音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

ハイテクばんざい!

「ドラゴン」の誕生

-CS聴覚障害者専用放送受信機と
文字放送デコーダーそして緊急時の通信装置として-

大嶋雄三

 「ドラゴン」の名称は、全日本ろうあ連盟のシンボルマークである「タツノオトシゴ」から名付けられました。今年は折しも、辰年。この放送を「昇り龍」のように、大きく発展させたいという願いが込められています。
 情報を得る重要な手段は、メディアであり、放送です。聞こえない人、聴覚障害者にとってすべてのテレビ番組に手話を入れること、字幕を入れることは切実な願いです。しかし、これまでその願いは無視されるか、付属機能として扱われてきました。こうした中で、「ドラゴン」は手話、字幕を入れることを前提に開発されました。自ら情報保障を得ようとする障害者と、それを保障しようとする関係者と共同で開発されたのです。
 障害者の情報保障は、どの時代にも関係者にとっては重要な問題でした。今日、放送のデジタル化に突入し、マスメディアを軸にした多種多様の情報伝達は全く新しい時代を迎えています。こうした技術、機器の進歩の中で、非常に大きな問題は、聞こえない人、聴覚障害者が、ますます情報の外に置かれていくことです。高齢の聞こえない人の多くは、コンピューターを操作することができません。インターネットにも無縁のまま、日がな一日意味のほとんどわからないテレビを眺めている聞こえない人の姿は、いま、世界的にも大きな問題になっているデジタルデバイド(情報格差)そのものです。「ドラゴン」は、こうした聴覚障害者に、最先端技術で手軽に情報を保障することができるのです。

 

「ドラゴン」の機能

 「ドラゴン」は、CS聴覚障害者専用放送統一機構によって、平成十年九月から予備実験、実験、放送の各段階を積み重ねて、昨年九月の大阪、十月の東京での公開実験を経て完成の運びとなりました。いよいよ今年の九月から本格的な販売に入りました。すでに予約注文が多く寄せられています。
 「ドラゴン」の基本機能を紹介しましょう。
1.CSデジタル放送受信機に文字放送デコーダーを搭載しているため、手話、字幕が入った「目で聴くテレビ」の番組と文字放送を見ることができます。
2.これまで複雑とされてきた、文字放送の録画が簡単にできます。
3.阪神・淡路大震災や東海村臨界事故等で、聞こえない人、聴覚障害者への情報伝達の不備が大きな問題になりましたが、「ドラゴン」はその教訓を生かし、緊急時に特別の信号を送り、危険とその内容を知らせることができます。
4.放映されているテレビ番組に、画面に手を加えることなく、手話と字幕を入れることができます。
 来年一月の著作権法の改正により、すべての聴覚障害者の年来の願いであったテレビ番組への手話、字幕の挿入の可能性が見えてきました。実現のために、より大きな運動が必要です。
 さらに、「ドラゴン」は、デジタル化を完了したことによって、今後多様な機能の発展が期待されています。情報のバリアフリーが求められる時代に、「ドラゴン」は確実に新しい一ページを開きつつあります。

「目で聴くテレビ」の現況

 「ドラゴン」で観ることができるCS聴覚障害者専用放送「目で聴くテレビ」は、平成十年九月に予備実験放送を開始してから、ちょうど二年になります。「目で聴くテレビ」は、財団法人全日本ろうあ連盟と社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会と株式会社アステムが、契約に基づき、責任を持って運営しています。全日本ろうあ連盟は、阪神・淡路大震災で聞こえない人が情報弱者として緊急情報から疎外され、命の危険に直面した痛切な経験から、独自の放送の必要性を指向し、研究と実験を積み重ねてきた結果、CS放送が最も適切であるとの結論に達し、「CS放送の実現」を大会スローガンにも掲げてこられました。いわば、満を持した状態での一昨年九月の予備実験放送のスタートでした。そして、今年の第四十八回全国ろうあ大会では、CS放送の推進計画に関する議案が満場一致で採択されました。
 現在、放送時間は月に一千分を超え、若干の地域格差はありますが、最大で週五日の放送を行っています。また、ケーブルテレビ衛星機構のご協力を得て、直接配信とともに、北海道から沖縄まで、全国のケーブルテレビでも放送をしていただいています。放送内容も大きく充実し、ニュース番組、特集、新しい手話紹介、イベント情報番組、国際情報番組、グルメ番組、お笑い番組など、多彩な番組を放送できるようになりました。番組の制作には、全国情報提供施設協議会も大きな役割を果たしています。

今後の課題

 いま統一機構は、週五日番組体制の確立をめざして、準備を進めています。協力していただく方々の輪も、大きく広がりました。統一機構の月例会議も、スタート時点では四~五人程度の参加でしたが、今では全国から常時三十人程が参加してくださるまでに発展してきました。これまでも、郵政省や厚生省に対して支援をお願いしてきましたが、検討していただいているようですし、ぜひ実現のために、引き続き、要請を続けていきたいと考えています。
 さらに協力の輪を広げて、「ドラゴン」の普及と聴覚障害者の唯一のメディアである統一機構の「目で聴くテレビ」を、大きく発展させたいと考えています。

(おおしまゆうぞう CS聴覚障害者専用放送統一機構事務局長)