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ほんの森

手動車いすトレーニングガイド

日本リハビリテーション工学協会車いすSIG訳

評者 成田すみれ

 日本リハビリテーション工学協会車いすSIGメンバー翻訳による本誌は、車いすの使い方について系統的にかつ実務的に解説したものです。
 車いすを身体機能の一部として日常的に使う人々にとっては、さまざまな環境状況下での操作が要求されます。平坦で整備された環境での移動ばかりではなく、段差、勾配、でこぼこ道など車いすにとってのバリアーにしばし遭遇します。このような条件にも耐えうる車いすを選ぶと共に、多様な環境での正しい使い方を身に付けることが必須要件です。
 この本は車いすの使い方についてのあらゆる対応が記載されていると言っても過言ではありません。車いす自体についての基本的知識から始まり、介助の依頼の仕方、利用者自身の限界の自覚、操作時の各種動作(体重移動や上肢の挙手)、ウィリー(移動方法を劇的に拡大する基本的操作)、そしてさらに圧巻なのは“操作法”として、各種建築物や道路状況、坂道や急勾配、階段や狭い出入り口、敷居や障害物、踏切、エレベーター・エスカレーターなどでの実際の操作について、イラストも交え分かりやすく解説されていることです。併せて緊急時の対応、特に転倒した際の起き上がり、避難方法、また特殊状況として走行経路の立て方や道路横断、夜間の安全走行などの記載は、車いす利用での生活が特殊なものではなく「普通の生活」と同様な諸条件やリスクを想定していることの証でもあります。旅行やハイキングなど社会活動での対応、また降雨や降雪など天候への配慮も併せて述べられていることも貴重です。
 この本の操作方法を取得するにはかなりの熟練と体力が不可欠であり、利用者自身の積極的な姿勢や努力、たとえばセラピスト(理学療法士や作業療法士)、また北米リハビリテーション工学協会公認のリハ技術支援者などから訓練を受けることも必要と助言されています。
 代表著者のピーター・アクセルソン氏は米国で自ら車いすを利用し、車いすや多くの支援機器の設計もしているエンジニアであり、ほかに車いすの処方・選定、トレーニング指導に専門的にかかわっているセラピストなども加わり書かれた本です。現在車いすを利用している人はもちろん、利用にかかわる専門家や介助者にとっても、非常に有用な内容ではないかと考えます。

(なりたすみれ 横浜市総合リハビリテーションセンター ソーシャルワーカー)