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座談会
二十一世紀の障害者施策を展望する
-社会福祉改革と障害者施策の行方-

出席者

太田修平 日本障害者協議会政策委員会副委員長
大友勝 全国精神障害者地域生活支援協議会代表
金子健 全日本手をつなぐ育成会政策委員会副委員長
松尾榮 日本身体障害者団体連合会会長
司会 板山賢治 本誌編集委員

激変する障害者施策-当面の課題-

板山

 今年は二十世紀の最後の年、ミレニアムと言われていますが、障害者の関係分野でも激動の年だったと思います。一つは、社会福祉法が新しく生まれたことです。その法律改正と併せて、障害者関係の法律も改正されました。三年の準備期間をおいて平成十五年から全面実施されますが、従来の措置制度から利用契約制に変わっていきます。
 また、介護保険制度が本年四月一日にスタートしました。これは、障害者にはかかわりの深い施策です。五年後の見直しでは、障害者を含む全国民の介護を一本化する方向に行くと言われています。しかも、障害者も一人の被保険者として保険料を負担する。給付の対象となる障害をもつ人々も、利用料一割を負担しなければならないという問題も絡んでいますので、大きな影響があると思います。
 一方で政府は、建物、交通、情報通信、放送などの面でバリアフリー化を積極的に進めるという法律改正を次々と出してきています。たいへん結構なことですが、中身は一体どうなのかということも含めて、平成十二年は障害者施策の変化の年だったと思います。
 今日は、それぞれの分野を代表するみなさんにお集まりいただきました。
それぞれのお立場から当面する課題を二つ三つお話いただき、共通する問題、個別の問題について、議論を深めていきたいと思っております。松尾さんからいかがですか。

松尾

 社会福祉基礎構造改革の検討の分科会に、障害者団体が入っていなかったのは遺憾だったと思います。その後、局長や部長が各団体の意見を聞いてまとめていただきましたことについては感謝いたしますが、その辺が大事ではないかと思います。私ども当事者能力の問題があったかと思いますが、これからの福祉は当事者団体が参画をする、責任を持って発言をすることでなければいけないと思います。
 福祉事業法関係の改正では、手話は入りましたが、要約筆記は入っていません。私は、「要約筆記は大事ですから必ず入れてください」と陳情しましたが、何とかしなければと思っています。また、小規模作業所の法人化の法律はできましたが、障害者の働く場、生活を支援する場として認めるように、これから具体的に取り組んでいきたいと思います。
 介護保険についても、いろいろ問題があります。全社協の予算対策委員会で厚生省の担当課長から「介護保険はまず順調に滑り出し」という表現がありましたが、障害者団体としては、順調な滑り出しとは必ずしも思っていません。現場ではこれまでヘルパーが週四回行っていたのに、介護保険で決まっているから物理的に二回しか行けないとか、福祉サービスが後退しています。
 もう一つ、障害者の雇用の問題はたいへん厳しい。来年一月に厚生労働省になりますが、もう少し雇用につながるような施策がほしいと思います。結論として、福祉のあり方は障害者団体が責任を持って発言していかなければいけないと考えています。

太田

 社会福祉基礎構造改革の中で、利用者主体が法律の中で位置付けられ、サービスを受ける人を主体に、生活を考えてサービスをしようという理念になったことは非常に意義があったと思います。
 JD(日本障害者協議会)の立場で言うと、具体的には扶養義務の問題があります。障害者が大人になって、地域で独立して暮らそうとしたときに、親の扶養の下に置かれてしまう関係がまだ法律的に残されています。生活保護など社会福祉サービスよりも親の扶養が優先しているのは、障害者の独立を考えたときにはまだまだ不十分だと思います。障害者と言えども、親孝行をしたいという気持ちがあるわけです。二十歳を過ぎたら対等な人間関係を築けるような制度上の見直しをしてほしいと思います。また、この問題は福祉法での見直しもさることながら、民法の見直しの必要もあるのではないかと思っています。
 障害者が地域で暮らしていくには、所得保障が必要です。働ける障害者ばかりではなく、働きたくても雇用されることが困難な障害者が存在するわけですから、自分の権利として受けられる所得保障制度が必要だと思います。今は障害基礎年金が一級の場合、月約八万円ですが、八万円では一人の人間が暮らしていくには厳しい。親、兄弟の援助とか、生活保護を受けるとか、あるいは施設の援護を受けないといけない。所得保障の問題もきちんと押さえないといけないと思っています。そのほかに、総合的な障害者福祉法制度の問題、差別禁止条項の法制化などの課題があると思います。

