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地方自治体の立場から

池内徹

 二十一世紀を間近にした今日、「リハビリテーション」と「ノーマライゼーション」の理念は徐々にではあるが確実に浸透し、障害者の自立と主体的な社会経済活動への参加をめざす気運が高まるとともに、障害者が地域社会の中で暮らすことが自然であるという意識が、社会の中で育ってきていると感じている。
 この度、制定からおよそ五十年を経て「社会福祉事業法」が改正され、名称も「社会福祉法」と改められた。その内容はほかに譲るとして、今回の社会福祉基礎構造改革は、まさに時代の転換を象徴する大改革であり、障害者福祉行政の第一線に携わる私ども地方自治体として、増大・多様化する社会のニーズの変化に的確に対応する抜本的な改革の第一歩として受け止めている。一方、長年にわたった従来の福祉の理念やシステムに対する目まぐるしい変化に迅速かつ柔軟に対応し、施策に反映していかなければならない責任と使命感を強く感じており、自治体としての力量が問われる時であると実感している。
 名古屋市としても、本年四月より一部事業について、利用者が事業者を選択できる制度を採り入れたが、サービス利用者や事業者の混乱を招くことのないよう円滑な制度移行を図るための計画的な準備を進めるとともに、法改正の理念の実現と新たな時代の障害者ニーズを反映した的確な施策展開を図っていきたいと考えている。
 利用制度への移行に際しては、利用者が真に事業者と対等な立場で契約できる環境を保障することが何よりも重要である。今回の法改正においても、福祉サービスに関する適切な情報の提供をはじめ、福祉サービス利用援助事業や苦情解決の仕組みの導入について明確に規定がなされたところである。
 私どもでは、平成十年四月、国の制度に先がけ、障害者・痴呆性高齢者権利擁護センターを開設し、福祉サービスの利用調整を含む各種の権利擁護サービスを実施しているが、制度移行を視野に入れ、今後とも施策のいっそうの充実が求められることとなる。
 また、利用者からの苦情解決の仕組みに関しても、所管の障害児者施設において、必要な体制整備が早急に図られるよう十分な指導.助言を行っていかなければならないと考えている。
 さらに、基礎構造改革の趣旨が広く施設経営者や関係職員に浸透し、サービス事業者としての資質の向上とサービスの質の向上が主体的かつ積極的に図られるよう、自治体としても研修や各種会合、あるいは監査などの機会を捉え啓発に努めていきたい。
 社会福祉法は、基礎構造改革のいわば骨格を規定したものであるが、体系として肉付けを行い、血の通ったものとして実効性を高めていくためには、自治体として今後、早急に取り組まなければならない課題も多い。
 たとえば、新たに社会福祉事業とされた、障害児、知的障害者及び身体障害者の「相談支援事業」や、これらとかかわりの深い「ケアマネジメント体制の整備」は、障害者の自立と社会参加を促進し、地域での生活を保障していくうえで重要な施策であるが、障害者の生活支援やケアマネジメントについては、高齢者の場合と異なり、ニーズが介護や保健・医療に限らず教育や就労、社会活動などの広範囲に及ぶ場合が多く、支援体制のあり方やマネジメントの内容についての具体的な検討が今後の重要な課題である。
 また、これまでの障害者自身やその家族などによる自立支援へのさまざまな取り組みについて、一定の評価をしたうえで、サービス供給主体として活動できるよう支援していく方策も必要ではないかと考えている。
 さらに、ケアマネジメントが地域におけるシステムとして機能し、利用制度に基づく選択が実効性のあるものとなっていくためには、サービスの供給が質量ともに需要に見合ったものであることは言うまでもない。自治体としては、今後も引き続き、障害者プランに基づき、施設整備や在宅福祉サービスの供給体制の整備を着実に進めるとともに、多様な供給主体の整備についても支援していかなければならない。しかしながら、需要超過にある現状にあって、利用制度のもとでも、重度重複障害者など福祉サービスの必要度が高い人に対し、確実にサービスの提供が行われることを保障するなど、サービス供給の社会的公平性を担保するための公的な関与の方策を具体的に示すことも大きな課題と受け止めている。
 今回の一連の法改正により「自己決定型社会」の実現は緒についたばかりであるが、障害者の自立のためには、福祉サービスのみならず雇用促進や社会、経済、文化活動などへの参加促進、まちのバリアフリー化や住環境の整備など、障害者の地域生活を広範に支援していく施策展開が自治体に期待されていることを実感している。
 限られた時間ではあるが、中長期的な視点も持ちつつ、山積する課題の一つひとつに真摯に取り組んでいきたい。

(いけうちとおる 名古屋市健康福祉局障害福祉部障害施設課長)