音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

介護保険制度と
障害者施策との関係について

遠藤浩

介護保険と障害者施策の適用関係

 介護保険制度の創設に際して、障害者施策のうち介護サービスに係るものを介護保険に移行するかどうかについては、身体障害者福祉審議会における審議等を経て、
1.障害者施策は公の責任において公費で実施すべきとの関係者の認識が強かったこと
2.障害者の介護サービスの内容は高齢者に比べて多様であり、仮に介護保険の対象とする場合にその範囲をどうするか等なお検討すべき点も少なくないこと
から、当面、障害者施策の枠組みの中で引き続き公費による対応を図ることとされました。
 この結果、介護サービスの体系としては、従前の老人福祉施策と障害者施策と同様に、介護保険と障害者施策という二つの制度が並立することとなりました。
 介護保険においては、被保険者の範囲を40歳以上の者とし、被保険者が要支援または要介護状態となった場合は保険給付として介護サービスが利用できることとされています。
 つまり、40歳以上の障害者も原則として介護保険の被保険者となり(身体障害者療護施設や重症心身障害児施設の入所者等は被保険者とされません)、要支援または要介護の状態となったときは、保険者の認定を受けて、保険給付として介護サービスを利用することとなります。

 介護保険の保険給付(以下「介護保険給付」と言います)を受けられる障害者の場合、
1.ホームヘルプサービス(訪問介護)のように介護保険と障害者施策とで共通するサービスについては、いずれの制度を利用するのか
2.ガイドヘルプサービスのように介護保険給付の対象とされないサービスは、引き続き障害者施策から利用できるのか
などの疑問が出されました。
 また、重度の身体障害者で日常の介護のニーズをもっぱら障害者施策のホームヘルプサービスで対応していた者が、65歳に到達するなどにより介護保険給付に移行する場合、
1.ホームヘルプサービスの利用時間数が減少して従前の生活の維持が困難になることはないのか
2.介護保険ではサービス費用の1割が利用者負担とされるが、過重な負担とならないか
といった懸念も寄せられました。
 このような疑問や懸念をあらかじめ整理し、必要な措置を講じておくことは、介護保険の円滑な実施に向けて不可欠であることから、介護保険制度と障害者施策との適用関係等について、昨年10月に都道府県等に対する事務連絡を発出し、また、本年1月の全国厚生関係部局長会議、3月の全国障害保健福祉主管課長会議において追加説明を行ったうえで、3月24日付で都道府県、指定都市及び中核市障害福祉主管部(局)長あてに通知を発出しました。
 以下、同通知の主な内容をご紹介します。

1.在宅サービス

 介護保険の被保険者である障害者が要介護または要支援の状態となった場合(40歳以上65歳未満の被保険者については脳血管疾患、初老期における痴呆などの特定疾病による場合に限られます。以下同じ)には、要介護または要支援認定を受け、介護保険給付を受けることとなります。
 その際、たとえばホームヘルプサービスのように介護保険と障害者施策とで共通する在宅サービスについては、介護保険給付として利用することとなり、障害者施策からは原則として利用できません。
 一方、障害者施策で実施されている在宅サービスのうち、ガイドヘルプサービスや知的障害者の外出時における移動の介護、各種の社会参加促進事業など介護保険給付にはないサービスについては、現行と同様に利用することができます。
 以上が基本的な整理ですが、次のような例外的な取り扱いや弾力的な取り扱いが認められています。

1 ホームヘルプサービス

 介護保険給付に比べてより濃密なサービスが必要と認められる全身性障害者(両上肢、両下肢のいずれにも障害が認められる肢体不自由1級の者及びこれと同等のサービスが必要であると市町村が認める者)については、社会生活の継続性を確保する観点から、介護保険では対応できない部分について、引き続き、障害者施策から必要なホームヘルプサービスを利用することができます。
 なお、この取り扱いは、1.介護保険の1週間当たりの訪問通所サービス区分の支給限度基準額(平成12年3月1日老企第38号厚生省老人保健福祉局企画課長通知参照)まで介護保険のサービスを利用する場合であって、かつ、2.介護保険のホームヘルプサービスを1の基準額のおおむね5割以上を利用する場合に対象となります。
 また、コミュニケーション援助等の固有のニーズに基づくサービスが必要であると認められる聴覚障害者及び視覚障害者並びに知的障害者、通院介助等の固有のニーズに基づくサービスが必要であると認められる内部障害者について、要介護認定の結果「非該当」とされた場合には、引き続き障害者施策から必要なホームヘルプサービスを利用することができます。なお、「非該当」以外と判定された場合であっても、市町村が、障害の程度や家族の状況等も総合的に勘案し、社会生活継続のために特に必要があると認めるときは、引き続き障害者施策のホームヘルプサービスを利用することができます。