金子

 知的障害者の親の会、手をつなぐ育成会の立場で発言をさせていただきますと、知的障害の場合は、障害者の方々の中でも特殊な立場に置かれていた部分があろうかと思います。本人が発言をするのは難しいことがあり、親たちが代弁をするという形になっていたわけです。
 今回の社会福祉基礎構造改革という行政の動きの中で、私たち自身が運動の仕方の見直しを迫られる部分があったと思います。つまり、障害のある人たちが主体的な存在として自己選択、自己決定をしていくように福祉の構造を転換していこうというのが、今回の基礎構造改革だと思いますが、それは育成会にも求められることでもあったわけです。私は兄弟という立場で参加していますが、親は単に保護する、世話をするという形でしか、知的障害の本人たちを見ていなかった部分があるのではないか。その反省を迫られたのが、今度の基礎構造改革ではないかと思います。
 本人たちの主体性を尊重しようと、親の会の活動の中に本人部会をおいて十年ほどになります。数年前には、地域で当たり前の暮らしをしていけるように、本人たちの自己選択、自己決定が可能になるように周りで支援をしていこうと、インクルージョン戦略を立てました。今回の基礎構造改革の動きと、親の会の意識改革が軌を一にして進んできた部分もあるのかとも感じています。
 そうは言いましても、まだまだ不十分なところがありますので、それは私たちの運動の中で克服していこうと考えています。
 今度の基礎構造改革では、社会的に自立した生活に直接的に結びついていく職業生活への支援にどれだけ寄与するのかを注目していました。具体的には、小規模作業所の法人化の方向が出てきて、十三年度の予算要求でも小規模適所授産施設に対する補助が出てきましたし、法人化へのめどもいくらか立ってきたと考えています。どういうふうに進めていくかは、私たちが強力に運動をしていかなければならないと思っています。
 もう一点、福祉の世界では本人の主体性が尊重されるようになりつつありますが、特に知的障害に言える問題かもしれませんが、教育においてはどうなのか。自己選択、自己決定を迫られる本人たちを育てることが、教育の中で十分になされているか。そのあたりも十分に注目し、運動の取り組みをしていかなければならないと思っています。

大友

 私どもの組織は、障害者プランの中に作業所をきちんと位置付けて支援していくということがなかったことに危機感を感じて、現場の声を国の施策に反映させようと、四年ほど前に立ち上げました。精神障害者の作業所、グループホームを組織化の対象としています。
 精神障害者施策では、三十四万人の入院患者のうち、もっとも少ない数字としても約三分の一、十万人を超える人たちが、社会的な入院、社会に出てこられるのに精神病院を生活の場にしていると言われています。このことは由々しき人権問題であって、早急な解決が第一の課題です。二番目には、他の障害をもつ人にも言えるかと思いますが、親や家族に頼っているところがありますから、家族の負担の軽減と社会的な支援の輪の拡大が大きな問題だと思っています。三つ目としては、障害者の地域での生活や活動などを支えていく社会資源の整備が大きな課題だと思います。
 今度の社会福祉基礎構造改革の中で、社会福祉法人の資産要件の緩和と小規模授産施設の規模要件の緩和が出されて、併せて生活支援センター等も運営できるという方向になったわけです。私どもからすると、作業所ができて約三十年ぶりに、これまでの作業所実践を評価して、国として積極的に支援していこうという動きがあったことを高く評価したいし、課題はありますが、大きな手がかりを得られたとうれしく思っています。

