テナントにしてその収益で生活するという考えがあるそうですが、息子さんが改築の手続きや、テナントの管理などを1人で行うことは無理と母親は言います。
 両親としては、子どもが1人でも安心して日常生活が送れることを望んでいます。では、どういうことがあれば、1人で暮らせるでしょうか。という質問に、信頼できる人が、1週間に一度くらい声をかけてくれたり、困ったことを相談できる人がいればいいと答えてくれました。現在は、何かあったら、病院のソーシャルワーカーに相談すると言います。近所にも以前から相談をしている人がいますが、その人がずっと元気でいるとは限りません。財産管理のほかに、生活のことも見守ってくれる公平な立場の人や機関が必要です。
 Bさん夫婦は成年後見制度を知りませんでした。制度のことを話すと、子どもが死ぬまで苦労することなく暮らせるのはいいことだと思う。しかし、利用する際に鑑定料などお金がかかることを話すと、金額によっては払えないと言って、あまり乗り気ではありませんでした。また、現在は夫婦とも元気なので今のままで大丈夫、必要と思ったときに利用すればいい、という感じでした。
 本当は、今から将来のことを考えておくことが必要ではないでしょうか。特にBさんの息子さんのようにコミュニケーションを取りにくい場合は、日頃から信頼関係を築いていくことが重要で、その中で制度のことを理解していくことがよいのではないでしょうか。成年後見制度について、Bさんたちだけが知らなかったとは言えません。制度があり、それを必要としている人がいます。しかし、それがなかなかつながりません。利用者が窓口に行かなくては分からないというより、地域の中で積極的に情報を提供していってほしいと思います。従来の広報の仕方でよいのかどうか、改めて見直す必要があることを感じます。

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2000年4月号(第20巻 通巻225号)