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会議

脳外傷交流セミナー

柴田栄機

 交通事故などによる脳外傷者・家族を対象とする「脳外傷交流セミナー in なごや」(脳外傷友の会「みずほ」、名古屋市総合リハビリテーション事業団主催)が今年2月20日、全国各地から当事者ら約400人が参加し、名古屋市の名古屋国際会議場で開かれました。全国組織の結成などを盛り込んだ共同アピール(後掲参照)の採択やマスコミ報道などを通じて、“福祉の谷間”に置かれてきた脳外傷問題はようやく国政レベルで急展開の様相を見せ始めています。
 脳外傷とは、交通事故などで頭を強く揺さぶられた結果、脳が部分的に機能しなくなることを言います。青年層に多く、その後遺症は身体、認知、行動の障害に大別され、中でも、記憶力や判断力、集中力、注意力などの認知障害や、感情が抑制できない行動障害は外見から分かりにくいのが特徴です。身体障害、知的障害、精神障害の現行縦割り制度のどこにもぴったりとは該当しないのです。
 名古屋市総合リハビリテーションセンターが昨年行った脳外傷者実態調査(対象327人)によると、就労者は一般就労14.6%、福祉的就労を含めても27%に過ぎず、多くは家庭に引きこもっています。社会参加、自立への道の険しさを示しています。
 今回の交流セミナーは、同センターが10年間蓄積してきた脳外傷者への援助のノウハウを医療、福祉関係者に伝達する「専門家養成講習会」(2月18、19日)とワンセットで、社会福祉・医療事業団の助成を得て実現しました。その狙いは、脳外傷者・家族の悩みや体験、課題を明らかにして、解決に向け共に行動することを確認し合う一方、当事者団体による相談援助機能を高めることにありました。脳外傷友の会「ナナ」(神奈川)、同「コロポックル」(北海道)、「頭部外傷や病気による後遺症を持つ若者と家族の会」(大阪)の協力を得ての開催でした。
 午前中は、就労支援、生活支援、高次脳機能障害の法的認定の3分科会が行われました。司会とパネラーは4団体のメンバーが分担し、助言者(専門家)が各一人配されました。午後の全体会では、分科会報告、4団体の活動報告のあと、共同アピールを採択。席上、厚生省障害保健福祉部企画課課長補佐が発言する一幕もありました。同省の積極姿勢は評価できるものの、脳外傷を精神障害の中の「若年期痴呆」と位置付けることには問題があります。続く懇親会は、和やかな雰囲気の中、最後に「みずほ」が毎月1回開催している「音楽の集い」に参加する脳外傷者有志が合唱を披露し、閉幕しました。
 分科会と全体会の詳細は報告書として出版されましたので、それをご覧ください。
 このセミナーを機に、「みずほ」「ナナ」「コロポックル」による「日本脳外傷友の会」が4月にスタートしました。今年2月発足した脳外傷友の会「しずおか」をはじめ、結成準備が進む福岡、埼玉などの当事者団体も順次加わる予定です。会長には「ナナ」会長の東川悦子さんが就任しました。
 当事者団体の活動やマスコミ報道などを通じて脳外傷問題への社会的な理解は徐々に広がっています。セミナーでの厚生省担当者の発言もその反映と言えそうです。運輸省で進行中の自賠責保険のあり方の見直し作業に当事者の切実な声を伝えることも緊急の課題です。多くの課題の実現には、当事者たちがスクラムを組み、知恵を出し合い、行動するほかありません。セミナー参加者は改めてこのことの大切さを肝に銘じたのでした。
 共同アピールの全文は次の通りです。

1 脳外傷の実態に見合った社会福祉制度、自賠責基準などの整備を求めます。

 脳外傷は現行制度が想定していない“新たな障害”です。このため、脳外傷者本人と家族の苦難は筆舌に尽くし難いものがあります。私たちは、脳外傷者一人ひとりの症状に見合った総合的な障害認定の創設、自賠責基準の改正などを求めます。また、現行制度のもとでも、脳外傷者・家族の生活不安が軽減できるよう、制度の柔軟な運用を求めます。

2 脳外傷者の自立に向けた就労・生活支援システムの確立を求めます。

 脳外傷者は若年層に多く、親亡き後も彼らが長い人生を安心して生きて行ける道筋が必要です。脳外傷者の自立、社会参加の拡大には就労支援、生活支援施策が不可欠です。医学的・職業的・社会的リハビリテーションの研究・実践体制の充実をはじめ、障害に即した地域での生活支援システムの実現、職業準備訓練や専門指導員による継続的なケアなどの就労支援システムの確立を求めます。

3 脳外傷者全国実態調査の早急な実施を求めます。

 交通事故の増加で脳外傷者は相当数に上るとみられ、潜在的な脳外傷者も少なくないと思われます。諸施策の立案上からも、全国実態調査の早急な実施を強く要望します。

4 脳外傷の発生予防施策の一層の充実と脳外傷への理解の広がりを求めます。

 交通事故などによる脳外傷者のより積極的な発生予防施策の展開を求めます。また、脳外傷という障害の実態は徐々に知られてきたとは言え、社会的にはまだまだ不十分です。私たちは脳外傷への社会的な理解の広がりを強く求めます。

5 脳外傷者・家族の全国組織を設立し、連帯と行動の輪を広げましょう。

 全国の脳外傷当事者には、同様の悩みを抱え、日々苦闘している仲間が多数いることを知っていただくよう切望します。脳外傷の当事者団体と各地で発足しつつある同様の団体の関係者及びすべての脳外傷者・家族が連携し、脳外傷問題を取り巻く社会環境の改善のために、共に手を携えて行動するよう呼び掛けます。そして、その輪を一層拡大するため、私たちは、脳外傷当事者を結集する全国組織を早急に設立することで合意し、その準備を力強く進めることを宣言します。

(しばたえいき 脳外傷友の会「みずほ」会長、日本脳外傷友の会副会長)