大原則は「当事者主体の福祉」

板山

 基礎構造改革分科会では私もメンバーでしたが、確かに当事者団体の直接の関係者は入ってはいませんでした。後にヒアリングなどはありましたが、最初からそういう姿勢を持ってほしかったというのは、みなさんに共通の思いだと思います。法律改正があって、これから政令が作られ、通知や告示が出されます。そういう具体的な検討の段階で当事者団体の意見を入れてほしいとアピールしていくことは重要だと思いますが、いかがですか。

松尾

 建設的な、世間に通用する意見を堂々と言える団体にならなければならない。社会的にも信頼される団体にならないと、役所も信頼してくれないと一面で反省もしたのですが、今後はあらゆる面で当事者団体の意見をぜひ聞いてほしいし、メンバーに参画させてほしい。これからの福祉の大原則にしていただきたいと思います。

板山

 今回の法律改定の趣旨は、「当事者主体の福祉」、当事者の選択決定に基づくサービス提供の仕組みを作ろうということです。ですから、当事者の参画を前提とするのは当たり前ですが反面、障害者団体はそれに応える能力を持たないといけないというお話ですね。

太田

 松尾さんのおっしゃる通りだと思います。私たちもそこを肝に命じていきたいと思っています。
 当事者主体という言葉で思うのですが、社会福祉法人が施設を運営していますよね。利用者と職員がいて、法人の理事がいます。利用者のニーズをきちんと把握できるのは利用者自身だと思いますから、法人の評議員や理事の中に利用者代表として当事者を入れるシステムを作っていただく必要があると思います。当事者はサービスを与えられるだけの存在で、施策を作っていく能力がないという前提があったら、それはおかしなことであって、当事者は経験的、体験的に十分能力を持っています。当事者主体は、あらゆる段階で行われるべきです。もちろん、当事者自身ももっともっと勉強する必要はあるだろうと思います。

板山

 精神障害の方たちは、病気は持っていますが、当事者能力は十分にお持ちです。そのような前提に立って、当事者参加のサービスの実現、あるいはサービス提供者が当事者のニーズを施設や在宅の現場でしっかりとらえて提供していく。この点については、いかがですか。

大友

 社会福祉法の中で、社会福祉法人の情報公開が義務付けられ、苦情処理システムを作らなければいけないというふうになってきました。不正を行った場合は、社会福祉法人を取り消すこともできるとなるなど、かなり評価できる内容になっていると思いますし、むしろ社会福祉法人を運営する理事会がその辺の趣旨を踏まえて、どういうふうに活用していくかの力量が問われていると思います。
 改正の中で、後半には私どもの意見もずいぶん聞いていただきましたし、国会議員にお願いに行けば時間のある限り聞こうという姿勢もありました。
組織としての体力なり、政策立案能力という面で考えなければいけないことはありますが、厚生省としても精一杯やったのではないかと思います。ただ十分でないのは確かですから、今後どういうふうに生かしていくかが、われわれとしての課題です。
 当事者が選択できるほどの社会資源がないのに、絵に描いたモチだと批判するのではなく、作業所が法制化されるのは画期的なことだと思いますので、それを生かしきることで、地域で支えていく体制をつくっていきたいと思います。

板山

 その意味では、知的障害者はいちばん難しいですね。

金子

 先ほど申し上げたように、知的障害の場合は当事者の参画は難しい問題を含んでいますが、ここ何年か、知的障害のある本人たちを会の運動の中心に据えていこうという中で学んだのは、参画することによって力がついてくるし、伸びてくる。親が手を取り足とりしなければならないと思っていたのに、非常に大きな力を発揮しているわけです。参画の場をつくっていくことで、当事者能力は高まっていくことを学びました。
 五千人規模の親の大会に、本人たちが五百人ぐらい参加して就労の問題、生活支援について意見表明をする。表現の拙さとかはありますが、インパクトは大きい。参画することで力が高まっていくことは、すべての障害者に言えるのではないかと思います。

