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当事者の立場から

尾上浩二

「新しい利用制度」とサービス基盤整備

 「措置から利用契約へ」を掲げた社会福祉基礎構造改革。障害者分野では、二〇〇三年から「支援費支給方式」が導入される。そのキーワードは「利用者本位」「利用者とサービス提供者の対等な関係」である。その「対等な契約関係」が成り立つ前提条件は、市民生活ができる所得があること、選択できるだけの十分なサービス量・基盤があることだ。しかし、この条件をどう整えるかの議論は十分なされているとは言いがたい。
 特に、今回の法改正で障害者施策の実施主体は市町村が中心になる。ところが、その市町村での障害者計画策定は、最近ようやく六割を超えた程度であり、数値目標を持っているところは、さらに限られる。そして、障害者一人ひとりの多様なニードに対応できるサービス供給主体をどのように広げていくかも大きな課題だ。

「脱施設・地域生活支援」を掲げた新障害者プランを

 社会福祉基礎構造改革は、措置制度からの転換を掲げている。私自身、子ども時代に障害児施設に入所していた。子ども心にも、自分の知らない間に行政職員と親との相談で入所が決まっていたことに戸惑いを感じた。そうした経験から、措置制度と施設中心の政策とは切り離せないと思う。脱施設化・地域生活支援中心の政策へと組み替えてこそ、基礎構造改革と呼ぶに値すると言えよう。
 一九九五年から始まった障害者プランの進捗状況を見てみると、入所施設等に比べて、市町村生活支援事業等の地域生活関連の遅れが目立つ。ぜひとも、「脱施設・地域生活支援」をテーマに掲げた新障害者プランが策定され、そうした中で市町村でのサービス基盤が整備されていく必要がある。

「支援費支給方式」と当事者主導

 もちろん、「新しい利用制度」への移行は大きな転機となり得る。
これまでは行政から「措置受託団体」と認められなければサービス提供は難しかった。それが、一定の基準を満たせば指定業者としてサービス提供が可能になる。ただ、これまでホームヘルプサービス等については、高齢者福祉と一体となって基盤整備が進められてきた。その高齢者関連のサービスは介護保険へ移行した。このままでは二〇〇三年以降、介護保険の指定事業者が参入するだけにとどまりかねない。自立や社会参加、そして、コミュニケーション支援等の障害者のニードに応えられる供給主体はどの程度あるのだろうかと危惧せざるを得ない。当事者のニードに対応できるサービス供給主体として、自立生活センター等の当事者が参画したNPOが認められることにつなげていきたい。
 また、「新しい利用制度」により、支給される支援費は、市町村等から事業者に支払われる「代理受領方式」が採られることになる。障害者自身に対する「支援費」であるならば、障害者自身に直接支払われるべきであろう。そのことにより、真に消費者としてのサービスへのコントロールが可能になるはずだ。現金での給付が難しい場合は、社会福祉法成立の国会決議にあるとおり、市町村でのバウチャー方式は大いに可能なはずだ。

「障害者一人ひとりの権利の確立」をキーワードに

 市町村中心の実施体制への移行は、これまで身体・知的・精神と障害ごとだったサービスを一体的に展開していくうえで大きな意味を持つ。今後、障害者総合福祉法の検討が日程に上る条件の一つがつくられたと言えよう。さらに、利用援助の仕組みや苦情解決等、権利擁護につながる仕組みも盛り込まれた。だが、本来その前提になる「障害者の権利」が法的には明らかにされていない。サービスの受給権や差別禁止を明記した障害者の権利に関する法律が求められる。
 また、福祉サービスの利用に当たって、現在は世帯の所得に応じた費用徴収が行われている。そのため、在宅障害者の場合、往々にして生計中心者である親の所得に基づくことになる。それがサービス利用へのためらいや、障害者本人と家族の間のニードのずれを生み出し、自立を阻害する大きな原因となっている。障害者自身が気兼ねなく利用できるよう、障害者本人の所得に基づく費用負担に変更が加えられるべきだ。
 今回の法改正では、「利用の仕組み」の変更に主眼が置かれている。そのことをとっかかりにしながら、理念として掲げられた「利用者本位の制度」に組み替えていくために、権利法やサービス基盤の確立、当事者参画など、今後の課題を明らかにした点に意義があると言えるのではないか。
 「障害者一人ひとりの権利の確立」をキーワードにした取り組みが広がることを期待したい。

(おのうえこうじ 自立生活センター・ナビ代表)