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シリーズ 働く 50

知的障害者通所授産施設
「くわのみ」を訪ねて

木我直人

1 はじめに

 前橋市より南東に車で約50分、群馬県佐波郡境町の住宅街の一角に知的障害者通所授産施設「くわのみ」はあります。ある晴れた冬の日、施設を訪ねました。

2 設立の経緯

 「作業所は、利用者が生きる力を確認する場であり、利用者の地域生活を支える場である」という基本理念のもとに開設された「桑の実福祉作業所」を発展、継承させたのが「くわのみ」です。
 設立の経緯を施設長の大島マサ江さんにお伺いしました。昭和55年、数人のお母さん方の「学校を卒業した後も地域に通える場所を!」との願いが町の心身障害者親の会を動かし、手をつなぐ育成会と協力しあっての運動となりました。町当局の援助も受け、昭和59年「桑の実福祉作業所」が開設しました。建物は、当時使われなくなっていたメリヤス工場を改造して作業所としました。
 その後も基本理念をもとに、利用者、保護者、職員、ボランティアが一体となり、地域の人たちの協力を得て、バザーや映画会、販売活動、署名活動などで資金づくりに取り組みました。こうした活動を発展させる一つの形として法人認可設立の機運が盛り上がり、町に対しての働きかけと地域の多くの人たちの協力の中で社会福祉法人「桑の実福祉会」が実現しました。
 「くわのみ」は平成8年4月に開設され、現在30人が利用しています。養護学校を卒業したばかりの人や離職してしまった人たちで、近隣の町からも通所しています。

3 「くわのみ」の活動

 作業は屋内作業と屋外作業があります。
 屋内作業は受注作業で、2種類行われています。
 一つめは、ホチキス針の箱づめで、福祉作業所が開設された頃から続いている中心的な作業です。この作業は、藤岡市にあるマックス株式会社藤岡工場からの受注作業で、この工場ではホチキスの針を製造しています。加工の全工程が完全に自動化されていますが、「10号針」という製品の箱づめは機械化せず、県内の障害者福祉施設等に発売当初から外注しています。外箱を折る作業は、数の概念に弱い人も取り組むことができ、障害の重い人でも取り組みやすい作業となっています。週に1回、職員が材料の搬入と納品を行っています。この作業が縁で、マックス株式会社から、就職を希望する人がいるかどうか打診され、玉村工場へ1人就職することができました。
 二つめは、自動車部品のクラッチの組立で、板バネの穴にビスを組ませて、トレイに決められた数を並べる作業です。丁寧に並べないと崩れてしまうので根気のいる作業です。
 屋外作業は委託作業が中心で、4種類行われています。
 一つめは新しく始めた公園清掃です。これは、町から委託を受けて、ゴミの収集やトイレ清掃が主な作業です。7か所の公園を2コースに分け、利用者2、3人と職員1人がチームになって毎日行っています。
 二つめは配送業務です。これも町から委託を受けて、町役場からの配布物を各行政区へ週2回配達します。利用者と職員のペアで行っています。
 三つめはアルミ缶、牛乳パックのリサイクルです。これは、行政区ごとの分別収集の一環として行っています。ゴルフ場、保育園、社員寮などにもゴミ箱を置かせてもらえるようお願いに行ったところ、今では週に1回、回収に行くようになりました。また、地域住民の方が回収に協力してくれるようになってきています。
 四つめは自主製品のリサイクル粉せっけんの製造販売です。これは、町の分別収集に積極的に取り組んできた中から廃食油の分別収集を行い、その再利用として生まれたものです。販売については福祉バザー、町の産業祭などのイベントのほか、町内の郵便局の協力で「ゆうパック」で購入できるようになっています。
 ほかにも町指定のゴミ袋の販売、「くわのみだより」の発行、映画会の開催、「くわのみまつり」の開催、町商工会の空き店舗にぎわい事業を利用しての実験的店舗の開設など、「くわのみ」の活動を地域の人たちに知ってもらうための活動を広く展開しています。
 受注作業は、この長引く不況下にあっても比較的安定した需要があるようです。このことからも作業の質の高さがうかがえます。思わぬ訪問者に関心を寄せながらも、作業に取り組む利用者の表情はとても生き生きとしていました。また、施設は地域の人に開かれており、訪れやすいよう明るく、天井の高い建物です。ゴミ袋の購入やアルミ缶の持ち込みをする地域の人が多く、この日もボランティアの人が来ていました。

4 「くわのみ」のめざすもの

 くわのみでは、利用者が作業を通じて働く楽しさを感じ、労働への意欲が育つような支援と基本的生活習慣を確立し、社会生活能力を広げられるような支援とが行われています。ここでの大きな特徴は、前述の基本理念に象徴されるように障害をもつ人たちが、「地域で生きる」ことを基本とし、そのための支援活動を行っていることです。
 屋外作業や行事などを通してくわのみの活動をより多くの人に知ってもらい、地域の人たちとのふれあいを大切にしたいという姿勢が強く感じられます。
 「当たり前に地域の一員として生きていくために施設、親、地域を含めたたくさんの人たちの支援が必要であるとの考えを広めていきたい。そのために外に出ていき、1人でも地域での知り合いを増やし、ここの利用者や卒業者が“くわのみの人”とひとくくりではなく、個人の名前で呼んでもらえるようになるのが夢です」と大島さんはおっしゃっていました。
 地域の人たちの協力でできたくわのみは、地域の一拠点として、法律に縛られない柔軟な対応が求められています。くわのみの基礎となった桑の実福祉作業所を残し、現在も双方連携した運営を行っています。
 たとえば、デイサービスを利用している重度の人や高齢者を受け入れ、次につなげていけるようコーディネートしたり、通所者ではなく、ボランティアという形で受け入れたり利用者中心の柔軟な取り組みが行われています。
 こんな作業所は、まさに「かけこみ寺」のようです。

5 最後に

 リーフレットに「職員は支援スタッフ。障害があることによって生じる不便をどうやって少なくしていくかという発想から生まれたのが支援者という呼び方です。仲間たちが生きやすいような環境を整えるためのスタッフ。私たちはそんな意味をこめて職員を支援スタッフと呼びます」とありました。くわのみでは、設立当初から「指導」という言葉は使っていません。ここでは利用者が主人公なのです。利用者を主体に考えた取り組みやサービスの大切さを再認識するとともに、この「桑の実」がもっとたくさん実り、広がってほしいという思いでくわのみを後にしました。

(きがなおと 群馬障害者職業センター)