課題が残る所得保障

板山

 今回の福祉改革の過程で十分議論されていないテーマに所得保障問題があります。当事者主体とか、本人の選択、契約と言いますが、その基礎となる経済的基盤がしっかりしていないと自立も利用選択もできないのではないか。この問題について取り組みが十分でないというご指摘がありましたが、大友さんはどうお考えですか。

大友

 就労の場をどう確保するか、あるいは障害者年金の問題をどうするかを考えますと、精神障害者は法定雇用率にもカウントされていませんから、その辺を早く改善してほしいと思います。今年度の概算要求の予算書を見ますと、精神障害者に関してジョブコーチの試行事業が始まるとか、いろいろな形で工夫しようという動きはありますので、そこは期待しています。
 小規模授産施設では運営費が一千百万円で、全国平均六百二十五万円の約二倍という形になって、生活支援センターにジョブコーチを付けることができるようになりました。年金が八万円というお話がありましたが、作業所で七、八万円稼ぐように頑張れば合わせて十五万円になります。いろいろな施策を組み合わせていくと、自立生活の可能性はあるのではないかと思います。ただ、障害者は景気不景気の波を最初に被りますから、年金での保障をもう少し考えてほしいと思います。

板山

 精神障害者の場合は、就労と基礎年金という制度の組み合わせが可能ですが、重度の知的障害の人たちは、働く場づくりといっても難しいと思いますが。

金子

 私たちも、経済生活については就労支援と年金の二本の柱を考えています。就業、就労については、平成十年から法定雇用率に知的障害者も加わりましたし、障害者緊急雇用安定プロジェクトで就労についてのいろいろな支援策がとられてきたと思います。
 厚生省労働省が一緒になっての障害者就業生活総合支援事業も始まって、生活支援センターでの支援がなされようとしていますが、重度の障害の人たちも就労の機会が得られるように運動をさらに深めていきたいと思いますし、軽度の人たちで年金をもらっていない無年金者の解消も含めて、年金問題に取り組んでいきたいと思います。

松尾

 厚生年金に比べると国民年金はかなり低いんですね。保険料の問題もあり、なかなか難しいと思いますが、年金の改定と、無年金者がいますので、総合的に検討する必要があると思います。小規模作業所を法人化しますと、重度の身体障害者でもある程度所得が上げられると思います。最低賃金ぐらいになればいいのですが、その辺が大きな課題だと思っています。

太田

 働く場所の環境の整備を行ったうえで、いつ病気になってもいいような年金制度が大切だと思います。生活するために無理して働いて体を壊す人が私のまわりには多くいますので、安心して働けるような所得保障が必要ではないかと思います。
 扶養義務については、多くの障害のある人が親や兄弟に世話にならないと生活できない。親ならまだいいんですが、兄弟に面倒をみてもらうのは心苦しいので、独立できるような所得保障が重要です。欧米の先進国では二十歳になったら独立することが前提になっています。成人後も一緒に親と暮らすのは日本特有のもので、その文化がいけないとは一概に言えないかもしれませんが、障害者について言えば、いつまでも年老いた親に面倒を見てもらう関係でしかないということは、本人のプライドを傷つける、個人の尊厳を侵すことになると思います。親との関係を円満に愛情豊かにしていくためにも、扶養義務というのは見直されるべきだろうと思います。福祉法のサービス給付単位の問題も含めて、現在JDは扶養義務問題についての研究会を持っており、検討を重ねているところです。

板山

 施設入所における費用負担問題をめぐって、身体障害者の団体は明確に「成人障害者は扶養義務を外すべし」と言っています。身体障害と知的障害、特に親の会の立場とは対立がありますね。

金子

 扶養義務の問題は、確かに難しいですね。親の会としては、扶養意識がこれまでどうしても払拭できなかったのですが、意識改革をしつつあるというところです。会の中で議論がもっと必要だと思っています。

