音声ブラウザご使用の方向け: ナビメニューを飛ばして本文へ ナビメニューへ

東京都
都電荒川線のバリアフリー化の現状報告

今福義明

 早稲田から三ノ輪橋まで走る路面電車の都電荒川線が、日本で初めて、車いす使用乗客の全駅「単独自力乗降」を可能にしました。平成九年五月二十九日に全二十九駅のホーム嵩上げ化工事が完成しました。
 今年十一月中旬には「交通バリアフリー法」が施行されます。その移動円滑化基準の中で、旅客施設の鉄軌道駅の2.で「プラットホームと鉄軌道車両の床面とは、できる限り平らにすること」、3.で「プラットホームと鉄軌道車両の床面との隙間は、できる限り小さくすること」、また4.で「駅の出入り口からプラットホームへ通ずる経路について、エレベーター及びスロープにより高低差を解消すること」としています。
そして、車両についても鉄軌道車両の1.で「車いすスペースを設置すること」としています。
 前記の移動円滑化基準の一具体化が都電荒川線だと言えます。
 都電荒川線の全駅において、ホーム片方をスロープ化し、すべての車両に二か所の車いすスペースを設置していますし、電動車いすで単独自力乗降できます。
 しかし、十月十三日に、電動車いす使用の点検士(自称)二人が都電荒川線を点検してみると、問題点のあることが分かりました。 それは、ホームと車両との隙間とホームの車いす使用者の有効幅です。
 その日、都電荒川線王子駅に集合し、熊野前駅、三ノ輪橋駅、庚申塚駅、鬼子母神前駅で乗降・点検しました。すると、熊野前駅の車いす用乗降口当たりのホーム幅が一・二mしかなかったのです。東京都福祉のまちづくり整備基準の軌道停留所の誘導基準では「ホームの有効幅を一・四m以上とする」と規定しています(→車いすが転回するためには、最低一・四mの幅を必要とする。と説明しています)。
 具体的に言い換えると、ホーム幅が狭いとホームで転回できず、車両に乗り込むためには、車両に直線で入らなければ、車いすの前輪がホームと車両との隙間にはまってしまう可能性があるということです。現に、私(電動車いすの長さ=一・三一m)は熊野前駅で乗り込む時、ホームで直角に転回できず、斜めに入ろうとして、前輪が隙間にはまってしまいました。
 車窓チェックでは「東尾久三丁目・町屋二丁目・開業間近の荒川一中前」の各駅もホーム幅が狭そうでした。よく利用する学習院下駅の三ノ輪橋方面では、同じくホーム幅が狭いためにたびたび恐い目に遭っています。
 交通バリアフリー法がなかった時に、いち早くホームと車両との段差・隙間の解消化に向けて取り組んだホーム嵩上げ化による都電荒川線のバリアフリー化の試みは、車いす利用当事者との参画の下で、十分協議された所産というよりも、ホーム嵩上げ化以前のホームと車両との段差・隙間があまりにひどかったためと、ワンマン運転化で運転手が乗降介助できないため、また乗降介助しなくてもいいように、とりあえず(とは言い過ぎでしょうか)フラット化すれば、車いす使用者も単独自力乗降できるのではという観点で、でき上がった結果なのかもしれません。
 その証拠として、せっかく全駅フラット化がなされた後に導入された新型車両(八五〇〇系)の五両は、車両の床面が高く、車いす使用者の単独自力乗降はとても無理でした。「その車両が来て車いす使用者が乗れなくても運転手は介助せず、後から来る車両に乗ってもらうようにしている。その車両は座席レイアウトと定員が少ないのが不評で、あまり走らせていない…」(荒川車庫担当者)とのことでした。
 とにかく、都電荒川線が車いす使用者の単独自力乗降を現実化した、日本で最初の路面電車であることは銘記されるべきでしょう。

(いまふくよしあき アクセス東京代表)