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列島縦断ネットワーキング

群馬
シンポジウム「IT社会と視覚障害者」の開催

山口浩

 私たちパソボラ・サポート群馬は、群馬県内をサポートエリアとし、障害をもった方のパソコン利用を支援するボランティア団体です。
 去る2000年10月29日、私たちは「IT社会と視覚障害者」と題するシンポジウムを、前橋市の群馬県社会福祉総合センターで開催しました。当日は、視覚障害者を中心に約60人が聴講しました。
 開催の趣旨は、コンピュータを使って就労している人の話しを聞く会として企画しました。パネラーとして、群馬県外から二人の方を招き、パソコンと視覚障害者の身近な問題を講演とパネルディスカッション形式で行いました。
 内容としては、毎日新聞総合メディア事業局企画室委員岩下恭士氏による「点字新聞からユニバーサロンへ」と、川崎パソコンサポートボランティア副代表林英幸氏による「視覚障害者の就労とパソボラ活動」の二つの講演、その後休憩を挟んで、テーマを「IT社会と視覚障害者」としたパネルディスカッションに移りました。
 岩下氏の講演では、失明のきっかけから話が始まり、毎日新聞社に入社してからの苦労談やパソコンを活用することによる業務の効率化と視覚障害者が受ける恩恵などについてをお話いただいたあと、ユニバーサロンと呼ばれるWebページ(http://www.mainichi.co.jp/universalon/)について講演していただきました。また、林氏からは、ご自身が視覚障害者で仕事をしていることから、主に視覚障害者の就労について、ご自身の例を挙げてお話いただきました。勤務している企業がコンピュータの製造販売をしているメーカーであること、そこで社内のコンピュータを使って電子メールのやり取りをしたり、ホームページにアクセスしたり、ネットワークサービス部門で社内の人間を相手にしてシステム管理をしていることなどを講演していただきました。
 後半のパネルディスカッションは、聴講者やパソボラ・サポート群馬代表平田氏の質問に、パネラーが答えるという形で行われました。聴講者からの「今、全国的に、パソコンボランティア団体が増えてきている。それと、行政もかなり理解を示してきたが、実際には公的な機関での支援やサポートがなかなか受けられない現状がある。こうした中で今後、特に視覚障害者のパソコン利用の対応をどう考え、どうあるべきか、パソコンボランティアが主になるべきなのか、公的機関が主になるべきなのかの考えをうかがいたい」という質問に対し、岩下氏は「こういう活動をボランティア任せにしていることが、本当はおかしいのではないか。昨年、郵政省のほうで『情報バリアフリー懇談会』があり、そこでもバリアフリーを進めるのに公的支援が必要だという話は出たが、具体的な実施手段として『ボランティアの活用』ということが言われていた。行政として、そういうボランティアの人たちに、当時は何も支援がなく、ボランティアの草の根的な活動に任せていること自体、おかしなことである。その一方で、晴眼者向けにパソコン教室などメーカーがビジネスとして、支援を行っている」といった矛盾点を挙げたあと、「支援活動に見合うだけの最低限必要な経済的保証がないものは行政がするとか、あるいはそういうものがビジネスとして成り立つような社会でないと、バリアフリーやユニバーサルデザインには進まない」と結びました。
 また林氏からは「政府も『IT、IT』と言うのなら『だれでも使えるインターネット』になってもらわないと困る。ビジネスとしてマーケットは小さいが、そういうことを進めるために公的な援助や、就労の面を考えて支援する気があるのなら、公的な訓練を受けられる場所の整備などが必要だと思う。パソボラは何がよいかと言うと、私たちが設立当初にめざしていたものに、『自転車で通えるサポート』というのがあった。要するに近所付き合いの延長のようなもので、『ちょっと困った』とか『こういう時に教わろうか』など、身近なところで助けてくれる部分が、私が思っているパソボラである。最近では、NPO法人もできているが、こういうことがパソボラの目的だと思う」との話がありました。
 お二人の講演を聴いて、群馬県ではなかなか経験することのできない仕事や環境での活動ぶりを知ることができ、講演内容も専門的なものではなく、一般的な分かりやすい内容でたいへん印象に残りました。
 特に、林氏の講演の中で「就労、就職にかかわらず、これからの時代、視覚障害者も漢字かな混じり文がある程度書けるとか、メールを使えるとかが、生活や就労の面でも、他の晴眼者と一応、同じスタートラインに立てる」というお話が印象的でした。
 しかし、現在、群馬県内には視覚障害者がパソコンを使った就労技能習得のための勉強や訓練が受けられる場所、情報は全くありません。東京などでは、技能習得のための施設もあると聞きますが、IT社会と言われる今こそ、県内にも視覚障害者がパソコンを使った就労のために必要な技能を身につけられる場所、あるいはそれが現実に生かせるかどうかの評価の場所ができてほしいと思います。そして、障害者を含むすべての人の間に「パソコンは、生活の中で利用できる便利な道具である」という理解が広まることを願っています。

(やまぐちひろし パソボラ・サポート群馬会員視覚障害サポート担当)