 

 「社会的入院・入所」から「地域」へ

板山

 いろいろ当面する課題が出てまいりましたが、精神障害者サイドから三十四万人中の三分の一は受け入れ条件ができれば、家庭や地域に帰っていけるというお話が出ました。知的障害も十数万人の施設入所者のうち、三分の一ぐらいは地域で暮らせるという指摘が専門家から出されています。社会的入院ということに関して、金子さんはいかがですか。

金子

 この点も、今回の基礎構造改革の中で、私たちに突き付けられた課題だろうと思います。三十万人と言われる知的障害者の中で十万人が施設入所ですが、かなりの人たちは入所の必要がないとも言われます。育成会は、入所施設ではなくて地域で生活することを掲げておりますが、すぐ施設から外に出るという具合にはなかなかいかないという状況ですから、苦慮しています。
 グループホームを増やしていくことによって、施設入所から地域生活へと促していこうと考えていますが、通勤寮、グループホームから自立した生活へという流れを、社会資源を含めてどう支援をしていくか。親も含めての支援のシステムをどう作っていくかが、これからの課題だと思います。

板山

 施設不要論ではなくて、家庭や地域で生活が可能な人々は地域・家庭へというのは、精神障害者の入院の場合もまったく同じだと思います。今回の障害者関係各法の法律改正がめざすところは、地域生活支援事業を制度化し、しっかり取り組んでいこうということです。
 身体障害者の施設入所は比較的少ないのですが、身体障害者療護施設などは都内にはなくて、よその県に委託している。東京都で生まれ育った知的障害をもつ人たちが青森県、秋田県、福島県などの施設に入り、そこで人権問題が起こっている。精神障害も同じです。この辺はどう思われますか。

松尾

 遠く離れた山の上に施設をつくらないで、できるだけ家族の近くにというのが一つの希望ですし、私のところの授産所にも知的障害者が五人、精神障害者が一人入っていますが、身体障害者と一緒に結構うまくやっています。精神障害者は、あいさつからみんなと一緒にやったら非常にうまくいっています。そういう面を一般社会の人々が認めるような行動に出れば、知的障害者も精神障害者ももっと展望が開けるのではないかという気がします。

板山

 大友さんのところは地域で生活する人々を支えていこうとしているわけですが、課題として感じていることはありますか。精神障害者施策は、身体障害に比べて半世紀、知的障害に比べて二十年遅れていると言われ、社会的資源は不十分です。医療サイドからのブレーキがあるのではないですか。

大友

 日本の精神医療の八割は民間精神病院が担っていますので、経営の論理で貫かれるわけですね。日本医師会会長だった武見太郎さんが、「精神病院は牧畜業者で、精神障害者が固定資産として扱われている」と批判しました。その辺を変えていくことの難しさはあるのですが、精神障害者はいつも本人の意思とは関係なく、周りの事情で対応がなされてきたという歴史が続いています。本人の意思が処遇に反映されることが少なく、結果として社会的入院が解消されることがないままにきています。これは、日本社会として恥ずべき、早急に改善すべき人権問題だという認識をしっかりしたうえで、第一次障害者プランが平成十四年に終わりますが、その後の第二次障害者プランで、厚生省は社会的入院を解消する具体的なアクションプランを出すべきだと思います。
 今度の基礎構造改革で、市町村が福祉の担い手に変わって、市町村居宅支援事業としていろいろな施策がメニューとして準備されつつあります。そのことを強力に推進することで、具体的な解決策は見いだせるのではないかと思います。政策担当者や病院関係者、地域でかかわっている者がそれなりの決意を持って取り組めば解決できない問題ではないと思うので、次の障害者計画では具体的なアクションプランが示されることを期待しています。

