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ワールドナウ

社会開発サミット特別総会

中西由起子

はじめに

 グローバリゼーションによって、各国は経済開発のみでなく社会開発の問題も一国だけでは処理できなくなった。また、両者を相関的に論じることなしには何の解決も見出せなくなっている。貧困の撲滅が最重要課題である途上国も、そしてこれを援助する欧米の先進国も、それ故今年六月の国連社会開発サミット特別総会を重要視した。しかし、日本国内ではあまり総会の内容は報道されることはなかった。日本政府代表団の一員として、NGOを代表して総会に参加する機会を得たので、ここにその報告をしたい。

会議のあらまし

 「社会開発サミット(WSSD)」は、五年前デンマークで開催された。その時、グローバル化によって経済格差が広がる世界の状況に対して、社会開発をもって対処する方策を探ろうと、世界はこぞってこれを歓迎した。
 「国連社会開発特別総会」は「世界社会開発サミットとその後ーグローバル化された世界での万人のための社会開発の構築」と題され、今年六月二十六~三十日、ジュネーブで開催された。コペンハーゲン宣言での社会改善の約束は、どの程度果たされているのかを問う会議である。三五か国の国家主席、四七九一人の政府代表、二〇四五人のNGO代表者が集まった。また、会場を別にして同時に開催された「ジュネーブ2000フォーラム」では、ILO等の会議場を借りて、主に欧米のNGOが中心となって一〇〇ほどの主題別の各種セミナーが開催された。
 本会議場では、連日各国政府が五年間の自国の経済・社会発展状況を発表した。また、三つのワーキング・グループが特別総会での採択のために準備された報告文書を合意すべく、連日十一時、後半には深夜二時まで討議を繰り広げた。「政治宣言」(第一部)、「WSSDの成果の実行の検討と評価」(第二部)、「コペンハーゲンでの1995WSSDでなされた決意実行のためのさらなる活動とイニシアティブ」(第三部)に分かれる報告が最終日には採択された。
 開会式でのデンマークのラスムセン首相の演説では、先進国に対してコペンハーゲン宣言の履行のためのさらなる努力を要求した。途上国に対しても問題提起はあった。たとえばアナン国連事務総長は、「良い統治(good governance)」と開発の関係、つまり債務削減や開発援助増加による財源が貧困層の利益となる社会サービスを提供するために使われること、もしくは、兵器購入や特権階級の生活向上に使われないことを訴えた。
 同じく一日目には、アナン事務総長が経済協力開発機構(OECD)、世界銀行、国際通貨基金(IMF)が共同署名した報告書「皆のための、より良い世界」を公表した。
 国連のこのようなIMFや世界銀行の貧困撲滅方針と歩調を合わせた行為に対して、ジュネーブに集まった多くのNGOは、開発支援に対して政治的条件をさらに押し付けることにつながることであると、反対行動を行った。
 三十日に閉幕が予定されていた総会は、最終文章での合意が遅れ、翌日の七月一日に閉会した。採択された行動計画には、コペンハーゲンでの社会開発サミットの宣言、行動計画を前進させることで合意した政治宣言文と、国連としては初めて掲げた、二〇一五年までに所得一日一ドル以下の絶対貧困者を半減する目標が含まれている。

障害の取り扱い

 障害者団体自体の取り組みの弱さもあったが、障害の問題はほとんど取り上げられず、女性やその他の問題の影に隠れてしまった。本会議場では歩行障害など軽度の障害をもつ人も政府代表者の中に見受けられたが、障害分野を代表しているのは、中国代表団のデン・プ・ファン氏(中国障害者連合会会長)と筆者のみであった。
 このことは、報告文書を見ても分かる。その第三部「社会の開発のためのさらなるイニシアティブへの提案」において、障害について以下のたった二項が当てられているにすぎない。

