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障害のある子どもたちは、いま vol.19

障害児と玩具
-やまなしおもちゃライブラリーの活動-

中込直

障害児と玩具

 子どもだちは、おもちゃで遊びながら、楽しい時間を過ごします。そして、その楽しさをまわりの人たちと共感し、共有しながら、「ひと」とのかかわり、「もの」とのかかわりを深めていきます。障害をもつ子どもたちにとって、おもちゃは自発的な遊びの道具であり、また、人とのコミュニケーションを図る道具でもあります。自発的な遊びの中から喜び、楽しみが生まれ、おのずと学ぶ意欲が湧いてきます。そして、その喜びや楽しみ、意欲をだれかに伝えたい、分かち合いたいという欲求を呼び起こしてくれます。こうしたおもちゃを介したやりとりの中で、子どもたちは自分の世界を広げ、学び、成長していきます。
 「やまなしおもちゃライブラリー」は、障害をもつ子どもたちが、おもちゃに出会い、触れ、遊び、そして学ぶ場所です。また、お父さんやお母さん、子どもたちとかかわりをもつ人たちが、そのかかわりの中で、共に学び、育ちあう場所です。おもちゃを通して、障害をもつ子どもたちの成長を援助できたらという思いと、子どもたちを中心に親同士が交わり、スタッフやボランティアと触れあい、共に学び、共に育ちあい、共に語りあうことができる場所でありたいという思いで活動を行っています。

設立の経緯

 やまなしおもちゃライブラリーの活動は、理事長である山下滋夫(山梨大学教授)が大学に赴任した時、「障害をもつ子どもたちとかかわる場所がほしい」という思いで、親や学校、施設の先生、そして学生たちが中心になって、大学の研究室の前の廊下や階段の踊り場といった場所で子どもたちの療育指導を行ったのが始まりです。その後、大学の近くに家屋を借りて、正式に組織として運営されるようになったのが1981年のことです。1995年には、今までの活動を継続し、さらに発展させていくために現在の場所、東八代郡中道町右左口に新装移転しました。また昨年3月には、特定非常利活動法人(NPO法人)の認証を受け、障害をもつ子どもたちのライフサイクルすべてにかかわるような活動に取り組んでいこうと再出発しました。

主な活動

 主な活動として、1.通所臨床療育指導、2.教育・療育相談、3.おもちゃ(教材・教具)の試作・開発・セミナー、4.YY倶楽部(障害者余暇活動支援)があげられます。その中でも中心的な活動が、通所臨床療育指導です。現在、就園・就学前の幼児から中学生まで37人の子どもたちが、定期的にお父さんやお母さんと一緒に通ってきます。そしておもちゃで遊んだり、教材を使って学習したりして過ごしています。子どもたちにはスタッフ(主に学生)がマンツーマンでついて、それぞれ担当の子どもに対して、実態に合わせた遊びのサポートや学習指導を行っています。
 やまなしおもちゃライブラリーには、市販されているおもちゃから、子どもの興味、実態に合わせた手作りおもちゃ、パソコンやテレビゲームといったハイテクおもちゃまで、約300点のおもちゃがあります。中でも音の出るおもちゃや、ユニークな動きのある木製おもちゃは人気があり、またパソコンゲームやテレビゲームも幼児から中学生、お父さんやお母さんたちにまで幅広く遊ばれています。
 ここに通ってくる子どもたちは、心身に何らかの障害をもつ子どもたちです。子どもたちの中には市販のおもちゃでは遊べない子どももいます。そのため、ライブラリーの敷地内には工房を設けています。子どもたちの実態に合わせて、自作のおもちゃや教材を考えたり、市販のおもちゃを改良して遊びやすくしたりすることもスタッフの仕事です。「この子はどんな遊びが好きなんだろう」「興味があるものは何だろう」など、子どもたちとのかかわりの中からいろいろなことを知り、学び、そして試行錯誤を重ねておもちゃを作ります。子どもたちが喜んで遊んでくれることもありますが、なかなか受け入れてくれないこともあります。そこでまた「なぜ受け入れてくれないのだろう」とその理由を探り、そして、また作り直して子どもの前に差し出します。こうしたやりとりから、子どものことを理解し、子どもたちもかかわるスタッフのことを理解していきます。
 おもちゃを通してお互いを理解し合い、楽しみや喜びを共感できる関係は、こうして築かれていくのだと思います。もちろん、それは手作りのおもちゃではなくても同様です。子どもが受け入れ、一緒に楽しみを共有できるものであれば何でもよいのです。おもちゃ(もの)とかかわることが不得意な子どもにとっては、かかわる人間が、おもちゃになります。くすぐりや肩車、お馬さんごっこなど肌と肌が触れあう遊びも必要です。身体を使った遊びや歌遊び、絵本の読み聞かせなど、子どもによって遊びは十人十色、無限に広がっていきます。

活動の中から芽生えたもの

 やまなしおもちゃライブラリーでは、通常の活動以外にも春の親睦会、夏の宿泊キャンプ、秋のイベントを毎年企画しています。通常の活動ではできない体験をすること、通ってくる曜日や時間の違う友達やその家族との交流を図ることがその目的です。特に夏の宿泊キャンプは子どもたちとその家族、スタッフ、ボランティアを合わせて、100人を超える大きなイベントになります。その年々で活動内容も宿泊施設も変わり、さまざまな体験ができるように企画を練ります。河原での水あそび、ガリバー王国やフラワー公園、猿まわし劇場などのテーマパーク巡り、飯ごう炊さんをしたこともありました。夜は花火大会やキャンプファイヤーで盛り上がり、子どもたちが寝静まってからは親御さんとスタッフとの懇親会があり、お酒を酌み交わしながら遅くまで語り合います。
 あるお母さんからこんな感想をいただきました。

毎年毎年思うこと。
車につけた目印のリボン。
何十台かが連なって走る道。
迷うまいと後を追う。
こんなに仲間がいるんだと熱いものがこみあげる。
学生たちの思いやりに感謝して改めて、息子がそばにいる幸せを思う。

 家族だけではあまり遊びに行けない、親もゆっくりくつろぎたい、1人で悩んでいたが気軽に相談できる仲間が欲しい、子どもたちにとってもその家族にとっても、期待されているイベントです。
 このような活動を通じてお母さんたちが知り合い、緩やかなつながりがみられるようになってきました。子どもたちが遊んでいる間に、お茶を飲みながら悩み事の相談をしたり情報交換をしたり、さらには夏休みの学童保育を企画したりと、お母さんたちの活動が盛り上がりつつあります。

今後の課題

 私たちがNPO法人格を取得しようとした目的の一つに、「組織として、社会的な人格を得ること」があげられます。NPO法では情報公開が原則になっていて、実際に活動してきた内容を公開することで、市民社会の中で社会的信用を得ることができます。そのためにも、ここで行われているさまざまな事業を、より充実した魅力的なものにしていくことと同時に、継続的に運営できる体制を整えることが、これからの課題になってきます。そういった意味では、子どもたちを中心に、ここを利用するすべての人たちが、安心して活動できるように、スタッフやボランティアといった人材のコーディネート、そして組織を運営していくための資金の確保といった、人とお金のマネジメントの面にも力を入れて取り組み、社会的にも認められる団体を築いていきたいと思っています。

(なかごみすなお やまなしおもちゃライブラリー専務理事)