町村での障害者計画の遅れ

板山

 市町村は、市町村障害者計画の具体的な実現に一次的な責任を持つわけですが、計画をしっかり作っているでしょうか。

松尾

 今の市町村は、介護保険でてんてこまいです。障害者担当の職員は極めて少なくなっていて、活動していないのではないかと思います。計画そのものは大事ですが、重点項目を決めて各個撃破をしていかないと、計画は進まないのではないかと思います。

板山

 最近の総理府調査によりますと、障害者計画の策定率は市と特別区は、九一パーセントですが、町村は五六パーセントです。特に人口の小さな町村は、障害者福祉を担当する係すらいないんです。全国に三千二百五十余りの市町村がありますが、町村の人口は六百人から二千人ぐらいが多いんです。当面の介護保険などの処理に追われていて、障害者は置きざりにされているきらいがありますね。

金子

 町村の遅れは許せないという気がしますが、ある程度の広域でプランを作っていくという道もあるわけですから、行政の動きを待つのではなくて、私たちのほうから積極的に働きかけて、当事者が障害者計画あるいはアクションプランの策定にかかわることをもっと進めていかなければいけないと考えています。

板山

 精神障害者施策の記述がある市町村障害者計画が、今年三月末現在の数字ですが八七パーセントで、一三パーセントは記述すらない。まして、六〇パーセントは数値目標を作っていないんです。私もいくつかの市の障害者計画作成委員長などを務めましたが、必ず精神障害者を入れて、数値目標を入れました。大友さんのクリニックのある横浜市はよくやっているところですから、アクションプランも可能とおっしゃっていますが、全国的に見ると非常にさびしい状況です。

リーダーの若返りと運動の継承

松尾

 それぞれの障害者団体が活発に活動して押し上げるようにしないといけないと思いますが、町村では団体そのものも弱いんです。

板山

 知的障害者の数が五人、十人という町村では、必要があればサービスをしますと言うのです。そこで計画を作れといっても無理ですが、県単位、郡単位の広域で作ればできるわけです。今回の構造改革のポイントは、一つは市町村福祉を実現することにあるわけですから、市町村が動かなければどうにもならないわけです。市町村をいかに動かすか、それは当事者団体だと思います。
 ただ、障害者団体のリーダーの顔触れが二十年前から同じなんですね。障害者運動の若返りは可能ですか。

太田

 若返りをさせないといけないのではないでしょうか。明日へつなぐ運動をきちんと継承していくことが、障害当事者運動の使命ではないかと思います。
 法律が変わったということで、市町村単位で計画があるところとないところ、意識があるところとないところと、政策やサービスに大きな違いが生じるだろうと思います。大都市がますますよくなり、過疎地域が悪くなるという状況に対して、どう認識し、対応していくかが、障害者団体の課題だろうと思います。
 それからこういう政策が国では決まりましたとか、各地域の障害者団体にいろいろな情報を瞬時に発信していくことを忘れてはいけないと思います。
そのうえで、若返りというか、次代への継承をしていくために、過疎地では障害者同士話し合うのはたいへんだと思いますので、インターネットを使うとか、さまざまな情報先端技術を駆使して障害者同士のネットワークを組めるように障害者団体が支援し、行政がサポートすることが大事だと思います.計画が貧困なのは障害者団体にとっても自治体にとっても不幸ですので、ぜひすばらしい計画ができるように、行政が障害者団体をサポートする必要があるのではないかと思います。

金子

 私たちの会としても、重要な課題だと認識しています。親の会は活動して五十年になりますが、最初のころから活動をされている方が経験を重ねてまだトップにおられるという状況です。組織としては、子どもが障害の宣告を受けて苦しんでいる若い親御さんたちを吸収する力がだんだん弱くなってきたという危機感を持っています。
 二千五百の市町村や学校単位の親の会がありますが、若い親御さんたちのニーズをどう吸収して、そのエネルギーを運動に生かしていけるかが当面の大きな課題です。教育問題にも改めて力を入れて、その中で若い親御さんたちを私たちの運動の中に巻き込んでいこうと考えています。

