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元旦リアルタイム字幕送信事業について
■リアルタイム字幕とは

金丸園美

 現在、日本では聴覚障害者など音声を聞くことのできない人がテレビ放送を楽しむための字幕の付いた番組は大変限られています。インターネットなどのネットワークを使って音声を字幕化し送信する活動が、一部のボランティアの手によって行われていました。
 しかし、テレビの音声を字幕化して送信するためには、テレビ放送局や脚本家などのいわゆる著作権権利者にそのつど許諾を得なければなりませんでした。見たい番組をみつけて、放送局に許諾を得たいと連絡しても、著作権の権利関係は複雑で返事が届くまでにかなりの時間がかかり、結局は放映に間に合わなかったり、あるいは、放送局からは、字幕の誤字などの責任はだれがとるかと迫られて終わるのが現状でした。
 障害者団体等の運動により、2000年に著作権法が一部改正され、「専ら聴覚障害者の用に供する」目的で、テレビ番組など「放送され、又は有線放送される著作物の音声」に字幕を付け、インターネット送信を行うことが、政令で指定された事業者であれば、特別の許諾を得ずに行うことができるようになりました。これがリアルタイム字幕です。
 この改正著作権法は、2001年1月1日に施行されました。
 障害当事者および関係団体19団体で構成する障害者放送協議会の中で、この著作権法問題を扱う放送研究委員会では、著作権法改正および政令に向けたガイドラインの作成について文化庁と度重なる交渉を進めてきました。その結果、著作権法施行令の一部を改正する政令が、平成12年12月5日閣議決定され、12月8日に政令第504号として公布されました。この政令でリアルタイム字幕を行うことができる者(以下、リアルタイム字幕送信事業者)を次のとおり定めています。

 いわゆる聴覚障害者情報提供施設を設置する者(国、地方公共団体又は公益法人に限る)(第2条第1項第1号)と聴覚障害者のために情報を提供する事業を行う公益法人のうち、技術的能力および経理的基礎等を勘案して聴覚障害者のための自動公衆送信を的確かつ円滑に行うことができるものとして文化庁長官が指定するもの。(第2条第2項第2号)

 日本障害者リハビリテーション協会では、放送研究委員会の合意に基づき、法施行日(平成13年1月1日)に合わせて無許諾でテレビ音声を字幕化し配信するため、リアルタイム字幕送信事業者の指定を受ける準備を、急きょ年末に進めました。
 文化庁からは、団体に関する書類と団体事業におけるリアルタイム字幕事業の位置付けに関する書類を求められ、後者については、1.リアルタイム字幕事業の規則等に関する事項、2.リアルタイム字幕送信システムの概要、責任主体の明示方法、パスワード等のアクセスコントロール方法など、3.字幕制作者の確保の方法、4.利用者の把握方法、利用者への周知方法、5.組織体制に関する事項として、リアルタイム字幕にかかる組織構成と責任体制、権利者および利用者からの苦情処理窓口とその対応体制、6.リアルタイム字幕送信事業の具体的な開始年月日、7.事業収支予算書、などの提出書類を準備し、同時並行して通訳IRCのソフトを基礎にしたシステムづくりを行いました。
 また、1月1日に実際に入力を担当する字幕制作者の確保および研修を全国要約筆記問題研究会と協力して行いました。そして、まさに年の瀬も押し迫った12月27日に文化庁長官より事業者の指定を受けることができました。

■リアルタイム字幕送信基準大綱

●事業者

 リアルタイム字幕を送信する責任主体(指定事業者)は、改正著作権法により、「聴覚障害者の福祉の増進を目的とする事業を行う者で政令で定めるもの」となっており、別に定める「リアルタイム字幕送信基準大綱」(以下、大綱)に基づいて、この事業を行う責任主体となることができます。現在、全国の聴覚障害者情報提供施設のほか、指定事業者としては社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会と財団法人日本障害者リハビリテーション協会がなっています。

●リアルタイム字幕の入力者(字幕制作者について)

 前記の指定事業者が指定した「リアルタイム字幕の制作に実際に従事する人々」の要件は、先に述べた「大綱」で規定されています。聴覚障害者のニーズと特性を理解し、音声を聞きながら並行して要約・入力し、文字として聴覚障害者に伝達する方法、いわゆるパソコン要約筆記の方法に熟知していること。制作上、知り得た情報は、第三者にもらしてはならない、等の要件と専門知識・技術と倫理を有するものとされています。

●リアルタイム字幕の利用者

 改正著作権法によると、リアルタイム字幕は、「専ら聴覚障害者の用に供するため」に送信することができるとされています。ここでいう「聴覚障害者」とは、身体障害者福祉法による聴覚障害者とは必ずしも一致しません。「放送され、又は有線放送される著作物の音声」を聞くことが困難な人で、必要があれば身体障害者福祉法による聴覚障害者の認定を受けていなくても、リアルタイム字幕を利用することができます。

■受信する方法と必要な機材

 リアルタイム字幕の送信は、当面はインターネットのチャットのシステム機能である「IRC」の機能を用いて行われます。テレビの受像器とは別にパソコンを準備し、パソコンの画面に字幕画面を表示させます(詳しくは日本障害者リハビリテーション協会のホームページ http://www.normanet.ne.jp/~rtcap/ をご覧ください)。

■今後の取り組み

 障害者放送協議会では、すべての放送が障害のある人もない人も共に享受できるようになることを目標に活動しています。
 今回、著作権法の一部改正によって、視覚障害者のための字幕データをインターネット配信することも可能になりました。しかし、これらの結実は現時点で著作権権利者との合意に至った範囲で法的な壁を崩したもので、著作権法の改正運動はまだ一歩を踏み出したばかりと言えます。リアルタイム字幕のインターネット配信サービスは、あくまでも経過的な措置であり、本来は放送局がテレビ放送に字幕を付けるべきと考えています。
 テレビやインターネットは文化を楽しむことができるとともに、私たちに重要なニュースを提供してくれます。特に、緊急災害時の情報は知ることができる人と知る手段がない人とでは、生死を分けることも考えられます。
 これから、残された課題について、障害をもつ視聴者の声を集約し、著作権権利者および文化庁また多くの方々と協働し調査研究を続け、アクセシブルな放送・通信の実現に向けて働きかけて参ります。

(かなまるそのみ 日本障害者リハビリテーション協会企画課)


■元旦字幕送信番組

 (事業者:財団法人日本障害者リハビリテーション協会)
 (1)ゆく年くる年(NHK)
 (2)総理年頭記者会見(NHK)
 (3)HEY!HEY!HEY!(フジテレビ)
 (4)さんまのまんま(フジテレビ)
 (5)世にも奇妙な物語(フジテレビ)
■事業者:社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
 毎週月曜日、夜9時よりフジテレビ「HERO」
 連続字幕配信実施中