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ケアについての一考察 第8回

必要なときに自ら選択できる
福祉サービスを

金子寿

はじめに

 私は1978年、高校のクラブ(体操部)活動中のけがが原因で重度の障害(頸髄損傷)を負ってしまいました。私は自分自身で肩から下の部分を全く動かすことができないため、日常生活を送る上であらゆる面(食事、洗面、更衣、排せつ、入浴、移動など)で介助を必要とします。私の福祉サービスの利用やこれまでの体験などから、「本当に必要な福祉(介護)サービスとは何か」ということを考えてみたいと思います。
 現在、私が利用している福祉サービスは、主に公的ホームヘルパー、住民参加型ヘルパー、入浴サービス、訪問看護、ショートステイ、移送サービスなどです。また、人的な福祉サービスだけではなく、電動車いす(顎と息で操作する車いす)、天井走行型電動リフター(ベッドから車いすや浴室への移動)、環境制御装置(息で身の周りの電気製品〔エアコン、照明、電話、ベッドの上下、テレビ、ラジオ、その他〕を操作できる機器)などの福祉機器を活用することで、私自身や介助者の精神面、身体面両面の負担を軽減しています。
 ここでは、私の住んでいる市のサービスをもとに、公的ホームヘルパーと入浴サービスの問題点をあげてみたいと思います。

曜日に関係なく必要なヘルパー

 公的ホームヘルパーは、厚生省が1992年に出した運営の手引きによると、「ヘルパーの派遣時間は1日4時間、週6回、週当たり延べ18時間という目安はヘルパー活動の上限でもなく、サービス量の規定でもない。ニーズに応じて必要な時間だけ派遣できるし、15分の短時間でも長時間でも、柔軟に考えてよい。また、早朝、夜間、休日等の多様なニーズに対応していくことは不可欠である」と、利用者のニーズに合わせたサービスを強化し、それまでの枠を大きく超えてヘルパー派遣を行うよう、市町村に体制を整えるように求めています。しかし、8年が経過した現在でも、厚生省が求めたような利用者のニーズに合わせたサービスが提供されている市町村は数少ないのが現状です。
 私の住んでいる市の場合も例外にもれず、残念ながらヘルパー派遣の状況は、最大でも1日1~2時間で週2~3回、週当たり延べ5~6時間(土日・祭日は休み)の派遣しか、実現されていません。私は夜の就寝介助等に公的ヘルパーを利用していますが、土日・祭日の派遣が受けられないため、民間(住民参加型ヘルパー)のサービスを利用しています。また自薦のヘルパーが認められていないため、数か月ごと(約4か月)に担当ヘルパーが変わってしまったりして、自分の障害や身体状況を良く知った人から安心して介助を受けることができません。地域の中で安心して在宅生活を送るためには、役所の都合にかかわらず、平日・土日・祭日に関係なく、介護の手が必要なことは言うまでもありません。

利用者のニーズに応えてほしいサービス

 入浴サービスは、私の場合、5~6年ほど前までは家族の介助で自宅の改造したふろに入浴していましたが、介助者の高齢化や負担が大きいため、市の入浴サービス(巡回入浴)も利用するようになりました。現行の入浴サービスは、最大で週1回(月4~5回)の利用で、1回の利用料が約1万5千円(1時間以内)、月4回利用すると約6万円が、市から委託業者に支払われています。当初、私は入浴サービスのスタッフに自宅の改造したふろに入れてもらうことを希望しましたが、許可されませんでした。もちろん、自宅のふろに入浴できない障害者にとっては、在宅生活の安定や家族の負担軽減において、大変に有意義なサービスであると私自身高く評価していますが、私のように自宅の浴室を改造・改築している者にとっては、自宅のふろが一番安心して入れることは言うまでもありません。
 また1週間に2~3回程度の入浴を望んでいる者も多くいます。そこで“住民参加型福祉グループ”や“介助者派遣会社”などの地域資源を有効に活用して、自宅のふろで入浴することができるように、入浴サービス事業と同額の1か月約6万円(同じ金額で週2~3回の入浴も可能)を上限として、当事者のニーズや利用状況に合わせて“入浴介助料”として支給してほしいと市に要望しましたが、現行の入浴サービス事業の趣旨(金銭の支給ではなく人(介助者)を派遣する事業である)にそわないという理由から実現には至りませんでした。「入浴する」という目的は同じなのに、なぜダメなのだろうという気持ちは今でも強く残っています。

不十分な福祉サービスの情報

 さらに、どのように福祉サービスの情報を入手するかということも私たちにとっては大きな課題となってきます。たとえば、退院を間近に控えて在宅生活の準備を進めている時、本人はもとより家族も混乱していることもあって、有意義に福祉サービスを利用できる余裕がない場合も少なくありません。また、福祉事務所の対応も、「窓口で福祉サービス案内の冊子はもらったが、どのサービスが自分に該当するのかよく分からないので教えてほしいと尋ねたら、一つひとつ自分で調べて、その都度申請するようにと言われ、対応は冷たかった」と言うことも時々耳にします。
 ノーマライゼーションの理念が徐々に浸透する一方、残念ながら多くの市町村においては、地域における障害者の生活を支援するためのサービスがまだ質、量ともに十分ではありません。
 これからの福祉サービスは、障害者の個人としての尊厳を重んじ、生活のすべての領域で、自己の能力と生活に応じた選択ができる条件を整備し、障害者が主体的に地域で安心して生活できるよう、ふだんの日常生活の中で必要な時に、必要なサービスを自らの選択で受けることができるようになることが重要になってくるのではないでしょうか。

(かねこひさし 神奈川県綾瀬市在住、F・L・C代表)

(財)日本障害者リハビリテーション協会発行
「ノーマライゼーション 障害者の福祉」
2000年6月号(第20巻 通巻227号)