松尾

 私も、ぜひ若返らなければいかんと思っています。私は、団体活動は経営感覚をもってやらなければいかんと思います。今は福祉の活動が主体ですが、文化活動、スポーツ活動で若い人たちを引き込む。相談員にも若い人を入れるべきではないかと思います。団体は変わっていかないと、衰亡していくだけです。各県、各支部が経営感覚を持って活発な運動をしていく。金銭的にも、団体活動も成り立つというふうにぜひしたいと思います。

大友

 今後何をすべきかと考えますと、全国に五千五百近くの作業所が存在しています。この作業所運動を引っ張ってきたのは、家族会が大きな役割を果たしています。作業所を小規模社会福祉法人化して小規模授産施設にして、生活支援センター、ホームヘルプサービスもするという形を通して、市民を巻き込んだり、いろいろな形で新しい展望が開けるのではないか。障害者が少ない町村は広域で考える。そういういくつかのモデルを提示して、全国的に広めていくことで、新しい動きをつくれると考えています。
 精神障害の場合は、まだまだ当事者活動が弱いと思いますが、三十年前には当事者が発言することもありませんでした。今日では自分の名前をオープンにして、精神障害者だと名乗って発言する人たちがかなり出てきていますが、作業所や生活支援センターの活動を通して、その動きがさらに活性化していくと期待しています。神奈川県では「障害者の明るい暮らし促進事業」で、当事者団体に事業費として百万円を出して、そのお金で当事者活動活性化事業をしています。可能性はあると考えたいですし、条件は整いつつあるのではないかと思っています。

板山

 神奈川県や横浜市は障害者施策のレベルが高いんです。それに比べ、地方の市町村はまだまだというところが多い。都道府県格差、市町村格差がだんだん大きくなりつつあります。この事実を調査し、比較検討して、情報として提供する障害者団体の活動が必要だと思います。

  

二十一世紀は当事者が政治を動かす時代

板山

 二年後の二〇〇二年が「アジア太平洋障害者の十年」の最終年です。ポスト十年をどうするかも含めて、今年から来年、再来年にかけては、「国連・障害者の十年」に続く「アジア太平洋障害者の十年」の歩みを、総括し、評価・点検し、お互いが課題を整理するときではないかと言われています。
 いろいろな問題解決のためには、市町村における障害者計画、障害者福祉がどう動いていくかが要になると思います。私はいつも言うのですが、市町村の一人の部長、一人の課長、一人の係長が理解をして一緒にやってくれれば、へたな予算やへたな法律よりも、大きな力になります。
 二〇〇二年には、「アジア太平洋障害者の十年」が終わり、障害者プランも一つの区切りを迎えます。これから何をテーマにして取り組んでいくべきなのか。ポイントはどこにあるか。二十一世紀への期待という意味もこめて、最後に一言ずつお願いします。

金子

 基礎構造改革を経て大きな転換を期待しているわけですが、入所だけ、あるいは在宅だけの生活から、私たちが掲げているインクルージョンという、地域社会の中で豊かな資源を活用し、十分な支援を得ながら、地域生活をエンジョイしていく。地域生活のいっそうの進展を期待しています。
 知的障害の人たちのQOLはまだまだ劣悪な状況にあると思います。さまざまな施策が推進されていく中で、地域で充実した生活が保障され、その中でQOLが高まっていく。就労とか作業所だけでなく、学校生活も含めたライフステージを通してQOLが高まっていくことにもっと力を入れたいし、二十一世紀はそういう時代であってほしいと思います。