61.政策と方策の範囲を、とりわけ社会での自分たちの十分な役割を演ずるために障害をもつ人々をエンパワーさせる、国連障害者の機会均等化に関する基準規則の実行を促すことによって、拡大すること。発達障害、知的、精神障害をもつ人々や障害をもつ女性や子どもたちに特に注意すべきである。

61bis.仕事場の環境の整備とデザインを通して障害をもつ人々のために雇用へのアクセスを保障する。そして教育と技能の獲得を強める方策を通し、可能ならあらゆる地域社会でのリハビリテーションや、障害のある人々を雇用する企業への奨励策を含むこともその直接の方策を通して、彼らの雇用の可能性を向上させること。

 これらは、統合と機会の均等化に触れた自明のことであり、何も目新しいことではなかった。その他においては単に女性、子ども、高齢者と一緒に並べて論じられているか、弱者または不利益を被っている者として十束ひと絡げに扱われている。
 会場やその周辺のアクセスが十分でなかったことに加えて、要人のための警備が厳しく、開会式直前の混乱の中で車いすでの入場を拒否されるという事態もあった。エレベータの使用や通り抜けが禁止されているところが多く、初めの二日間は電動車いすで動き回るだけでひと仕事であった。整備に出して万全を期した車いすのタイヤも、スイス航空機で輸送中に穴があくというハプニングもあり、二日ほどその修理にも時間を取られた。町中はどう見ても舗道や建物が車いすに配慮されているとは言いがたかったので、日本政府がリフト付きバンを移動用に借り上げてくれたことには感謝している。各地に点在するビルで開催されていたNGOの会議にも、そのため自由に出席が可能となった。
 ジュネーブ2000フォーラムでは、障害に関する会議はカナダに本部を持つ世界応用障害研究・情報ネットワーク(GLADNET)が、障害者インターナショナル(DPI)と国際リハビリテーション協会(RI)と共同でILOを会場に、六月二十八日に開催した円卓討議たった一つだけであった。「万人のための完全参加」と題され、スピーカーには、世界銀行社会政策専門官、RI事務局長などが八人、当日の進行役を含めると、壇上に並んだ九人のうち障害者はたった一人という状況であった。
 時間が限られていたため、大半のスピーカーが活動報告だけで終わってしまった中で、唯一の障害者のスピーカーであるDPIのレイチェル・ハースト氏が、冒頭から「障害者の権利が侵害されていない国は世界にどこもない」「参加は権利の一部である」と訴えて、強烈な印象を残した。
 スピーチの最後には、緊急課題として障害者権利条約策定を推進しようとの呼びかけを行い、それに対して、聴衆の一人である中国障害者連合会からの参加者が国際社会の支持、協力を求めるとの意見発表を行った。中国政府は全体会での報告で、障害当事者の国際団体の長を集めて会合を開き、障害者の権利に関する北京宣言を採択したことを述べたり、連合会がパンフレット等を用意して権利条約の必要性を訴えようとしていたので、討議の時間が十分でなく、この件でそれ以上の発展がなかったことは残念である。会期中にデン会長がアナン事務総長に会い、権利条約のために半年以内に委員会を開催することを要請したとも聞いた。
 DPIは、特別総会では参加が許された登録NGOの一つとして、最終日三十日には急きょ障害コーカスを結成し、アクセスが不十分な国連会議場は障害者の人権を侵害しているとの意見を、NGOコーカスの記者会見の席上で発表した。
 障害に関して、今一番大問題となっていたのが、エイズなどの感染症であった。特別総会の最終文章では、とくにエイズが深刻なアフリカ二五か国に対し、感染者の削減目標の設定を促し、国際社会が支援していくことをうたった。

最後に

 HIV感染、エイズの問題は、アフリカの代表だれもが取り上げていたことからもその深刻さが分かるように、決してマイナーな問題ではなくなっている。これらを障害の問題の中に含めて、障害者自身が世界的に連帯して障害に対しての社会の関心を継続して、さらに喚起していかなければならないと痛感した。

(なかにしゆきこ アジア・ディスアビリティ・インスティテート)