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二次障害考(1)

脳性マヒの二次障害
-全国肢障協・二次障害問題検討委員会の取り組み-

市橋博

 私たち全国肢体障害者団体連絡協議会(全国肢障協)は、一九七八年十二月九日に結成されました。現在二十一都府県で二千五百人の肢体障害者が活動しています。二次障害の問題は、全国肢障協結成当時から出されていました。
 二次障害とは、それまで仕事に、生活に、障害者の仲間たちとの活動に頑張ってきた肢体障害者が、首や腕が痛くなったり、歩けていた肢体障害者が歩けなくなったり、ついには寝たきりになることを言います。定義もあいまいで、“二次障害″という言葉も、医療や行政から出たものでなく、私たちの活動の中から出てきた言葉ではないかと思います。
 こうした定義も言葉もあいまいで、医療的にも制度的にも糸口さえないままに、仲間が次々と痛みを訴えたり、障害が重度化することになにもできず、「次は私の番か」と不安になるだけの時もありました。

脳性マヒの二次障害

  一九八七年十月に名古屋で開かれた全国肢障協第五回全国交流集会では、「脳性マヒの『いわゆる二次障害について」という記念講演を南生協病院副院長の後藤浩氏が行いました。講演の中で「脳性マヒ者が歳をとると身体各部が痛み、しびれなどの症状を訴える例が多い。多くの脳性マヒ者がそういう痛み、しびれは感じているが、それがなんであるか、どうして起こるのかについてあまり理解していなかった。はじめは大したことない、歳のせいだくらいに考えていたのだが、寝たきりになったり、退職しなければならないようになったりして大変なことだと自覚する」「脳性マヒそのものについてはっきりしないことが多く、二次障害と言われる状態についてもよくわかっていない。しかしこの状態を訴える人は多く、今後解明しなければならない」と話されました。
 その後のシンポジウムで、障害者自身からも体調についての報告があり、二次障害問題は成人障害者にとって重要な問題であることが共通に認識されました。このまま放置できない問題として、全国肢障協は、一九九〇年に開かれた第七回総会で「二次障害問題検討委員会」の設置を決定しました。
 「それが単に肉体的に手足が動かないという苦痛だけでなく、今まで努力を重ねて生きてきた結果がこれでは、という精神的ダメージが大きいことを重視する必要がある。二つ目には、それが若い肢体障害者の仲間たちに『一生懸命に努力してもああなってしまうのではないか』という大きな不安感を抱かせている等のことが分かり、多くの肢体障害者が結集し、肢体障害者の生活と権利を守り、要求の実現をめざして運動を進めている団体である全国肢障協として、もはやこのまま放置できない状況になってきた。『当事者の運動団体として明らかにすべきことの検討を進めよう』と二次障害問題検討委員会の設置を決定した」としています。

二次障害問題検討委員会の設置

 二次障害問題検討委員会では、会内外の百四十人の肢体障害者からアンケートを取りました。それによると、大部分の人が痛みやしびれを感じ、それも二十代から始まっていること、以前よりも機能の低下を感じている人が変化がないと答えた人の倍になっていること、六割の人が仕事の疲労が翌日まで残ること、半数近くの人が緊張緩和剤などの薬を常用していることなどが明らかになりました。また、仲間の状況などから見て、必ずしも重度の障害者が二次障害になるのでなく、不自由な身体で歩き、働いていた障害者が二次障害になるというケースも多いということも報告されました。
 検討を重ねていく中で、二次障害が発症する原因として、障害や加齢の影響だけでなく、その障害者を取り巻いている生活、労働、住宅、交通、まちづくり、精神的ストレスなどがかかわってきているのではないかということになりました。二次障害問題検討委員会では、「二次的障害に挑戦する」という報告書を一九九五年に出しました。

厚生省への要請

 全国肢障協は、二次障害の検診などを実施するよう厚生省に要請を行いました。当時は“二次障害″という言葉も知られておらず、障害者が診察に行っても相手にされない状態で、厚生省でも係官が変わるたびに二次障害を説明しなければならない状態でした。しかし、粘り強く要請をして、一九九二年から「身体障害者健康審査事業」が実施されました。国が障害者の健康問題に予算をつけたということは意味あることでしたが、二次障害に対しては必ずしも有効とは言えません。対象を「常時車いすを使用している在宅の障害者」に限定し、検査内容も、内科や整形外科の問診、身体計測、血液検査など二次障害に直接関係ないものが多くあります。またこの制度が、自治体のメニュー事業であることも、制度が今日まで広がらない原因になっています。
 全国肢障協では、「対象を車いす使用者以外にも広げ、検査課目も筋力検査など二次障害予防に必要なものを加えること」と要求しています。こうした中で、全国でいくつかの制度が生まれています。
 愛知県一宮市では、脳性マヒ者が寝たきりにならないように、市立市民病院整形外科に外来を設け、月一回、脳性マヒ者全員の診断をしています。全国で初めての取り組みとして注目されています。また、高知県では、医師を招いて、アテトーゼ型脳性マヒの二次障害である頚椎症の発見・治療のための相談が行われています。こうした取り組みは、全国の仲間を励ましています。
 しかし、二次障害の問題は、まだまだ深刻なものがあります。現在でも、歩けていた仲間が歩けなくなった、手術のため入院した、という知らせが入ります。肢体障害者が集まると、機能が落ちた、あそこが痛い、ここが痛い、という話が続きます。それだけでなく、二次障害は脳性マヒ者に主に症状が出ると考えられていましたが、ポリオの障害者にも症状が出ることが分かりました。現実に私の知っているポリオによる六十歳の障害者も、これまでなんの障害もなかった手に力が入らなくなり、変形し始めたと訴えています。アメリカで研究が進められ、菌が発見されたという報告もされています。

自分の身体を知る

 最後に、私自身も肢体障害者の一人として、二次障害について思っていることを述べたいと思います。
 一つ目に「自分の身体を知る」、その援助体制を整えることです。脳性マヒなど障害そのものについても、いまだ解明されていない部分が多くあります。障害者自身が自分の障害のこと、自分の身体のことを知らされていないのです。全国肢障協では「自分の身体を知ろう」と仲間に呼び掛けました。自分の身体を知れば、その予防、対策などにも展望が開け、「二次障害が運命的なもの」ではなくなります。障害者に分かりやすく身体のことを説明する、リハビリ関係者のご協力をお願いしたいと思います。二次障害問題検討委員会で話されたことですが、「頑張り過ぎない」ことも必要です。自分の身体を知り、気遣いながら、“適当に頑張る“ということが大切です。
 二つ目に、診断体制・相談体制の整備です。厚生省の「身体障害者健康審査事業」を実態に合ったものに変えるとともに、障害者が職場の帰りに気軽によれるような、夜間までやっている相談・リハビリ施設があればと思います。地域障害者センターの新たな役割としてぜひ考えてほしいと思います。今こそ、障害者自身と関係者が力を合わせる時だと思います。

(いちはしひろし 全国肢体障害者団体連絡協議会事務局次長)