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ハイテクばんざい!

どの人にも優しい声の手帳
「ピッポッパロット」

渡辺嘉也

賞味期間は3か月!!

 身近にある電子機器、携帯電話やパソコンなど、一般の市場では次々と新しい商品が生まれています。その商品寿命は食料品の賞味期間より短い3か月とも言われるほどめまぐるしく変わります。
 身近な道具の電子化、デジタル化は1970年ごろ、電卓から始まりました。電子式卓上計算機、略して電卓、この登場はそろばんを不要にしました。そして80年に入ると、電卓に住所録機能を持たせて手帳代わりに使えるようになりました。時計機能が入り、辞書が入り、いわゆる電子手帳となりました。さらに進化して、パソコンと連携をさせたり、パソコンそのものになったり、そしてそれらに電話通信の機能を統合させたiモード携帯電話と相次いで商品化されています。
 人々の生活を便利にしようと始まった電卓は、人間のライフスタイルまでも変えてきています。
 ところで、このような時代の中で、視覚障害者の身の回りの道具はどのように電子化されたのでしょうか? 音声電卓は1980年にできました。テープレコーダーや音声時計もありますが、これらはすでに何年も前にできた製品です。生活用具として、100Vで働く音声電卓、テープレコーダーも手のひらに余る大きさです。電話は点字の電話帳で調べるか、テープに録音した電話番号を一つひとつ探す必要があります。予定はテープか点字で管理します。一般市場の3か月賞味期間のハイテクの動きとはかなりの隔たりがあります。
 「ピッポッパロット」という製品をご存じでしょうか?音声電卓、音声メモ帳、音声予定表、音声電話帳、さらに音声時計を一体にした声の手帳です。大きさはカセットテープを少し大きくした程度で、すべて音声を介して操作をするので、視覚障害をもつ方々に大変好評な製品です。この電子化の時代に、視覚障害者の身の回りの道具を少しでも小型に便利にするべく開発した、初めての視覚障害者用音声手帳です。もちろん、ユニバーサルデザインで健常者も大変便利に使える製品です。財団法人共用品推進機構でもリスト化されている商品です。

IQボイスオーガナイザー

 この商品は、1996年アメリカのベンチャー企業と提携して、電子手帳に日本語音声認識機能を搭載した製品開発輸入を行いました。録音機能(8分間)も持っていました。日本ではIQボイスオーガナイザーという名称で販売しました。日本語を理解し、名前を言えば電話番号が出てきて、登録も数字をしゃべれば機械が理解をして登録する、パッとひらめいたアイデアやメモ代わりにちょっと録音する、まさに賢い電子手帳の登場でした。しゃべるだけで手による入力がいらない、ということで大きな反響を呼びました。

視覚障害者も使える製品を!

 このIQボイスオーガナイザーの国内販売に、問い合わせが相次ぎ、弊社が視覚障害の方々にも使っていただける商品開発の原点になりました。視覚障害の方々が興味を持ったのは音声認識ということと、録音の機能でした。数字をしゃべるだけで認識し計算も楽、電話番号も簡単に呼び出せる、ちょっとした用件も声で録音できるということでした。中途失明の方々の多くは点字が読めず、電話をかけるのは、NTTの福祉電話サービスに依頼するか、家族にかけてもらうしかない状況でした。電話をかけることにストレスを感じてしまい、結局、生活の範囲が狭まることになってしまう。だんだんに社会から疎遠になり、QOLが低下していく、というようなことも分かってきました。
 しかし、視覚障害の方々にIQボイスオーガナイザーを使ってもらうのにはいくつかの問題がありました。たとえば「さん」と「ご」を発声入力した場合、画面に35が出ていることを確認する必要がありました。適切な音声ガイドがないので、どの機能を選択したのか不明になってしまうのです。結局、視覚障害の方々の福音になるような商品ではなかったわけです。

ピッポッパロットの登場

 アメリカの提携先と話を詰めていく中で、欧州の会社が携帯電話を音声認識でかけるチップを開発していることが分かりました。その認識率のよさと車載電話用のため、今で言うボイスナビで機械が声でガイドをしてくれる機能もすでにチップに入っていました。このチップを福祉用途に使うことも視野に入れた開発が進められていて、早速日本語化を行い、これがピッポッパロットとして製品化されていったわけです。97年の暮れには日本語試作品が完成して、モニターの方に使っていただいて、98年3月に発売し、このピッポッパロットを毎日新聞が、さらに点字毎日新聞が紹介をしてくれました。そのおかげで、「こんな製品を待っていたのだ!」と言わんばかりの反応が殺到しました。さらに日本福祉放送(JBS)でも30分近くも時間を割いて、実際に商品を番組で使って商品を紹介していただいて、全国の視覚障害の方々に知れ渡るようになりました。

便利な使い方

 ピッポッパロットは対話式になっています。ピッポッパロットがしゃべって確認を求めてきます。たとえば音声電話帳で試してみましょう。「メルコム」を登録するには、ボタンを押して「メルコム」と発声すると、「登録しますか?」と聞いてきます。そこで電話番号をテンキーから入力すると、「登録しました」と確認して登録は終わりです。電話をしたい時は、同じ横ボタンを押して、「メルコム」と言えば、「メルコム」とおうむ返しに確認され、同時に番号を呼び出します。受話機に当てて、ボタンを押せばピッポッパパポポと信号音が流れて自動的に相手の番号を発信します。350人の名前が登録できます。電卓は12ケタで四則計算ができます。押したボタンをすべて音声でしゃべります。予定表は、予定の内容をメモ録して、音声ガイドに従って時間、日にちを入れていくだけで、1年間の予定が設定できます。メモ帳ではメモ録音をすると、録音した日時を再生時に発声してくれます。

ピッポッパロットMK2

 ピッポッパロットを供給して約2年が経ち、この間約5000人の視覚障害の方々に使用されてきました。いろいろな要望が寄せられ、この4月に、第2世代のピッポッパロットMK2を開発しました。主な改良点は、録音時間が約5倍の40分、イヤホンが使える、電池が切れてもデータが保存できる、フラッシュメモリーに変更などです。より安心して製品を使っていただけるようになりました。

終わりに

 パソコンを使えばほとんど何でもできるという人が多くいます。しかし、それを使えない人々が多くいても、使えないのが悪いという状況にあります。これは、技術革新が現代にもたらしている新しい差別かもしれません。技術革新とは過程であり、そのめざすところは「人に優しい、どの人にも易しい」ことです。「人の声」を使った機械ピッポッパロットが5000人もの視覚障害の方々に使っていただけたのは、「人に優しい、どの人にも易しい」製品であるからと自負しています。そして、これからもそのような製品を送り届けるよう企業努力をしていきたいと思っています。

(わたなべよしなり 株式会社メルコム)