松尾

 現代もそうですが、二十一世紀はスピード、情報の時代だと思います。障害者自身が、福祉改革をめざすという積極的な行動に出なければいけないと思います。今までは待つ姿勢が多かったのですが、これからは自ら切り開いていくことが大事だと考えます。
 厚生省の課長さんと私たち団体の理事とフリーで意見交換をと申し入れをしたところ、全課長さんがOKで、以前と比べたらかなり開かれているのです。国、県、市町村のレベルで、意見交換の場をどんどん持っていく。私が住んでいる佐賀県では、全障害をまとめて社会福祉連絡協議会をつくって、市町村長との対話集会をずっと続けています。その場で出た要望を次年度の予算に反映していただいていますが、われわれの主張を市町村の長に訴えて協力を求めるようにしていかなければと思います。
 二十一世紀には、障害者の声が政治を動かす時代になってほしい。そのためには、全障害者が一致団結をして国に訴えていく強力な団体になっていくべきだと思います。

太田

 施設の問題についてですが、リハビリテーション施設は三年なら三年、五年なら五年で地域社会で暮らせるようにしてほしい。生活施設については、地域で支援していける仕組みを作るべきだと思います。所得保障や介助システムの整備、バリアフリーの住宅施策が充実すれば、生活施設は多く必要ないはずです。地域社会が障害者の生活を支えるノーマライゼーションの実現こそ重要です。
 障害当事者が政治を動かす時代になるように、当事者が主体ということがより明確になるようにしていきたいと思います。具体的には欠格条項の問題については、共有できるところは一緒に運動ができるような体制があっていいと思います。一緒に取り組んでいくと、当事者運動が魅力あるものに変わって、多くの障害者から支持されるものになるのではないか。それによって、政治も、市町村も、そして当事者自身も変わるのではないかと思います。

大友

 障害者の尊厳ある生き方を支援するのは、私どもの役割だと思います。あらゆる分野の中に障害者が参画して活躍する時代をつくるためにはどうしたらいいかという話ですが、日本の社会は選挙を通じて自分の意志を表現していく仕組みになっています。日本には五百五十万の障害者がいると言われ、家族兄弟を含めれば二千万、三千万の障害者の関係者がいるわけです。その人たちが集団としての政治意志を持ったときに、日本の障害者施策は大きく変わるだろうと思います。
 一人ひとりの一票が障害者の未来を決定するという確信を持って、障害者施策をきちんとしなければあなたは支持・投票しませんよという意志で行動することが、福祉の世界には欠けているのではないか。福祉の世界では政治的な行動は軽視する雰囲気がありますが、福祉のある側面は税金の再配分の問題ですし、一票で表現できる組織力を持つことが、これからのあり方を決すると思います。

板山

 基礎構造改革を踏まえ、二十一世紀について若干の展望を加えながら、これからの社会福祉、障害者福祉についてお話していただきました。
 障害者施策は、経済的基盤を着実に固めながら、一人ひとりが持っている可能性を最大限に生かしていく。重度重複の人たちも人間らしく生きていけるようにする。可能ならば社会参加ができるという状況をきちんとつくる。社会の中にバリアフリー、インクルージョンという仕組みを、制度的にも物理的にも情報文化の面でも、市民の意識の中にも作っていくことが必要だと思います。そのためには、今、各省が取り組んでいる欠格条項の見直しには大きな期待が持たれています。
 一方で、移動や建物についてのバリアフリー法ができています。それらが総合化されて、アメリカのADA法のような差別禁止法に発展していってほしい。国連は若干の動きを始めていますし、世界の障害者団体やリハビリテーション関係団体も、障害者の人権規約を条約化しろという動きがあります。二十一世紀には、それらの動きが日本も含めてどのように広がっていくか。
そのときに、お話に出た政治的アピールを考えなければいけないだろうと思います。
 二十世紀は、車いすの国務大臣、全盲の代議士が初めて誕生しました。今、全国の県会、市町村会議員に障害当事者の方が増えてきています。二十世紀は障害者の政治参加の幕が切って落とされた時代だと思います。二十一世紀は、「アジア太平洋障害者の十年」のポスト十年をにらんで、障害者団体が団結して魅力ある活動をする、その一つの目標が政治的アピールではないかと思いました。二十一世紀を、障害者が政治を動かす時代とすることができたら、すばらしいと思います。長時間、ありがとうございました。