2 デイサービス(通所介護)

 障害者施策のデイサービス事業では、社会適応訓練、絵画、陶芸などの創作的活動や文化活動といった固有のサービスを提供しています。このため、たとえば、特定疾病による障害を有する40歳以上65歳未満の障害者や65歳以前から引き続き障害者施策のデイサービスを利用する障害者は、介護保険給付が受けられる場合であっても、これらの固有のサービスの利用が必要であると認められる場合には、障害者施策のデイサービスを利用することができます。
 なお、障害者施策において身体障害者デイサービス事業の一環として平成12年度から実施される訪問入浴サービスについては、介護保険と障害者施策とで共通するサービスであるため、介護保険給付が優先されます。

3 ショートステイ(短期入所生活介護)

 身近に介護保険の短期入所生活介護事業所がない場合などやむを得ない事情がある場合には、介護保険給付が受けられる障害者であっても障害者施策のショートステイを利用することができます。

2.施設サービス

 施設サービスについては、介護保険施設と障害者施設とでは、それぞれ目的、機能が異なっており、更生訓練、就労訓練等のため障害者施設への入所(通所を含む。以下同じ)が必要であると認められる場合には、介護保険給付を受けられる障害者であっても、障害者施設に引き続き入所し、または新たに入所することができます。また、障害者の通所施設については、介護保険の居宅サービスを利用しながら通所利用することもできます。
 なお、身体障害者療護施設等の入所者については、介護保険の被保険者とはなりませんが、身体障害者療護施設等を退所すれば介護保険の被保険者となり、要介護または要支援と認定されれば、在宅で介護保険の居宅サービスを利用することができ、また、要介護と認定されれば介護保険施設に入所できます。

3.補装具及び日常生活用具

 介護保険で貸与される福祉用具としては、補装具と同様の品目(車いす、歩行器、歩行補助つえ)が含まれているところであり、それらの品目は介護保険給付として給付されることとなります。しかし、医師や更生相談所等により障害者の身体状況に個別に対応することが必要と判断される障害者については、車いす等介護保険給付として貸与されるこれらの品目は標準的な既製品の中から選択することになるため、介護保険給付を受けられる場合であってもこれらの品目を補装具として給付を受けることができます。
 日常生活用具については、障害の状況に応じて個別に適合を図るものではないことから、介護保険給付の対象となる品目(特殊寝台、特殊マット、体位変換器、歩行支援用具、移動用リフト、特殊尿器、入浴補助用具、便器及び簡易浴槽)については、介護保険から貸与や購入費の支給が行われることとなります。
 介護保険の福祉用具の対象となっていない品目については、引き続き日常生活用具給付等事業として給付等が行われます。

4.利用者負担の軽減の特例

 ホームヘルプサービスの利用者負担については、介護保険給付としてサービスを利用する場合には原則1割負担、障害者施策のサービスを利用する場合には従来通り所得に応じた負担となりますが、障害者施策から介護保険に移行する場合の激変緩和を図る観点から、次のような者が介護保険給付としてホームヘルプサービスを利用する場合には、平成16年度までの5年間、利用者負担は10%から3%に軽減することとされています。
 すなわち、障害者世帯の生計中心者が所得税非課税であって、次のいずれかに該当する者がこの特例の対象となります。
1.若年の頃から障害者施策によるホームヘルプサービスを利用していた障害者(65歳の年齢到達前のおおむね1年間に利用実績のある者)で、65歳になって介護保険給付を受ける者
2.介護保険施行時において高齢者施策または障害者施策によるホームヘルプサービスを利用していた65歳以上の障害者のうち、65歳以前の障害を原因として障害者手帳の交付を受けている者
3.特定疾病により要介護または要支援の状態となった40歳から65歳未満の者

介護保険制度の5年後の見直し

 若年障害者を介護保険の対象とするかどうかについては、介護保険制度の実施状況や社会福祉基礎構造改革による制度改正後の障害者福祉サービスの利用の状況、さらにこれらの制度に対する障害者本人を含めた関係者の受け止め方も踏まえ、介護保険制度施行後5年をめどとした制度全般の見直しの中で検討されるべき課題とされています。

(えんどうひろし 厚生省障害保健福祉部企画課長)