音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

障害の経済学 第4回

障害者の雇用状況

京極高宣

はじめに

 今回は、わが国の障害者の雇用状況はどのようになっているか、概観してみたい。
 周知のとおり、わが国においては、いわゆる雇用促進法、すなわち「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき、民間企業、国・地方公共団体は、一定の割合以上、身体障害者または知的障害者を雇用しなければならないこととされています。残念ながら精神障害者は依然として対象からはずされていますが、平成9年の法改正により、法定雇用率の策定基礎に知的障害者が加えられたことから平成10年7月1日から新たな法定雇用率が定められています。

 ○民間企業 一般     1.8%
       特殊法人   2.1%
 ○国・地方公共団体    2.1%

民間企業の雇用状況

 平成10年6月1日現在、民間企業の障害者の雇用状況は『障害者白書』(総理府編、1999年)によると、以下のとおりです。
 まず、身体障害者を1人以上雇用すべき企業数は、5万5791企業、雇用されている障害者数は、25万1443人です。前年に比べ1413人の増となっており、実雇用率は0.01ポイント上昇し、1.48%となりました。ただし、雇用率未達成企業の割合も、49.9%と前年(49.8%)よりも0.1ポイント上昇しました。
 企業規模別にみると、実雇用率では、企業規模の小さいところで高く、大きいところで低いという従来傾向はあまり変化がありません。しかし、平成10年においては、前年よりも改善され、雇用されている障害者数は従業員300人以上規模で前年水準を上回っています。
 規模別に詳しくみると、63~99人規模企業(1.91%→1.86%)、100~299人規模企業(1.46%→1.45%)はそれぞれ低下して、300~499人規模企業(1.35%→1.37%)、500~999人規模企業(1.36%→1.38%)、1000人規模企業(1.46%→1.48%)で上昇しています。
 産業別にみると、運輸、通信業(1.59%→1.61%)、卸売・小売業、飲食店(1.03%→1.06%)、電気、ガス・熱供給・水道業(1.60%→1.69%)、鉱業(1.48%→1.55%)、農・林・漁業(1.49%→1.63%)、金融・保険・不動産業(1.30%→1.32%)、製造業(1.70%→1.71%)の各産業で実雇用率は前年より上昇しましたが、建設業(1.30%→1.30%)では同率、サービス業(1.48%→1.47%)では前年より低下しました。全体として、現在の不況下でやや雇用状況の好転がうかがわれるといえましょう。
 また、公団・事業団などの特殊法人については、常用労働者53人以上の法人で、実雇用率は前年比で0.03ポイント上昇し、1.99%でした。

国・地方公共団体の雇用状況

 職員数50人以上の国・地方公共団体の機関で、身体障害者1人以上を雇用しているのは4043機関で、雇用されている障害者数は4万2547人、実雇用率は2.06%となりました。
 なお、国・地方公共団体のうち、現業的機関(郵政省、大蔵省印刷局、林野庁、地方公営企業等)については、雇用率1.9%が適用されますが、身体障害者を1人以上雇用すべき機関(職員数53人以上の機関)の数は322機関で、雇用されている障害者数は6168人、実雇用率は2.30%となっています。
 国・地方公共団体を機関区分別にみると、非現業的機関については、以下のようです。
 非現業的機関については、従来は2.0%が適用されていましたが、平成10年では、国の機関(2.15%)、都道府県の機関(1.68%)、市町村の機関(2.34%)となっています。
 現業的機関については、国の機関(2.14%)、都道府県の機関(3.11%)、市町村の機関(2.65%)となっています。
 国・地方公共団体に雇用されている障害者数は、非現業的機関は4万2549人、現業的機関は6168人で、合計4万8217人となります。したがって、先に民間企業の障害者数25万1443人に国・地方公共団体の障害者数4万8217人を加えると、総計で29万9660人(約30万人)の障害者が一般就業に就いているわけです。この数は、福祉工場や授産施設等の障害者は含まれていませんので、それなりに大きな数値になっていると思われます。
 それにしても、現在、精神病院等に入院中の精神障害者32万人の約3分の1が適切な在宅福祉サービスがあれば、社会復帰できるとすれば、さらに10万人の精神障害者が地域社会で活動できるわけであり、それなりの受け入れが必要です。一刻も早く、雇用促進法に精神障害者の枠をたとえば1.0%の範囲内で加えてもらえれば、全体としての雇用促進は大幅に進むに違いありません。平成10年7月1日以降の法適用による新たな効果は現在、統計的には確かめられませんが、着実に雇用状況を改善するに違いないとしたならば、今後の改革で精神障害者に関しては、誠に大きな政策効果が期待されるのではないでしょうか。

(きょうごくたかのぶ 日本社会事業大学学長)