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介護保険に思う

時任基清

被保険者としての立場から

 いよいよ、介護保険制度がスタートした。しかし、これはいまだ、欠陥だらけの制度だ。特に、視覚障害者の立場から見ると、障害者サービスから介護保険への変更により、1.高額の保険料を強制的に徴収される、2.85項目の中に、視・聴覚の障害が含まれないため、要介護度の査定により、ホームヘルパー派遣の打ち切りや回数の削減が押し付けられる、3.経費のうち、当面3%、将来的には10%の自己負担を強いられると、福祉制度改悪以外の何ものでもない。
 もともと、介護保険制度が話題になって以来、厚生省の担当者は「障害者福祉サービスは従来と全く変わらない」と言い続けてきたのだが、これは全くの嘘であったことが、この期に及んで明白となった。
 保険の実施主体である区市町村は、「従来、障害者福祉サービスを受けていた65歳以上の者と、40歳から64歳のうち、特定疾病にかかっている在宅の者はすべて、必ず介護認定申請を提出するように」と指導している。
 たとえば、高齢視覚障害者では、ガイドヘルパー派遣以外はすべて、介護保険に移行するということだ。視覚障害者の大部分は、血のにじむような努力により自立生活を営んでいるのに、自立認定となり、支援・介護が停止されることになる。
 しかし、視・聴覚障害は情報障害であり、脳卒中後遺症、重度痴呆などとは異なり、視・聴覚欠損を補うような援助がどうしても必要なのであるから、障害者福祉サービスの介護保険化により援助が打ち切られると、生存権が損なわれ、大きな危機を生じることになる。3年後、5年後の制度見直しに当たっては、ぜひ、要介護度認定項目に、視・聴覚障害を加えるよう考慮されるべきだろう。
 さらに、社会福祉基礎構造改革により、ほとんどの福祉サービスは「契約」により実施される。世田谷区で全盲婦人が、区派遣のホームヘルパーにより多額の財産を横領された、いわゆる「納さん事件」でも明らかなように、視覚障害者は「書類による契約」など、書面の処理は全くの苦手であり、「成年後見制度」とは別に、被保険者と業者との契約に当たっては、2人以上の公務員が立ち会うなどの方法による安全確保の制度化が必要である。今後の重要な課題として検討すべきだろう。

サービス提供者の立場から

 介護支援専門員(ケアマネジャー)受講受験資格には、あん摩・マッサージ指圧、鍼灸が含まれ、多くの点字使用者が挑戦・合格し、受講しているが、現実のケアプラン作成に当たって、どうしても視覚による判断が必要となるので、障害者雇用促進制度によるヒューマンアシスタントの利用が求められる。
 さらに今後、介護保険単価においては、機能回復訓練体制加算の大幅引き上げにより、視覚障害を有するあん摩・マッサージ指圧師が、機能回復訓練担当員として施設等に採用される道も開かれることが期待される。障害者の中でも視覚障害者の雇用率は著しく低率であり、あらゆる機会をとらえて雇用促進、雇用率改善を訴えなければならない。介護保険制度はその好期となり得るだろう。

今後の制度発展に期待して

 「介護保険制度は、わが国従来の、家族が両親や舅・姑を介護するという美風を失わせる」と、ある代議士が発言したと聴き及んで、仰天した。在宅の重度身体障害者や痴呆の高齢家族を介護している人たちの、涙ぐましい苦労を、少しも理解していない為政者がいることは、わが国の後進性の証明だ。
 冒頭に述べた通り、欠陥だらけの制度ではあるが、マスコミや世論による監視と関係者の努力によって、次第に改善されることを期待したいし、ぜひ、そうならなければならない。
 厚生省、都道府県、区市町村の担当者はもちろん、被保険者、その家族、関係業者の努力の積み上げにより、本当に公正で、有効な制度が完成されていくことを心から希望するものである。

(ときとうもときよ 日本盲人会連合理事)