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介護保険と障害者の介助保障

 三澤了

 今年4月に正式に実施された介護保険制度は障害者の生活にもさまざまな形で影響を及ぼし始めている。ヘルパー派遣を扱っていた市町村の部局の廃止、変更や指定事業者との関係でこれまで通りのヘルパー派遣が受けられなくなるなど、介護保険制度の直接の対象とならない障害者の生活にも具体的な変化が現れている。介護保険の実施によって最も大きな変更を迫られるのは、実施時点で65歳を超える障害者と、特定15疾患の障害をもつ人々、すなわち従来から障害施策としての介助サービスを受け生活していた人々で、介護保険制度の対象となる人々である。これらの障害をもつ人々が、従来から利用してきた介助サービスをこのまま利用することができるのか、あるいは介護保険に上乗せする形でこれまでのサービスを利用することができるのかということが、大きな問題として浮かび上がってきた。
 この問題については、厚生省は障害当事者や自治体からの問い合わせなどに対して、介護保険と障害施策としての介護サービスを併用できるとも、できないとも、明確に答えることのないままに時間を経過していたという状況であった。一方、国会においてもこの問題は取り上げられ、介護保険を適用されることによって、従来のサービス水準が引き下がる可能性がある人に対して、厚生大臣からは「介護保険が適用されて従来のサービス水準が引き下がるということがないように万全の対策を講じる」という趣旨の答弁があり、さらに衆参両院の厚生委員会においても同様の趣旨の付帯決議が付けられている。
 これらの状況を踏まえて、障害者の自立生活条件の確立に取り組んでいる当事者団体の有志で「2000年障害者介護保障確立全国実行委員会(以下2000年委員会と称す)」を1998年8月に発足させ、具体的な対策を求める行動を行うこととした。厚生省では、若年からの障害者であっても制度の対象となる人は要介護認定を受け、介護保険に含まれるサービスについては介護保険を優先して利用し、介護保険に含まれない手話通訳やガイドヘルプ等の障害者特有のサービスについては、障害者施策のサービスを利用することになると説明してきた。これに対し2000年委員会は「サービスの引き下げはしない」という大臣答弁を忠実に実行するように迫り、介護保険の日常生活介護と併せて、障害者施策のサービス利用が可能となる方策を講じるよう求めてきた。
 昨年の10月27日付で、介護保険制度と障害者施策との適用関係についての厚生省の基本的な方針が出され、全国の障害福祉主管課長に通知された。これには、障害者の施設利用、居宅介護サービス、デイサービス、補装具・生活用具等々に関して、介護保険制度と障害者施策との適用関係が言及されている。原則的には、従来から言われていた通り障害者施策と介護保険で共通するサービスについては介護保険を優先すること、ガイドヘルプサービスや各種の社会参加促進事業などのサービスに関しては、引き続き障害者施策から提供されることが述べられている。また、ホームヘルプサービス(訪問介護)については前記の原則を繰り返したうえで、「なお、ホームヘルプサービスにおいては、介護保険法の保険給付に比べてより濃密なサービスが必要であると認められる重度の脳性まひ者や脊髄損傷者などの全身性障害者やコミュニケーション援助等固有のニーズに基づくサービスが必要であると認められる聴覚障害者及び視覚障害者ならびに知的障害者については(中略)引き続き障害者施策から必要なサービスを提供することができるよう平成12年度概算予算において所要の要求を行っているところである」と規定している。
 この通知の中でもう一点重要なこととして、補装具及び日常生活用具の支給に関する規定が組み込まれている。介護保険の対象となる福祉用具は、車いす、歩行器等の貸与品目と、特殊尿器や腰掛け便座等の購入費支給品目とがある。この品目に含まれている車いすや歩行器などは補装具として位置付けられ、長年にわたって障害者の身体に合わせて作ることをめざしてきたものであり、既製品の支給や貸与という仕組みにはそぐわないものであることが、利用者である障害者や福祉用具関係者から強く指摘されていた。こうした指摘を受けた形で、今回の通知においては、介護保険給付品目であっても障害者施策の補装具として支給することができるものとなっている。
 この通知によって明らかにされた介護保険制度と障害者施策の関係は、それぞれの制度に共通するサービスに関しては、介護保険を優先し、共通するものであっても特別なニーズが見込まれるものに関しては、障害者施策としてのサービスを上乗せし、選択することが可能なものとしたと解釈することができる。ただしホームヘルプ等の介助サービスの水準は自治体によって大きな開きがある。介護保険のサービスに上乗せして障害者施策としてのヘルパー派遣を受けようにも受けられないという地域は、数多く存在するものと思われる。それぞれの自治体に対し、介助サービスの充実を求めていく当事者の運動は、今後ますます重要性を増すものと思われる。

(みさわりょう DPI日本会議)